【試乗記】トヨタ・ランドクルーザー“250”プロトタイプ
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トヨタ・ランドクルーザー“250”ZXプロトタイプ(4WD/8AT)/ランドクルーザー“250”ZX“ファーストエディション”プロトタイプ(4WD/8AT)
本物は色あせない
「このコースを走るんですか?」
なんて前振りすると、「そんなこと言ったって、ランクル買えないじゃん!」という声が聞こえてきそうだ。そして内心では筆者も、同じように思っていたりする。いいなと思っても買えないモデルを紹介するのって、つらいよね。だけれど買える買えないの話は、ここではひとまず置いておきたい。なぜなら今回の舞台は超本格的なオフロードコースであり、実はそこに「買える買えない問題」の答えさえもが、隠されていたと筆者は感じたからである。
さなげアドベンチャーフィールドが初めてだった筆者は、とっても驚いた。特に前半コースには、「本気でここ登らせるつもり!?」と思わずこぼしたほど、強烈な岩場の急斜面が含まれていたからだ。聞けばそれでも通常よりは難易度を低めたコース設定にしているとのことだったが、それにしても「新車でランクル買って、こんなところ走るユーザー、いないでしょ!」と思った。
しかしトヨタの開発陣は、至って大真面目なのだ。この試乗会が公道でのオンロードドライブとならなかった背景には、試乗車を登録してナンバーを取得する時間がなかったという理由も裏にはあったようだが、「ランクルを理解してもらうには、まずはオフロード性能からだと思っていた」と真顔で力説するのである。
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2023年8月に世界初公開、2024年4月に日本で発売された「ランドクルーザー“250”」。既存の「ランドクルーザー プラド」が「ランドクルーザー“300”」の弟分的な存在だったのに対し、この“250”は「質実剛健を追求したランクルファミリーの中核モデル」とされている。
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クルマの姿勢を把握しやすい、水平基調のインストゥルメントパネルまわり。左右のベルトラインは「ランドクルーザー プラド」(150系)より約30mm低められており、側方の視認性が向上している。
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シート表皮はエントリーグレードの「GX」のみファブリックで、その他のグレードはすべて本革。GX以外のグレードでは、前席にシートヒーターやベンチレーション機能も装備される。
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試乗会場に並べられた「ランドクルーザー」ファミリーの各モデル。写真向かって右端がヘビーデューティーモデルの“70”、同左奥が“ランクルの象徴”とされる“300”、中央の2台が“250”だ。日本市場に3系統のランクルが勢ぞろいするのは、2014年に“70”が限定販売されて以来のこととなる。
オフロードでの洗練された走り
強力なエンジンブレーキとフットブレーキを併用しながら、急な坂道をゆっくりと降りる。その乗り心地は砂漠のロールスならぬ荒れ地のレクサスといった高級感で、リアの編集部H君からも「乗り心地がすごくいい!」と歓喜の声が上がった。
肩慣らしのモーグルは、まったくもって危なげがない。対角線上の浮いた車輪にブレーキをかけて、接地輪のトラクションを稼ぐその制御は、ブレーキのかけ方がひときわ緻密だ。音にすると“グゴゴゴゴ……”(ブレーキをかける音)からの“ゴリゴリゴリ!”(トラクションがかかる様子)ではなく、“クココココ……”からの“グイグイグイッ!”といった具合に、スマートにこぶを乗り越えていく。
サスペンションストロークは、後日紹介する「ランドクルーザー“300”」と比べてしまうと、ちょっと短め。もっともアッチは「GRスポーツ」ということで専用のダンパーが装備されていて、フロントの1輪が700mm(!!)くらい持ち上がっても他の3輪が浮かないほどの超ロングストローク仕様だったというから、比べてしまうのは少しかわいそうかもしれない。“300”が絶対王者なら、“250”はハイスタンダードといった感じである。
もうひとつ感心したのは、ステアリングフィールだ。“250”はランクルとして初めて、電動パワーステアリング(EPS)を装備した。オフロードにおけるEPSのメリットは、路面からのキックバックを電動の反力制御で打ち消せることだ。つまり車体が岩を乗り越えて結構激しく揺れていても、ハンドルはぶれないからとても操作しやすい。正直これが油圧式に電動アシストを加えたランクル“300”(「VX」「ZX」「GRスポーツ」のみ)のパワステより優れているのかと聞かれたら、筆者の経験だと甲乙はつけられない。今後“300”がフルEPSになったとしたら、そのほうが効率的ということなのだろう。
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モーグルセクションへ挑む「ランドクルーザー“250”ZX」。ZXグレードは快適装備が充実するだけでなく、「マルチテレインセレクト」や「SDM」、電動リアデフロックも搭載されており、悪路走破性も高められている。
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「SDM(Stabilizer with Disconnection Mechanism)」とは、状況に応じてフロントスタビライザーの締結を解除できる機能で、フロントのホイールトラベルを大幅に延ばすことができる。
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「ZX」グレードに備わる「マルチテレインセレクト」のコントローラー。「クロールコントロール」作動時には、速度の調整もこちらのダイヤルで操作する。
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センターコンソールに備わるトランスファーの切り替えスイッチ。ローレンジのギア比は2.566。「マルチテレインセレクト」の走行制御は、「H4」モードでは「オート」「ダート」「サンド」「マッド」「ディープスノー」から、「L4」モードでは「オート」「サンド」「マッド」「ロック」から選択可能となる。
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「ランドクルーザー“250”」のホイールアーティキュレーション(フロント・リア平均値)は、既存の「ランドクルーザー プラド」(150系)より約10%拡大しており、「SDM」が装備された「ZX」ではさらに10%拡大している。
岩登りのセクションでは感動すら覚える
助手席のエンジニア氏の指示にまるっと従い、1つ目の岩を乗り越える。ちょっと大きくない? と思ったら、案の定“ガッツーン!”と底を打った。ものすごく大きくて、とっても嫌な音だ。うぅ……もう、帰っていいですか?
しかし氏は、「大丈夫です、大丈夫」と、まったくそんなことを気にかけない。そのまま「あっちです」「ここを真っすぐ」とラインを指示して、最後の急斜面にたどり着いた。試乗車が何台も通って砂ぼこりを敷き詰めた岩肌はかなり滑りやすく、最初はあっけなくスタックした。……もう、運転代わってもらっていいですか?
少しバックして態勢を整え直し、再びトライ。
「ちょっと右に切って……上がったら(ステアリングを)真っすぐで。アクセル緩めないで、そのまま踏み続けてください」
こうした路面を無事に走り切るコツは、トラクションを途切れさせないことだ。アクセルを深すぎず、しかし浅すぎず踏み込んで、タイヤを少し滑らせ気味に保つ。するとブレーキが内輪をつまみ、MTSがモードを瞬時に切り替えまくり、“250”がグイグイ登っていく。思わず息を止めながら、右足に神経を全集中。スーパーローのギア比でも、2.8リッター直列4気筒ディーゼルターボは従順だ。
おぉ、おおぉ、おおおおぉ! 車内に響く雄たけびとともに、ランクル“250”は岩場を登り切った。このとき誓約書を出されたら、思わずハンコを押しただろう。そのくらい感動的な登頂だった。
ちなみに、こうした場面で「クロールコントロール」を使えば、アクセル操作が自動になる。勝手に進んでいくから、時に自分の意図とは反する動きもするが、ドライバーはステア操作に集中するだけで、この難しい岩場を効率的に登り切ることができる。
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巨大な岩を乗り越えながらの登坂に挑む。ガン、ゴンと車底をヒットさせながら進んでいくが、同乗するエンジニアは涼しい顔。モノコックのクルマでは考えられないタフネスだ。
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「ランクル“250”」には、もはやおなじみの2.7リッター直4ガソリンエンジン「2TR-FE」と、2.8リッター直4ディーゼルターボエンジン「1GD-FTV」を設定。後者は“70”と基本的に同じエンジンだが、出力を保ちつつターボを小型化して応答性を高めるなどの改良が加えられている。
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車体の底部をのぞき込むと、重要な溶接部は盾でガードされ、フレームのネジまわりも鉄製の峰で守られていた(写真)。エンジニアいわく「多くのクロカン車を見てきたけど、ここまでヒット対策を徹底しているのは『ランクル』だけ」とのことだ。
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泥と砂でコーティングされて難易度が増したロックセクションを走破。繊細なアクセラレーションにもきちんと応答する「1GD-FTV」エンジンの調律に感嘆した。
進化を続けるラダーフレーム
筆者は今回の試乗で、遅ればせながらラダーフレームの魅力を知った。ラダーといえば頑丈だが、その他の面ではモノコックにかなわない。そんな漠然としたイメージが、ランクル“250”によって払拭(ふっしょく)された。
エンジニア氏いわく、ランクル“250”/“300”で使われる「GA-F」プラットフォームは、「おそらく同じサイズのモノコックより断然剛性が高い」という。ちなみに先代にあたる「ランドクルーザー プラド」(150系)と比較して、フレーム剛性で50%、車両全体としては30%の剛性アップを果たしている。そして上屋にかぶせたボディーとの結合も、まるでモノコックボディーのように一体感が高い。
「だったらみんな、ラダーフレームにすればいいじゃないか」と言われそうだが、少なくとも整った道を走る人々の日常生活だと、そこまでの強度やボディー剛性は必要ないわけだ。だったら効率的につくれるモノコックボディーのほうが、コストも抑えられるというわけである。
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試乗の後半には林間コースを走行。ボディーは大柄だが見切りがいいので、取り回し性は良好。トルクフルなディーゼルエンジンで急な登坂路も難なく登ってみせる。
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「ZX“ファーストエディション”」に装備される丸目の「Bi-Beam LEDヘッドランプ」は、カタログモデルにも販売店オプションとして用意される(2024年7月発売予定)。なお「ZX」に装着するとアダプティブハイビーム機能がなくなってしまうので要注意。
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標準のタイヤサイズは、「ZX」が265/60R20、「ZX“ファーストエディション”」「VX“ファーストエディション”」(ディーゼル車)が265/70R18、「VX」「VX“ファーストエディション”」(ガソリン車)が265/65R18、「GX」が245/70R18となっている。
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走りに関する機能・装備はエンジンによっても異なる。たとえばATの段数はディーゼル車が8段、ガソリン車が6段となっており、また舗装路向けのドライブモードセレクト機能(エコ/ノーマル/スポーツ)や、「ダウンヒルアシストコントロール(DAC)+クロールコントロール」も、ディーゼル車にしか備わらない。
時を経ても色あせない存在
つまりランクルは、とってもカッコよくなったけどファッションSUVなんかじゃない。頑丈なクルマが必要な人たちのためにつくられていて、世界にはランクルを必要とする人たちが、まだまだたくさんいるのだ。
ちなみに、岩場でガッツリ打ちつけた下まわりをのぞくと、各部を接合するネジまわりには見事に鉄板のガードが設けられていた。あの程度の“ガツン”では、壊れるわけがないのである。
さて最後に肝心な「買える、買えない問題」だが、筆者は欲しいなら、トコトン待てばいいと思う。はやりものとしてランクルに乗りたいならそうも言ってられないだろうが、そのコンセプトを理解できる人には、時を経ようとランクルはランクルだからだ。実際、同じコースでプラドに乗っても、古さや制御の粗さを感じこそすれ、走りのタフさはまったく同じだった。ランクル“250”もマイナーチェンジしようが、もっと言えば代替わりしたとしても、その魅力と本質は揺るがない。だから本当に欲しいのであれば、しぶとく追い続ければいいのである。
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悪路でも存外に快適だったセカンドシート。6:4の2分割でリクライニング/タンブルが可能となっており、「ZX」グレードではシートヒーターやシートベンチレーション機能も装備される。
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3列目シートは2列目とのタンデムディスタンスを「ランドクルーザー プラド」(150系)から66mm広げるなどして、居住性を改善。5:5分割のリクライニング/タンブル機構付きで、「ZX」では電動式の格納・展開機能も装備される。
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荷室は、3列目シート使用時の床面長(奥行き)を「プラド」より25mm拡大。5人乗車時の荷室容量も、398リッターから408リッターにアップしている。
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世界170の国と地域で、累計1151万台以上が販売されてきた「ランドクルーザー」。なかでも“250”の属する“ライトデューティー”シリーズは、他のシリーズを上回る440万台が販売されてきた。これからも、世界中で人々の移動を支えていくことだろう。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4925×1980×1935mm
ホイールベース:2850mm
車重:2410kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:204PS(150kW)/3000-3400rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)265/60R20 112H M+S/(後)265/60R20 112H M+S(ダンロップ・グラントレックPT22)
燃費:11.0km/リッター(WLTCモード)
価格:735万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:63km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
トヨタ・ランドクルーザー“250”ZX“ファーストエディション”プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4925×1980×1935mm
ホイールベース:2850mm
車重:2410kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:204PS(150kW)/3000-3400rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)265/70R18 116S M+S/(後)265/70R18 116S M+S(ミシュランLTXトレイル)
燃費:11.0km/リッター(WLTCモード)
価格:785万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:1173km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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