高けりゃいいわけじゃない! ブレーキパッド選びのキモは「適正温度」
前回のカスタマイズに関するコラムでは、サスペンションの交換についてお届けしたが、自分の好みを追及しようとすると数十万円を必要とすることも……。
それに対し、ブレーキパッドはもっともカスタムしやすいパーツのひとつ。数万kmで交換が必要となるが、コストも数万円とエンジンオイルと並んでカスタマイズしやすく、その変化も感じやすいパーツだ。
そんなブレーキパッドについて、特徴や選ぶ基準をお届けしていこう。
目次
ブレーキパッド選びは難しい
ブレーキパッドにはいろいろな効き方がある
ブレーキパッドの温度の変化
ブレーキパッドの素材による違い
摩材の配合に明確な基準はない
ブレーキパッドは対応温度が重要
ブレーキパッドとサーキット走行
ブレーキパッド選びは難しい
ブレーキは街乗りで多用して、信号が多いほど止まる機会も多い。それだけ使う機会が多いパーツなので、そのたびに使いやすさを体感できる。ブレーキパッドはもっとも体感しやすいチューニングパーツでもあるのだ。
ただ、気をつけたいのがブレーキパッド選びの難しさだ。
ブレーキは回転するローターをブレーキパッドが押さえつけて減速する。そのときに回転(運動エネルギー)を摩擦によって熱エネルギーに変換して止めているので、どうしても熱が発生する。熱が発生しないディスクブレーキはないのだ。
発生した熱によってブレーキパッドとローターの温度が上がり、空気中に熱を放出していく。そのときの温度が重要になる。
対応温度を間違えると効きもイマイチ、ブレーキダスト(ブレーキパッドと摩擦するブレーキローターが削れた鉄粉)も出て、ブレーキパッドがあっという間に減ることも起きる。
ブレーキパッドにはいろいろな効き方がある
ブレーキパッドは、ブレーキを奥まで踏むほど効く特性のものもあれば、踏み始めからリニアに効くモデルもある。そう、製品によって明確に効き方に違いがあるのだ。
そういった効きの“フィーリング“が変わるだけでクルマは圧倒的に乗りやすくなることがある。
車種によってもブレーキの効き方の違いがあり、踏み始めの初期から効くクルマなら、奥で効くパッドにするなど、組み合わせを合わせ込むことでより使いやすくなる。
ブレーキパッドの温度の変化
ブレーキパッドの温度は、街乗りのスタート時は気温などと同じ程度の数十℃。そこから走り始めてブレーキを使えば温度は上がるが、ブレーキを踏まなければすぐに温度は下がってしまう。
街乗りでは上がっても200℃程度。高速道路でもブレーキをほとんど踏まないので温度はごくごく低い。ワインディングや峠道でも200~300℃程度が目安。
逆にそれ以上に温度が上がるなら、ブレーキの踏みすぎやエンジンブレーキの使用が足りないとか、そもそも走行ペースが速すぎるなどが疑われるわけだ。
ところがサーキットでのスポーツ走行となると大きく変わる。軽く走るだけで400℃くらいは当然。ブレーキに厳しいサーキットであれば、最高温度は700℃や800℃になることもある。
それだけ高温になるものなのだ。
ブレーキパッドの素材による違い
ブレーキパッドの元となる摩材は、結合や強度を確保するための樹脂や繊維などを混ぜて高温で固めてあるが、使われる素材によって効き方の違いがある。
ノンアス材
純正ブレーキパッドの多くはノンアス材と呼ばれる材質。もともとはアスベストが使われていた名残で、ノンアスベストの略。
オーガニックなどとも呼ばれる素材で、ようするに鉄分がほとんど含まれていないことを指す。
鉄を混ぜると高温まで使えるようになるが、その代わりに低い温度ではパッドが鳴いたり、ダストがたくさん出たりするので、純正ブレーキパッドにはほとんど使われない。
ロースチール材/セミメタリック材
次に出てくるのがロースチール材やセミメタリック材と呼ばれる摩材。オーガニック材にある程度の鉄など、金属成分が含まれているもの。対応温度としては600℃や700℃くらいまで対応するものもある。
同時にオーガニック材的な特性もあるので、街乗りの領域の低い温度から使えることが多い。
メタル材
さらに高温に耐えるメタル材となると、ほぼ金属成分でそれを焼き固めてあるもの。サーキットでも連続周回するレースなどでしか使われないもので、値段も高価だ。
摩材の配合に明確な基準はない
メーカーによって、鉄分が少ない順にノンアス/ロースチール/セミメタリックなどと呼ばれているが、明確にロースチール材は鉄分が何%で、セミメタリックは何%と定められているわけではない。
A社のロースチールは、B社のセミメタリックよりもブレーキダストが多く、低温での効きもイマイチなんてこともあるが、各社の基準が違うので摩材の呼び名だけでは判別できないのだ。
輸入車はアウトバーンのようなハイスピードドライブに対応するために昔からパッドに金属成分が多い。また同時に減りやすい軟らかいローターを使っていることもある。
ちょっと走るとホイールが真っ黒になるクルマが多いのも効きや温度が上がったときに対応するためだ。
最近だとGRヤリスの純正ブレーキパッドなどもスポーツ走行に対応したものが装着されていて、高温にも使えるがダストは多めの傾向だ。
ブレーキパッドは対応温度が重要
そこでブレーキパッド選びとなるが、重要なことは、
使用する温度と、パッドの対応温度が合致している
かということ。せっかくパッドを買うときはつい「ちょっと高いモデルの方が良いのでは?」と思ってしまいがちだが、ブレーキパッドについてはそれが通用しない。
とくに対応温度の低温側が重要になる。ブレーキパッドのメーカーではその対応温度を記しているが、「日常生活温度~400℃」というパッドと「50℃~400℃」というパッドでは結構違うこともある。
日常生活温度から効くとは走り出しから効くということなのだが、50℃以上となると本当に街乗りの最初の数分は効きがイマイチということでもある。
さらに、対応温度以下でブレーキパッドを使うことはデメリットが大きい。ブレーキパッドやブレーキローターが異常に摩耗したり、「キーキー」と激しく鳴いたりすることなどが起きる。
とくにサーキット用のブレーキパッドで街乗りしていたら、あっという間に減ってしまうことは多い。
そのため、ブレーキパッドの購入時は街乗りするクルマなら、その温度に対応しているのかをよく確認すること。筆者の経験上で言えば、低温側の数値が50℃以上というものであればほぼ問題ないが、100℃以上のブレーキパッドでの街乗りはオススメしない。
ブレーキパッドとサーキット走行
もしサーキット走行に行くなら純正ブレーキパッドでは厳しい。スポーツ走行用のブレーキパッドへの交換が必須となる。
そこで気をつけたいのが、「ミニサーキットだから、温度はあまり上がらない」という常識が通用しないこと。
基本的には速度の高い大きなサーキットの方が温度は上がりやすいのだが、ミニサーキットではブレーキが冷える直線区間が短く、逆に温度が上がることもある。
そうなると「ちょっとミニサーキットで走るくらいだから、純正パッドやストリート向けのパッドもいいや」というのが通用しなくなってしまうのだ。
例に出すと、鈴鹿サーキットやスポーツランドSUGOはブレーキにはさほど厳しくない。ブレーキに厳しいコースではモビリティリゾートもてぎが有名だが、それに匹敵するくらいミニサーキットの本庄サーキット(1周1.128km)がブレーキに厳しいのだ。
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どのようなシチュエーションで走るのかによって、適切なブレーキパッドを選ぶ必要があることがお分かりいただけただろうか。
また自分の愛車の特徴や自分の好みのフィーリングを知っておくことは、適切なブレーキパッド選びにも役に立つ。
ブレーキパッドのカスタマイズを考えている方は、ぜひプロショップに相談してみてもらいたい。
(文:加茂新 写真:宮越孝政、折原弘之、トヨタ自動車)
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