真っ向勝負。 [レクサスIS 古山淳一 チーフエンジニア](1/4)

古山 淳一(ふるやま・じゅんいち)

愛知県出身。1979年名古屋大学卒。機械工学(自動車工学)専攻。1979年 トヨタ自動車工業に入社。海外技術部で国内から部品を輸出し現地で組み上げるCKD(コンプリート・ノックダウン)生産の技術支援を担当後、1982年から第1技術部にてランドクルーザーをはじめとするさまざまなシャシー開発を担当。1989年より製品企画部門に異動し、ピックアップトラックからSUV、ミニバン、コンパクトカーに至るまで、幅広い車種の企画に携わる。2008年、レクサス本部に異動し、ISの企画を手掛け、現在に至る。学生時代は自動車部に在籍。何よりも運転すること、走ることを愛し、KP61スターレット、AE86レビンなど「走って楽しいクルマ」をプライベートカーとして乗り継ぐ。現在はIS250"F SPORT"を愛車とする傍ら、自宅でもドライビングシミュレーターで運転技術を磨いている。​

基本的にレクサスの車名はそのクルマの個性を象徴する言葉のイニシャル(頭文字)2文字で表記される。たとえばLSは Luxury Sedan、GSはGrandtouring Sedanである。そして、ISはIntelligent Sport(知性的なスポーツカー)の頭文字をとった車名である。

国内でまだアルテッツアと呼ばれていた時代、そのクルマはまぎれもなく、コンパクトでキビキビ走るスポーツセダンであった。「走って楽しい」「スポーティデザイン」、それこそがISのDNAである。しかし、2005年、レクサスブランドに組み込まれた後、ISはレクサスを代表するスポーツカーとしての役割に加え、レクサスの中ではコンパクトで取り回しのいいクルマであり、価格的にもレクサスのエントリーモデルとして、幅広いニーズをカバーする役割を一手に担うことになった。それゆえ、そのスポーツセダンとしての個性はこれまで多少ぼやけていたことは否めない。
「New ISの開発にあたってはIS本来の個性をもっと際立たせていく。“ISらしさ”を十分に磨き上げ、欧州の競合車であるBMW、ベンツ、アウディ(ジャーマン3)とは一線を画すオリジナリティを備える必要があると考えました」と開発の陣頭指揮を執った古山淳一チーフエンジニア(CE)は語る。

長年、北米市場のSUVやピックアップトラックの分野でGM、フォード、クライスラーのビッグ3に対し、ハイラックスサーフや 4ランナー(北米専用モデル)で真っ向勝負を挑み、その後はヤリスSDやVIOSといったコンパクトカーの分野でヒュンダイやキアといった韓国勢と対決してきた古山CE。その戦いの最初はいつも競合車を尊敬し、国内と海外のマーケットの常識の違いを正しく認識し、謙虚になって、自分たちの車に不足しているもの、劣っていることを素直に受け入れることから始まった。その上で、改良を施し、けっして逃げることなく、相手と同じ土俵で真っ向勝負を挑み、勝利を手にしてきた。

そんな同氏が今度はNew ISでジャーマン3にプレミアム・スポーツセダンの分野において、真っ向勝負を挑む。「New ISは世界中のどこででも勝負できる、勝てるクルマになった」と語る古山CEが挙げたキーワード「FUN TO DRIVE(走る楽しさ)」には他の車とは違うなにか重みと自信の裏付けが感じられた。同氏の話を聞くうちに、「新しいISはきっとすごいに違いない」というそんな期待がわき上がってきた。​

クルマの開発において大事なことは商品力だ

シャシー設計時代を含めると、20年くらいSUVやピックアップトラックの開発に携わっていました。日本ではハイラックスサーフやランドクルーザーといったクルマは、そんなにメジャーじゃなくて、知名度も低いですね。でも、海外ではすごく評価が高く、国によっては、ランドクルーザーの方がトヨタより知名度が高かったりします。

たとえば、オーストラリアには「毎日、砂漠の道を200キロ以上走って食料品を買いにいっているのよ」というおばあさんがいます。そういう人たちは「ランドクルーザーじゃないと、命の保証がない。途中の砂漠でクルマが壊れたら命が助からない。だから、ランドクルーザーに乗っているのよ」といいます。

世間一般ではもちろん、トヨタの社内においても、SUVやピックアップトラックなどは知る人ぞ知るクルマで、悔しい気持ちもありましたが、一方ではこうしたクルマはお客様の命を預かっているのであり、オーストラリアのおばあさんのように、世界中に必要としている人がいるクルマなのだという誇りもありました。

そして、SUVなどの開発を通じて学んだことは、「クルマの開発において大事なことは商品力だ!」ということです。

ハイラックスやランドクルーザーでいえば、『頑丈で壊れない。どこでも走っていける』ということです。私たちは車を開発する際に、乗り心地を良くしたいとか、燃費向上のために車両重量を軽くしたいとか、社内的にコスト低減の要請があったりしますが、最後のところは、そのクルマの本来の商品力をしっかり確保したクルマを作っていかなければいけない。そのことを先輩や上司から徹底的に叩き込まれました。