GT性能と強烈な加速性能を持ち合わせたトヨタの最強エンジン 2JZ-GTE・・・記憶に残る名エンジン
世界的な景気の悪化、環境問題への意識の高まりから、人々が低燃費志向になった2010年代。
エコカー減税(2009年スタート)もあり、自動車メーカーがカタログに掲載するJC08モードの燃費数値を0.1km/Lでもよくするためにさまざまな技術を投入。同時に徹底的な軽量化を図っていた。中には低燃費グレードで「そこまでする?」というほど装備の簡略化が行われたりしたのも事実だ。
1980年代のハイパワー競争を経て、280馬力が高性能車の指針に
スポーツカーが日本の若者たちにとって憧れの存在だった1980年代は、自動車メーカーがエンジンのハイパワー競争を繰り広げた時代だった。1983年に登場した日産 フェアレディZの最高出力が230馬力に到達。1984年にインタークーラーターボを搭載した日産 スカイライン(R30型)が2L4気筒エンジンで200馬力の壁を突破した。
1986年、セリカXXから世界統一名称に変更されたトヨタ スープラ(70系)は多彩なエンジンラインナップがウリのひとつで、3L直6ターボは最高出力230馬力を発揮。そして1988年には全日本ツーリングカー選手権(グループA)のホモロゲーション取得のために500台限定で3.0GTターボAを発売。7M-GTE型エンジンに専用開発のターボAタービンを搭載し、最高出力が270馬力に高められた。
各社が技術の粋を注ぎ込み、最高出力を更新するモデルが登場するたびにスポーツカーファンは湧いたが、一方でそれを訝しく思っていたのが“国”だった。
この時代、交通事故で亡くなる人が急増して『第二次交通戦争』と呼ばれるほど深刻な社会問題となっていた。また、若者による暴走行為も大きな問題として取り沙汰されていた。
当時の運輸省は行政指導に乗り出し、日産が1989年に発売したフェアレディZ(Z32型)の最高出力280馬力を上限とする取り決めが行われたのだ。ちなみにこの時点で300馬力に達したが、日本での発売時に280馬力まで出力が落とされた(輸出仕様は300馬力のまま発売された)。
軽自動車はスズキ アルトワークスが1987年に達成した64馬力が自主規制の上限とされた。
JZエンジンのハイパフォーマンスモデルとして開発された2JZ-GTE
数値の上限が設定されたことにより、今度はどのモデルがその数値に到達するか、そして上限数値の中でいかに魅力的な走りを味わえるかが人々の関心事になっていった。
日産はRB26DETTを搭載したR32型スカイラインGT-Rを発売。全日本ツーリングカー選手権で絶対的な速さを見せつけ、モータースポーツファンを魅了した。
その対抗馬としてトヨタが開発したのが、1993年に登場した2代目スープラ(80系)に搭載した3L直6ツインターボの2JZ-GTEだ。
スープラは1990年に行われた70系のマイナーチェンジで、2.5L直6ツインターボ、1JZ-GTEを搭載。最高出力が280馬力に到達した。2.5Lで280馬力に到達したのはこの70スープラが初だった。
セリカXX、70系スープラがスクエアなイメージのあるデザインだったのに対し、80系スープラは曲線を多用した筋肉質なデザインに生まれ変わった。
2JZ-GTEは80系スープラより早く、初代アリストのツインターボグレード、3.0Vに搭載された。最高出力は規制上限の280ps、最大トルクは3600回転で44.0kg-mを発揮する。
スポーツセダンもすでにマークII/クレスタ/チェイサーが280馬力に達していたが、初代アリストはこれらとは速さの次元が異なっていた。とくに低速域からの加速力が凄まじく、度肝を抜かれたのを筆者もよく覚えている。そのエンジンがスープラに搭載されたことからも、開発陣の打倒GT-Rという意気込みが伝わってくる。
デビュー時のCMは、壮大な映画音楽のようにアレンジされたカンツォーネが流れる中、テストコースを優雅に走るスープラをさまざまなカメラアングルで捉えたアンバーな映像で紹介する内容。
ちなみにトヨタは2019年に現行型であるDB系スープラを復活させた際、このCMをオマージュし、同じ楽曲を使用して同じカメラアングルでスープラを撮影した優雅な映像を制作している。実はこの“優雅”という言葉がスープラ、そして2JZ-GTEエンジンにとって大切なキーワードだと筆者は感じている。
2JZ-GTEはトヨタが1990年に開発した直列6気筒DOHCエンジンであるJZエンジンの最強モデル。JZ系のルーツは1965年にトヨペット・クラウンに初搭載され、2000GTやソアラなどのプレミアムモデルでも採用されたM型エンジンにある。
JZエンジンはクラウンシリーズやマークII 3兄弟、ソアラなどプレミアムセダンやハイソカーに搭載された。ロングドライブを快適に気持ちよく走れる性能が求められるモデルに搭載されるため、JZエンジンの真価はグランドツーリング性能にあった。
2JZ-GTEも同様で、まずはアリストに搭載されたことからもグランドツーリングを極めたハイパフォーマンスエンジンであることが感じられるはずだ。
耐久性の高さを活かし、ハードチューンを施すチューナーも出現
当時のクルマ雑誌では、280馬力対決としてトヨタ スープラ、日産 スカイラインGT-R、ホンダ NSXを走らせたり、そこにマツダ RX-7を加えてスーパースポーツ対決を行ったりするのが人気企画のひとつだった。
箱根ターンパイク、筑波サーキット、谷田部のテストコースに撮影車両で向かう際、スープラで高速道路を巡航するのがとりわけ気持ちよかったのをよく覚えている。スープラのメインマーケットは北米。ひたすら真っ直ぐ伸びるアメリカの道を走る上で、グランドツーリング性能の高さは欠かすことのできないものだった。
2JZ-GTEを搭載するRZにはゲトラグ製の6速マニュアルトランスミッションやビルシュタイン製ダンパーが採用されたことも話題となった。一方でオートマチックトランスミッションが用意されていたのも特徴のひとつだ。
また、忘れてはいけないのはNAの2JZ-GEを搭載するSZの存在。最高出力は225馬力とターボに劣るものの、高回転までスムーズに回るのでキレの良い走りを味わえた。素の良さがあるからこそ、2JZ-GTEがラグジュアリーさを感じさせる性能と強烈な加速を両立させる懐の深さを持ち合わせているのだろう。
また、2JZ-GTEは耐久性の高さにも定評があり、ブーストアップをはじめとするハードチューンにも適応できることから、ゼロヨン、ドリフト、最高速アタックなどの世界でも支持を集めていた。中には1000馬力を超えるところまで出力を高めたチューナーもあった。
モータースポーツでは1994年からスタートした全日本GT選手権に参戦。参戦当初は日産勢が優勢だったが、1995年シーズンはCastrol TOYOTA TEAM TOM'Sが年間5位、1996年はTOYOTA Castrol TEAMが年間2位を獲得。そして1997年にはTOYOTA Castrol TEAMが総合優勝を果たした。
2002年8月、スカイラインGT-RやRX-7と同じようにスープラも平成12年排出ガス規制により生産が終了した。2JZ-GTEを搭載したアリストV300はスープラの生産が終了した後も販売が継続されたが、2004年11月をもって生産が終了した。JZエンジンも生産が終了し、現在はV型6気筒のGRエンジンがその役割を担っている。
だが、あの強烈な加速を忘れられない人たちから2JZ-GTEエンジンは支持されていて、状態のいいものは1000万円以上の価格で取引されている。
(文/高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:株式会社トムス、TOYOTA)
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