【試乗記】BYDドルフィン ロングレンジ(FWD)
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BYDドルフィン ロングレンジ(FWD)
筋書きはできている
BYDドルフィンのポジション
意外な展開に、虚を突かれた。これはどうやって説明すればいいのだろう。なにせ相手は、クルマ全然知らない人間だ。BYD独自のブレードバッテリーが、とか、内装の質感が、とか説明してもまるで伝わらない。やむを得ず、たとえ話を用意した。
「まずまずおしゃれな人がいるとします。どれくらいおしゃれかというと、スーツを量販店では買わずに、セレクトショップで店員さんと相談しながら仕立てるぐらいの人です。それくらいファッションに気を使う人でも、白いワイシャツは消耗品だから普段はユニクロでいいや、という人もいます。実際、ユニクロのワイシャツでなにも問題はない。BYDのドルフィンは、ユニクロのワイシャツぐらいのクオリティーの高さです」
この話をしても、知人はイマイチ納得していない様子だ。そうだ、彼はクルマだけじゃなくて、ファッションにもそれほど興味がなかった。で、別のたとえ話を考えた。
「かなりコーヒーが好きな人がいるとします。どれくらい好きかというと、自分でローストまではしないけれど、毎朝豆をひいてコーヒーを入れるぐらいのコーヒー好きです。そういう人が寝坊してコーヒーを入れる時間がないときに、セブン-イレブンでコーヒーを買うとします。そりゃあ自分で入れるコーヒーのほうがおいしいけれど、これも悪くはない、コーヒーを飲めるだけ幸せ、ってなると思います。BYDのドルフィンは、セブン-イレブンのコーヒーくらいのレベルは十二分に確保していると思います」
こう説明するとクルマにもファッションにも興味はないけれど、食いしん坊ではある知人は、ようやく「なるほど!」とピンときたようだった。要するにBYDドルフィンは、クルマ好きが趣味で乗るにはいろいろツッコミどころがあるけれど、実用車として使うならなんの不満も抱かないレベルにある。
パワーは標準モデルの倍以上
日本に入ってくるのは、航続距離が400kmの「ドルフィン」と、より大容量のバッテリーを積んで476km走る「ドルフィン ロングレンジ」という2つの仕様で、今回試乗したのは後者だった。
ドルフィンの最高出力が95PSであるのに対して、ドルフィン ロングレンジは204PSだから、航続距離だけでなくパワーにも倍以上の差がある。参考までに、「ホンダ・シビックLX」の1.5リッターターボエンジンの最高出力は182PSで、「シビック タイプR」の2リッターターボエンジンは330PSと、約1.8倍。なにが言いたいかというと、ドルフィンとドルフィン ロングレンジのパワーの違いは、シビックとシビック タイプRを比べた場合よりも差が大きい、ということである。
ドルフィン タイプR、ではなく、ドルフィン ロングレンジに乗り込む前に、周囲をぐるっと回ってイルカが泳ぐ姿をモチーフにしたというエクステリアをチェックする。「イルカがモチーフ」という先入観もあって、フロントマスクを見ているとテレビドラマ『わんぱくフリッパー』のつぶらな瞳を思い出す。コロンとしたフォルムと合わせて、小動物的な愛されキャラだと思う。
いっぽうインテリアは、イルカの胸ビレに着想を得たというドアハンドルや、波をモチーフにしたエアコンの吹き出し口など、かなりクセが強めだ。エクステリアと違って、内装は好き嫌いが分かれそうだ。ただし、コロンとしたフォルムは室内の広さに貢献していて、後席のレッグスペースと頭上空間には余裕がある。成人男性が正しい姿勢で座ることができる。
細かく見れば不満はあるが
まず、望外に乗り心地がいい。路面の凸凹を通過する際には、きれいに足を動かして衝撃を緩和し、通過した後は一発で揺れを収める。路面の悪いところを走り続けても室内でガタピシすることもないから、走りの質感が高いと感じる。
ハンドルの手応えもごく自然で、タイヤの向きや路面の状況といった情報をクリアに伝えてくれる。204PSもあるFWD車ではあるけれど、コーナーでグンとアクセルを踏み込んでもトルクステアでハンドルがとられるようなこともない。
重箱の隅をつつけば、最高速度120km/hの区間で目いっぱい走ると、ややダンピングが足りないかな、と感じる。ちょっとした路面の不整を乗り越えた後のボディーの揺れの収まりが悪い。ADASも、追従機能のACCは文句ないけれど、レーンキープ機能のハンドル操作への介入はタイミングがやや唐突だし、ちょっと強すぎるように感じる。ただしあくまで、重箱の隅をつつけば、の話で、市街地から高速道路まで、実用面に不満はない。
不満はないどころかびっくりしたのが、オーディオの音のよさ。高速走行時も風切り音やロードノイズはよく抑えられていて、静かな車内で高音質を楽しめる。以前に取材で試した、ファーウェイの折りたたみスマホの出来のよさに感嘆したことを思い出した。
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この試乗車のボディーカラーは「アトランティスグレー×ブラック」。ツートンカラーは「ロングレンジ」でしかチョイスできないようになっている。
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ダッシュ中央のタッチスクリーンのサイズは大きいほうの「iPad Pro」とほぼ同等の12.8インチ。輝度も精細感も十分なハイクオリティーなディスプレイだ。
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アイコンを長押しすると配置を自由に変えられる。日常的にスマートフォンを使っている人であれば直感的な操作が可能だ。
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「ハイ、BYD」で起動する音声アシスタント機能も優秀。窓の開閉は「半分だけ」などの要求にも応えてくれる一方で、ドライブモード切り替えなどの許可されていないオーダーには「それはできません」と反応してくれる。
日本市場で認められたい
1995年創業のBYDは、1998年に日本企業との取引をスタートして、東芝のラップトップPCのバッテリーなどを納めてきた実績があるという。2003年に自動車産業に参入してからは、BEVのバスや電動フォークリフトを日本市場に納入している。2022年の時点では、日本のBEVバスの約7割がBYD製とのことだった。つまり黒船のように突然やって来たわけではなく、何年もかけて、じわりじわりと浸透しつつあるのだ。
東福寺社長は三菱自動車で海外市場を担当して経験を積んだ後に、フォルクスワーゲン グループ ジャパンに移り、フォルクスワーゲン グループ ジャパン販売で代表取締役社長を務めた方だ。つまり日本の自動車ビジネスや、日本市場における輸入車の販売を知り尽くした方である。
その東福寺氏がおっしゃるには、日本の顧客には、廉価な小型車であっても高品質を求める特徴があるという。海外では安いから仕方がない、と見すごされることでも、日本では許されない。だから時間がかかっても日本市場で認められることは、BYDの成長の糧になるとのことだった。
つまりBYDは腰を据えて、本気で日本で商いをするということだ。クルマの出来具合と合わせて、BYDの動向から目が離せない。突然やって来た黒船ではないからこそ、国内外の自動車メーカーにとって脅威ではないだろうか。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4290×1770×1550mm
ホイールベース:2700mm
車重:1680kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)/5000-9000rpm
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)/0-4433rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ブリヂストン・エコピアEP150)
一充電走行距離:476km(WLTCモード)
交流電力量消費率:138Wh/km(WLTCモード)
価格:407万円/テスト車=407万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:986km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:986km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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