車高調やスプリングなど、サスペンションチューニングの基本を解説
愛車の魅力を引き立てる一つの方法がカスタマイズ。愛車を自分の好みの走りやスタイルにすることで、もっと愛着が湧いたという経験をお持ちの方も多いはず。
そこで、「カスタマイズには興味があるけど何からやろうか?」と悩んでいる方に向けて、ちょっと専門的な知識も踏まえながら分かりやすくお届けするコラム、この連載では走りのカスタマイズを中心にお届けしていこう。
第1回でお届けするのは、カスタマイズで重要なパートを占めるサスペンション。車高調と言われる本格的なものから、純正交換のアフター品など様々な種類がある。
そして、その目的は車高を変えることや、乗り心地を変えることができること。もちろん総合的にみればノーマルはよくできているが、使用用途を限定すればカスタマイズサスペンションが秀でている部分も多い。
目次
「純正サスペンション」が性能の最大公約数では勝る
「車高調」はなんでも調整できるのが魅力
「減衰力」で伸縮のスピードを調整
アライメント調整ができるサスペンションもある
純正形状社外サスペンションという選択も
ダウンスプリングがもっとも手軽
「純正サスペンション」が性能の最大公約数では勝る
新車時についている純正サスペンションは、さまざまなフィールドで使えるように制約がある。スポーティな走りができる例えばGR86であっても、フル乗車な上に荷物満載の状態で砂利道を気持ちよく走れなければならない。
そうなると必然的に車高はある程度高くなってしまうし、ソフトな乗り味にせざるを得ない。
そういう意味では自動車メーカーが多額のコストと時間を掛けて開発している純正サスペンションに勝るものはないと断言できる。あらゆるフィールド、そして多くのユーザーから合格点をもらえるのが純正サスペンションなのだ。
しかし、使う用途を限ればそうとも言い切れない。その最たる例がレースだ。
GR86/BRZ CUPではほぼノーマル車両によるレースが行われている。クラブマンクラスでは専用サスペンションとブレーキパッド、タイヤの交換程度で驚きの速さをマークする。
その速さは純正サスペンションではなし得ない領域。
レースという環境は速度が高く、掛かる荷重は大きい。タイヤのグリップも遥かに高く、純正サスペンションではそれらを受け止めることができない。
サーキットでレースをするという使用用途の上では、純正サスペンションを上回る性能を持たせることはそれほど難しくないのだ。
なので、大切なのは貴方がどんなフィールドでどうクルマを使うのか。それが明確になっていれば、サスペンションのカスタマイズによって、純正サスペンションを超える楽しさを手に入れることができる。
「車高調」はなんでも調整できるのが魅力
サスペンションチューンの最上級は車高調整式サスペンション(車高調)。多くの場合は車高を下げてスポーティな走りをすることをターゲットに設計されている。サーキット走行などの場面では明らかに走りやすくなる。
逆にフル乗車+荷物満載でキャンプに行くというなら正直向かない。サスペンションが沈みすぎて、底づきを起こすし、乗り心地が悪化することもあるからだ。
この車高調の場合、専用に作られたダンパー(ショックアブソーバー)に、直巻きスプリングが組み合わせられることが多い。
ダンパーは内部にオイルが入っていて、その中をピストンが往復し、減衰力を発生させている。大まかには純正サスペンションと同じだが、その減衰力の出方や強さはまったく異なる。
スプリングは純正サスペンションでは専用品を使う。巻き方や径が一定ではない「荒巻き」と呼ばれるもので、柔らかいスプリングをたくさん潰して(=プリロードを掛けると言われる状態)セットされる。
対して、車高調にセットされる真っ直ぐに巻いてある「直巻きスプリング」は規格品で、長さ、内径、バネレートによってさまざまな種類があり、同じ長さと内径でもバネレートが違うものもある。スプリングを変えればサスペンションの、簡単に言えば硬さ(柔らかさ)が変わるのである。
バネレート(単位:kg/mm)は1mm縮むときにどれだけの重さが必要なのかという数値なので、バネレートが高いほど縮む量は少なくなり、相対的に硬くなったと感じやすい。
車高調で車高を下げる場合、タイヤとフェンダーの距離や、ボディと路面との距離などが近くなっているので、サスペンションが沈み込む量がノーマルより減らないといけない。タイヤとフェンダーが干渉したりしてしまうからだ。
そこでバネレートは純正サスペンションよりもアップ(硬く)する方向で、ストローク量を減らさなければいけないのだ。
そのときに直巻きスプリングであればさまざまな種類があるので、車高調を導入後に交換できる。本格的にサーキットを走るなら富士スピードウェイは何キロのバネ、筑波サーキットは何キロのバネと、コースによって交換する人もいる。
「減衰力」で伸縮のスピードを調整
減衰力はオイルの抵抗で、サスペンションの沈んだり伸びたりするスピードを調整している。
その調整ダイヤルがある減衰力調整式車高調が現在の主流。締め込むと減衰力が強くなってジワッと伸び縮みするようになる。緩めると素早く動くようになる。
減衰力を締め込むと「硬くなる」という表現もあるが、正確にはストロークがゆっくりになっている。なので、サーキットだから締め込む、ストリートでは緩める、というのは一概には言えない。タイヤの潰れ具合とサスペンションの縮むスピードをシンクロさせるか、それをアジャストするための機構だ。
高価なサスペンションキットでは、縮むときと伸びるときの減衰力を別で調整する2way式や、縮むときのストロークスピードが速い時、遅い時と伸びるスピードを調整できる3way式、伸縮どちらも低速と高速が調整できる4way式などがラインアップされている。
アライメント調整ができるサスペンションもある
ストラット式サスペンションでアッパーマウント(サスペンションの上部を車体に固定するためのパーツ)が専用品を使うタイプでは、そのマウント位置でキャンバー角(正面から見たときのタイヤの路面に対する角度)やキャスター角(横から見たの時のタイヤの中心の垂直軸とサスペンションの角度)を調整できるものがある。
また、ナックル(サスペンションとタイヤやブレーキなどを取り付けるパーツ)側の取り付け位置の調整でキャンバー角調整ができるものもあるので、アライメントの自由度が広がる。そういった意味でも車高調導入による選択肢は大きく広がるのだ。
全体的にはサスペンションは高価なモデル=スポーツ性能が高い、ということが多い。そうなると高速サーキット向きのハードなセッティングになっていることがある。そのため、高いもの=普段乗りの乗り心地が良いとは必ずしも言い切れないのが難しいところ。
とはいえ、高価なモデルの方がダンパーの基本性能が高く、よりしなやかであったりもする。そのあたりはメーカー選びとどのモデルが最適なのかはプロショップと相談したい。
純正形状社外サスペンションという選択も
車高調まで調整範囲もいらず、コストも抑えたいなら純正形状で社外製のサスペンションもあり。サスペンションメーカーから発売されているもので、車高は純正とほぼ同等か若干下がる程度。
減衰力もそれに合わせて最適化されていて、ノーマルと同等か、それ以上の乗り心地であることもある。用途もほぼノーマルと同じで幅広いフィールドで使うことができる。
ダウンスプリングがもっとも手軽
もっと手軽にいくならダウンスプリングという手もある。こちらは純正サスペンションのダンパーに、異なるスプリングを組み合わせるチューン。
純正ダンパーの信頼性の高さや、減衰力を活かし、やや車高を下げるスプリングにすることで、若干車高を下げつつ快適性を確保しようという狙いだ。
それぞれに用途と向き不向きがあるので、どんな使い方をしたいか、どんな場面で快適に走りたいかターゲットを明確にして、プロショップに相談してみるのがサスペンションチューンを楽しむ近道だ。
(文:加茂新 写真:宮越孝政、トヨタ自動車、TRD、加茂新)
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