【懐かしの名車をプレイバック】初代ソアラ 目の前に降臨したスーパーアイドル
一世を風靡(ふうび)したあのクルマ、日本車の歴史を切り開いていったあのエポックメイキングなクルマを令和のいま振り返ってみれば、そこには懐かしさだけではない何か新しい発見があるかもしれない。今回は、当時最高のステータススシンボルとして君臨した、日本初の本格パーソナルクーペ「トヨタ・ソアラ」の歴代モデルに注目する。
目次
1981年2月27日、スーパーグランツーリスモをうたう「トヨタ・ソアラ」がデビューした。それまでにない高級パーソナルカーの登場に日本中が沸き立ち、一大ブームが巻き起こった。それは“日本車の革命”といってもいい大きな出来事だった。
まさに未体験ゾーン
私、清水草一の個人的な話で恐縮だが、1962年に生まれ、自動車免許を取ったのは1980年だ。
そして、初代ソアラが登場したのが1981年。クルマの楽しさに目覚めたばかりの青年にとって、初代ソアラは、とてつもなく大きな存在だった。それはもう、革命に等しかった。
当時の日本車は、1970年代前半の排ガス規制強化でパワーダウンを余儀なくされ、1980年当時には、特別な性能を持つ日本車は消滅していた。
そんな時代に、その閉塞(へいそく)感をブチ破る存在が現れた。初代ソアラ(1981年2月発売)である。
うたい文句は、「ツインカム6/2.8リッター/170PS」。それだけで十分すぎるほど革命的であり、スペックだけで、文字どおり“未体験ゾーンへ”を実感した。
初代ソアラはよく、“元祖ハイソカー”と呼ばれるが、誕生当時を知る者として言わせてもらえば、ソアラはそんな軽薄な存在ではなかった。当時はまだハイソカーという言葉はなかったし、何かとひとくくりにされる存在でもなかった。圧倒的にずばぬけたクルマで、日本車の“神”と言ってもよかった。
常識を超えた美しいボディーデザイン
価格は、「2800GT」の4段ATで275万円(東京地区価格)。当時はものすごくぜいたくな値段に感じたが、自分はともかく親ならば(スイマセン)、絶対に手が届かない価格でもない気がした。
しかも初代ソアラは、当時の日本車では考えられないほど、スタイリッシュで美しいボディーを持っていた。
私が心を奪われたのは、清潔感あふれる水平基調のウエストラインと、台形の引き締まったキャビン、そしてトレッドの広さだった。前後サイズが195/70HR14のタイヤは、前後フェンダーほぼギリギリまで張り出していたのである。
当時の日本車の多くは、車体幅に対してトレッド幅が狭く、タイヤがフェンダーの奥に引っ込んでいて、それだけで随分カッコ悪く見えたが、ソアラは違った。大地を力強く踏ん張るワイドトレッド(前1440mm/後1450mm)は、まるで輸入車のようだった。
こんなにパワフルで、こんなに美しい日本車が登場するなんて……。それは、純真なクルマ好き青年の前に突如降臨した、スーパーアイドルだったのである。
女子大生が群がる
またまた個人的な話で恐縮だが、私の場合、なんとスーパーアイドルがわが家にやってくるという僥倖(ぎょうこう)に恵まれた。父がソアラを購入したからである。
それは、夢のようなクルマだった。有り余るパワー、カッコよすぎるデザイン、光り輝く「スーパーホワイト」(外装色)、ゴージャスな室内。世界初のデジタルメーターは未来そのものだった。スピードリミッターを外せば、最高速は200km/hを超えるという。
幼少期、道端に止められたクルマのスピードメーターをのぞき込んで、「このクルマ、180キロ出るんだ~」などとコーフンしていた私に、父は冷たい言葉を浴びせた。「本当は全然そんなに出ないんだよ」と。
そ、そうなの!? あのスピードメーターはウソなの!? 私は深い失望を感じたが、ソアラは違うらしい。デジタルメーターなのでフルスケールは分からないが、とにかく200km/h出るという!
ソアラに対する周囲の反応がまたすごかった。父にソアラを借りて所属サークルの練習に乗りつけると、女子大生たちが「乗せて乗せて~!」と群がった。本当の話である。私は女子大生4人をソアラに満載し、そこらを一周した。あんなことは初代ソアラでしか経験していない。
クルマ好きの青年にとってのみならず、初代ソアラは、全日本国民のアイドルだったのである。当時で言えば山口百恵だろうか。白く輝くソアラのスーパーホワイトは、山口百恵のウエディングドレスのようだった。
あらためて世界の広さを知る
ソアラのキャッチコピーは「未体験ゾーン」。いま振り返るとそれは、「ぜいたくの未体験ゾーン」だったのではないだろうか。日本はここから約10年間、バブル景気というゼイタクの未体験ゾーンへと突入したのである。
ただひとつ残念だったのは、初代ソアラが国内市場専用モデルで終わったことだ。
何も分かっていなかった当時学生の私は、「こんなすばらしいクルマなんだから、世界で通用するはず」という思いを抱いたが、輸出されたのは同じエンジンを積む「セリカXX」のみで、ソアラは輸出されなかった。理由は、「ラグジュアリークーペとしてはデザイン的に力不足で、海外では通用しない」というものだと伝え聞いた。
世界は広く、自分の知らないことがたくさんあるらしかった。そういう意味でも初代ソアラは、若きクルマ好きに何かを教えてくれた。
(文=清水草一)
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- トヨタ・ソアラ 歴代モデルを解説
- 2代目ソアラ 進化したアイデンティティー(河村康彦)
- 3代目ソアラ ビッグクーペの魅力にはあらがえない(渡辺敏史)
- 4代目ソアラ 華やかなクルマは人生をときめかせる(鈴木真人)
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