中央自動車道の3つの不思議。日本初の高速道路誕生の秘話・・・歴史で紐解く高速道路
中央自動車道は不思議な道路だ。まず車線数が少ない。首都圏の6放射高速道路の中で唯一、東京都心寄りの区間でも4車線(片側2車線)しかない。他の5路線(東名、関越、東北、常磐、東関東)はすべて6車線あるのに、中央道だけが4車線だ。
おかげで中央道では、渋滞が頻発する。平日午前中の上り線は、三鷹付近を先頭に毎日必ず10キロ程度渋滞し、週末は小仏トンネル付近を先頭に上下線(午前中は下り線、午後は上り線)が大渋滞する。
国交省も手をこまねいているわけではない。「中央道渋滞ボトルネック検討ワーキンググループ」の提言により、上り線に関しては。調布IC―三鷹料金所間に付加車線が増設され、小仏トンネルももう1本掘削中だ。下り線は、渋滞の先頭になっている相模湖IC付近に付加車線を設置することが決まっている。
ただ、私の見るところ、それらすべてが完成しても、効果は限定的なものに終わるだろう。
今年10月に行われた中央道渋滞ボトルネック検討ワーキンググループ第10回会合では、追加の渋滞対策も議題に上がったが、中央道の渋滞の根本的な原因は、中央道の都心寄り(上野原IC以東)が4車線しかない点にあるので、どちらにせよ大きな効果は期待できない。
中央道の不思議 その1 4車線の理由
なぜ中央道だけが4車線なのか。
実を言えば、首都圏6放射高速のうち、最初から6車線確保されていたのは東名の用賀―厚木間だけで、他の5路線は開通当初4車線だった。その後関越、東北、常磐、東関東の4路線は、交通量の増大に合わせて、開通10年後から20年後にかけて6車線に拡幅されたが、中央道だけが4車線のまま取り残されてしまったのである。
東名が開通当初から6車線だったのは、並行する一般道の交通量から見て、交通需要が大きいと判断されたからだ。他の路線は、東名に比べたら交通量は少なく見積もられていた。合理的な判断だったが、遠い将来の交通需要までは予測し切れていなかった。
今も昔も国は、最小限の予算で必要十分な公共投資を行うことを旨としている。必要以上の投資は「ムダ」と糾弾される。かつて新東名・新名神が「戦艦大和級のムダ」とマスコミに叩かれたことを思えば、「なぜ最初から6車線で造らなかったんだ!」と批判することは難しい。
関越、東北、常磐、東関東の各路線は、4車線から6車線に拡幅することが比較的容易な沿道環境にあり、当初からその用地を取得しておくことができたが、中央道は八王子まで東京都下であり、最も早く市街化が進んでいた。
多摩地区は明治期以来、革新系の政治勢力が強い地域で、世田谷区烏山付近では、激しい中央道建設反対運動が起こり、首都高との接続が3年遅れた。これらの要因が、中央道の拡幅を大いに阻害した。中央道沿道の現状を見れば、いまさら6車線への拡幅など夢のまた夢である。
中央道の不思議 その2 日本初の高速道路
ところがそんな中央道こそ、日本最初の高速道路なのだから、これまたひとつの「不思議」ではないだろうか。
1957年に構想された全国7高速道路案では、東京―名古屋間は中央道のみ。それも、現在JR東海が建設中のリニア新幹線に近いルート取りで、南アルプスを貫通して最短距離で名古屋へ向かうことになっていた。
名古屋から西は、現在の名神高速のルートで計画された。つまり名神は、もともと中央道と一体で構想された、中央道の一部なのである。現在も法律上は、中央道と名神高速を併せて「中央自動車道」となっている。
しかし東京―名古屋間は、人口の多い静岡県側の海岸ルート(現在の東名)を採るべきという意見も強く、両者の間で激しい政治闘争が繰り広げられた。南アルプスを貫通できるのかという技術的な問題もあった。
決着がつかないため、西から建設が進められることになり、1963年、日本初の本格的高速道路として、法定路線名「中央自動車道」栗東―尼崎間が開通したのである。正式には名神ではなく、中央道こそ日本最初の高速道路なのだ。
一方、中央道の東京―名古屋間に関しては、南アルプス貫通ルートに技術的問題があったため、東京―富士吉田(河口湖IC)間のみ、法定路線名「中央自動車道富士吉田線」として着工。1967年に調布―八王子間が開通している。
これは東名(東京―厚木間)開通の前年の出来事で、首都圏でも中央道が最初の高速道路開通だった(首都高や第三京浜など地域高速道路を除く)。
前述のように、中央道は東名に比べて交通需要が小さいと見積もられ、4車線で建設されて現在に至っている。八王子より西は、開通当初は対面通行の暫定2車線(片側1車線)だったくらいだ。大月まで4車線化されたのは、最初の開通から6年後。残る大月―河口湖間が4車線になったのは、そのさらに11年後の1984年である。
その後、上野原―大月間は6車線化されたものの、上野原より東京寄りの区間は、ほぼ4車線のまま放置されている。
中央道の不思議 その3 なぜ自動車道?
名神と東名の通称名には、それぞれ「高速道路」が付くが、中央は「自動車道」、略して中央「道」となっている。いったいなぜなのか。これが3つ目の不思議である。
実は、1967年の最初の開通以来しばらくは、中央道も通称「中央高速道路」だった。ところが中央道は暫定2車線区間が長く、そこは中央分離帯のない片側1車線の対面通行。追い越し禁止でもなかった。
そのため、追い越しによる正面衝突事故が多発した。そんな道路を「高速」と呼ぶのは危険だということで、途中から「中央自動車道」に改称されたのである。その後開通した路線はすべて「自動車道」となり、「高速道路」と呼ばれるのは東名/新東名と名神/新名神のみという、不思議な状態が続いている。
ただ中央道には、素敵な別名がある。ユーミンの名曲『中央フリーウェイ』である。八王子出身のユーミンが、彼のクルマで送ってもらう彼女の状況を描いた作品だ。日本には高速道路をフリーウェイと呼ぶ習慣はないが、フリーウェイと言う語感が大切にされたものと思われる。
なお、この曲が収録されたアルバム『14番目の月』が発売された1976年、沿道住民の反対により未開通だった高井戸―調布間がようやく開通している。それまで、間をつなぐ甲州街道はひどい渋滞に悩まされていた。そこには何らかの符号があると考えてもおかしくない。
ユーミンも、実際に送ってもらっていた当時、その渋滞にうんざりしていたのかもしれない。それだけに、調布から中央道に乗った瞬間、強く「フリー」を感じたとも解釈できる。根拠のない妄想ではあるが。
(文:清水草一 写真:清水草一)
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