【試乗記】スズキ・スイフト ハイブリッドMZ(FF/CVT)
極められた普通
スポーティーだけじゃない
スズキとしては、こういう発想こそが困りものだったのだろう。スポーティーというのはもちろんほめ言葉なのだが、そこが強調されすぎると購買層が限られてしまう。スイフトはコンパクトカーというジャンルで「トヨタ・ヤリス」「ホンダ・フィット」「日産ノート」などの強力なライバルたちと戦わなければならないのだ。幅広いユーザーに向けてアピールすることが大切である。
自分も含め、スポーティースポーティーとなんとかの一つ覚えのように言い続けてきた自動車メディアも反省しなければならない。スイフトはグローバルに展開する戦略商品であり、累計販売約900万台を誇る基幹車種なのだ。スポーティーだけが取りえではない。プレス資料には「エネルギッシュ×軽やか 日常の移動を遊びに変える洗練されたスマートコンパクト」がコンセプトだと記されている。いい意味で“普通”であることを追求しているのだ。テーマは「脱スポーティー」である。
すでに試乗した人たちに印象を聞くと、誰もが称賛の言葉を発する。でも、どこがよかったのかを話してくれない。「普通にいい」と言うだけなのだ。加速がいいとかハンドリングがキビキビしているといった具体的な表現をしてくれなくて閉口した。なぜみんなボキャブラリーが乏しいのかといぶかしんだが、乗ってみたら分かった。普通にいいのである。
万人受けで賛否両論のデザイン
ボディーサイズは先代とほとんど同じで、5ナンバーを守った。コンパクトカーの普通である。日本の交通事情に合わせた最適サイズということだ。最小回転半径も4.8mと変わらず、開発陣は取り回しのよさがこのクルマにとって大切であることを理解している。試乗したのはマイルドハイブリッドモデルで、車重は950kg。軽量であることも重要な性能の一つだ。
エクステリアデザインも普通になった。これは、必ずしもほめることにはならないかもしれない。先代モデルはある種の異形ともいえる特異なフォルムで、熱狂的な支持を集めた一方で食わず嫌いも生んだと思う。新型はよくまとまっているものの、突出した個性はない。スポーティーに振ったヤリスやゆるふわ系のフィットに比べ、万人受けする普通を狙っているように見える。
インテリアはポジティブな普通志向である。見やすくて使いやすく、適度にタイトな囲まれ感が心地いい。ダッシュボードやドアトリムはほぼ全体が硬質な素材なのだが、デザインの工夫で上質感が演出されている。ブラックとアイボリーの構成に、シルバーのラインで変化をつけた。ピアノブラックは最小限で、カメラマンにはありがたい仕様である。
加速感とエンジン音がシンクロする
燃費エンジンといわれるとパンチがないのではないかと心配になる。実際に最高出力や最大トルクの数値は先代よりダウンしているのだ。でも、なぜかパワー不足は感じなかった。もちろん、目の覚めるような加速を楽しめるわけではない。気持ちがいいのは、アクセルを踏んだ際にクルマが意図と同じ動きをするからだろう。加速感とエンジン音がうまくシンクロしているのだ。
CVTも新開発で、エンジンとの相性がいいようだ。街乗りでスムーズであるだけでなく、ワインディングロードでも活発に走る。シフトパドルが装備されているが、Dレンジでも十分に楽しい。加速では着実にエンジンのパワーバンドを効率的に使い、小気味のいいレスポンスがリズムを生む。コーナリングではシャキッとした動きが心を躍らせる。スポーティーを強調していなくても、やはりスイフトはスイフトだ。
メーター内に示されるエネルギーモニターを見ていると加速時にはモーターが作動しているのが分かる。燃費には効いているのだろうが、体感できるほどのアシストではない。下り坂では回生機能ですぐに容量が満杯になるぐらいの小容量で、こまめに介入して効率を高めているのだろう。実用的な表示とは別に、トルクとパワー、アクセル開度、横Gを示す機能もある。やはりスポーティーさを求めるユーザーに向けてのサービスなのだろうか。
Z世代の価値観を意識
単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた新開発の衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポートII」を全車に採用するなど、先進安全装備も充実した。これは、もう一つのテーマ「Z世代への訴求」を意識した改良だという。Z世代とはデジタルネイティブな若者たちで、ブランドにはこだわらず事前にしっかり情報収集してモノを選ぶそうだ。バブル世代のオヤジにはZ世代の気持ちは分からないが、彼らの価値観がクルマを進化させるならいいことである。
多様性を大切にするのもZ世代の特徴だ。宮藤官九郎脚本のドラマ『不適切にもほどがある』では、昭和から令和にタイムスリップした阿部サダヲが「俺の価値観も認めてくれよ! それが本当の多様性」と叫んでいた。スイフトはスポーティー命というファンの期待を裏切らず、快適性と実用性を求める新たなユーザーにもアピールできる仕上がりになっている。
スイフトについて話していて、うっかり「スイスポ」と発音してしまうことが何度かあった。スイフトといえば「スイフトスポーツ」でしょ、という思い込みからまだ逃れていなかったことをおわびしなければならない。「普通にいい」ことの素晴らしさが、まだ身にしみて分かってはいないようである。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3860×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:82PS(60kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:108N・m(11kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1100rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:24.5km/リッター(WLTCモード)
価格:216万7000円/テスト車=256万1130円
オプション装備:ボディーカラー<バーニングレッドパールメタリック×ブラック2トーンルーフ仕様車>(9万9000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション スズキコネクト対応通信機装着車(13万3100円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン、スタウト>(1万7820円)/ワイヤレス充電器(4万9830円)/ETC2.0車載器(4万6640円)/ドライブレコーダー<前方録画用>(4万7740円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2727km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:473.8km
使用燃料:28.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.8km/リッター(満タン法)/18.6km/リッター(車載燃費計計測値)
スズキ スイフトの試乗記事
-
-
スズキ・スイフト 誰でも軽快な走りが楽しめる車
2024.04.13 クルマ情報
-
-
-
【スズキ スイフト 新型試乗】5ナンバーサイズに収めたスイフトならではの見識…河村康彦
2024.04.08 クルマ情報
-
-
-
スズキ・スイフト 完璧なエントリーモデル
2024.04.06 クルマ情報
-
-
-
【試乗記】スズキ・スイフト ハイブリッドMZ(FF/CVT)
2024.03.22 クルマ情報
-
-
-
【スズキ スイフト 新型試乗】「スポーティの壁」は取り払われたのか?…中村孝仁
2024.02.07 クルマ情報
-
-
-
【スズキ スイフトスポーツ 新型試乗】あれこれ言えばキリはないが、楽しさは最高評価…中村孝仁
2019.02.10 クルマ情報
-
スズキ スイフトに関する情報
-
-
MT車の魅力を教えてくれた!スズキ スイフトと楽しむジムカーナでの疾走
2024.04.05 愛車広場
-
-
-
ディーラー仕立てのカスタム仕様で楽しむスイフトスポーツ
2024.04.03 愛車広場
-
-
-
スイフトスポーツで行く!私のクルマ道
2024.04.01 愛車広場
-
-
-
“走りの良さ”に対するコスパが高評価、スズキ スイフトに特別賞…いいクルマアワード2024
2024.03.14 ニュース
-
-
-
クルマ屋さんが選ぶ「いいクルマアワード2024」発表!…大賞はプリウスが連続7回目
2024.03.08 ニュース
-
-
-
【スズキ スイフト 新型】色、コントラスト、そして「3D」で表現した新世代のインテリアデザインとは
2024.03.03 ニュース
-
-
-
共に走った距離は32万5000km。17年連れ添ったスイフトスポーツとの“これまで”と“これから”
2024.02.24 愛車広場
-
-
-
【スズキ スイフト 新型】デザイナーが語る、「出来上がったデザインを一度“仕切り直した”」その理由
2024.02.10 ニュース
-
-
-
【スズキ スイフト 新型】「クルマとの距離縮めたい」チーフエンジニアが語る将来のユーザーへの想いとは
2024.02.05 ニュース
-
連載コラム
最新ニュース
-
-
【ホンダ ヴェゼル 改良新型】CMFデザイナーが語る、新グレード「HuNT」にこめた「気軽さ」の表現とは
2024.05.02
-
-
-
季節の変わり目にエアコンが発する悪臭の正体とは? DIYで解決!~Weeklyメンテナンス~
2024.05.02
-
-
-
BMW 4シリーズ グランクーペ が新フェイスに、改良新型を発表…北京モーターショー2024
2024.05.01
-
-
-
トヨタがインドで新型SUV『アーバンクルーザー・タイザー』を発表…Aセグメント再参入
2024.05.01
-
-
-
メルセデスAMG『E53』新型、612馬力の電動セダンに…欧州受注開始
2024.04.30
-
-
-
この顔で中国EV市場に“爪痕”残すか? 日産『エピック・コンセプト』は26年までに市販へ…北京モーターショー2024
2024.04.30
-
-
-
トヨタ・クラウンのアウトドアカスタム「LANDSCAPE」がお披露目…移動時間すらも記憶に残るような車に
2024.04.30
-
最新ニュース
-
-
【ホンダ ヴェゼル 改良新型】CMFデザイナーが語る、新グレード「HuNT」にこめた「気軽さ」の表現とは
2024.05.02
-
-
-
季節の変わり目にエアコンが発する悪臭の正体とは? DIYで解決!~Weeklyメンテナンス~
2024.05.02
-
-
-
BMW 4シリーズ グランクーペ が新フェイスに、改良新型を発表…北京モーターショー2024
2024.05.01
-
-
-
トヨタがインドで新型SUV『アーバンクルーザー・タイザー』を発表…Aセグメント再参入
2024.05.01
-
-
-
この顔で中国EV市場に“爪痕”残すか? 日産『エピック・コンセプト』は26年までに市販へ…北京モーターショー2024
2024.04.30
-
-
-
メルセデスAMG『E53』新型、612馬力の電動セダンに…欧州受注開始
2024.04.30
-