【懐かしの名車をプレイバック】2代目ソアラ 進化したアイデンティティー
一世を風靡(ふうび)したあのクルマ、日本車の歴史を切り開いていったあのエポックメイキングなクルマを令和のいま振り返ってみれば、そこには懐かしさだけではない何か新しい発見があるかもしれない。今回は、当時最高のステータススシンボルとして君臨した、日本初の本格パーソナルクーペ「トヨタ・ソアラ」の歴代モデルに注目する。
目次
初代モデルのヒットを受け、1986年に登場した2代目「トヨタ・ソアラ」。手堅いキープコンセプトのフルモデルチェンジに見られがちだが、そこにはソアラがソアラらしく見えるための非凡なる秘密があった。
もうソアラにしか見えない
バブル経済前夜という当時の時代性と合致したこともあってか、日本国内のみをターゲットとしながらも、開発陣の予想を上回るほどのヒットを記録。日本初のスーパーラグジュアリーなクーペとしてその名を歴史に残すことになったのが、1981年に誕生した初代ソアラである。
そんなサクセスストーリーを知り、実際にその姿を目にすると「なるほど、だからあまり代わり映えがしないんだ」と思わずそう納得しそうになる。しかし「実はまったく新しいクルマを目指して開発された」という、トヨタ開発陣のコメントを印象深く思い起こすのが、5年後となる1986年に発売された2代目モデルだった。
一見して、初代をベースにさらなる華やかさをプラスしたように感じられたスタイリングは、実はソアラらしさを追い求めながら質感の高さを追求していった結果によるものだという。Bピラーを基準としたサイドウィンドウの前後比率が6:4で、かつフロント側からA/B/Cと呼ばれるピラーが描く延長線を上方に伸ばしていくとある一点で交わるという初代モデルが生み出した“黄金比”を採り入れると、それだけでもう遠目にも「ソアラにしか見えなくなってしまう」と説明され、らしさの秘密に納得した。
妥協なきこだわり
まったく新しいクルマを模索したとはいえ、初代のオーナーへの聞き取り調査では「デザインを大きく変えてほしくない」という回答も圧倒的に多かったのだという。そんな声も聞こえてくれば、どうしてもキープコンセプトだと感じられてしまうのが2代目のスタイリングである。
ただし、そこに盛り込まれた内容は、もはや海外のライバルに負けるところなどないと感心させられた初代モデル以上に、微に入り細をうがち贅(ぜい)を尽くしたと受け取れるものだった。
初代でも画期的だと話題になったデジタルメーターは、2代目ではバイザー部分に発光部を埋め込み、それをハーフミラーを通して見やすい遠視点で目にすることができるという、より未来的で凝ったデザインへと進化。
それまで出合ったことのない肌触りや質感のスエード調表皮で仕上げられたダッシュボードやドアトリム、ソアラにふさわしいエレガントさを演じるべく淡い色つきとされたウィンドウガラスなどは、取引のあった系列内のサプライヤーでは生産が難しいということで、新たに海外のサプライヤーと手を組んでまで実現された新機軸であった。
未来的で画期的な装備
一方、2代目にかけられた意気込みのほどは、そんな装備群にとどまることなく見えない部分に対するこだわりにまで感じられた。
ドアオープンの際に前方の軸が外側にせり出すことで、狭いスペースでも乗降性を向上させるという複雑なリンク機構を採用した“イージーアクセスドア”は、2022年の今になっても再現してほしいと思える画期的なアイデアだった。
他にも、フロントがストラット、リアがセミトレーリングアームという初代のサスペション形式を、フロント/リアともに凝ったダブルウイッシュボーン式へと全面刷新させたことも、走りの基本性能を大幅に向上させるための覚悟と英断の表れだった。
ちなみに、最上級の「GTリミテッド」グレードにはエアサスペンションを標準装備として設定。その動作状況がセンターパネル部にビルトインされたカラーディスプレイで目視できたのも、当時としてはなんとも未来的で画期的だった。ディスプレイのサイズは6インチと、現在ではハナシにならないほど小さかったのだが、当時はもちろんそんなことはまったく気にならなかった。
世界をリードする最高峰クーペ
2代目モデルのなかにあってもやはり鮮烈に記憶に残るのが、最上級のGTリミテッドの走りである。3リッターの直6ターボエンジンが放つ加速力は「向かうとこ敵ナシ」と思えたし、それを4段AT(!)で実現させていたことも、「走りはMTのほうが上」というのがまだまだ常識だった当時としては、驚きに思えた。
300PSはおろか、400PS、そして500SP超という数字も珍しくはない昨今では、230PSという最高出力など話題にもなるまいが、そんなスペックも実際の加速力評価も相対的なもの。同様に、その乗り味のソフトさや静粛性の高さもやはり、それまでに経験したことのないほどに衝撃的だった。
こうして、期待どおりに初代をも上回る衝撃の内容とともにデビューしたのが2代目ソアラ。まだまだ試乗経験も乏しかったこともあって「これこそが世界をリードする最高峰クーペなのだ」と、自身のクルマでもないのに単純に悦に入ることができ、そしてそれが日本車であることに誇らしく思えた。
クルマに対してあんな感動とトキメキを覚えることが、果たしてこれからの時代にまた訪れるだろうか。
(文=河村康彦)
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