3世代に渡り設定されたセリカ コンバーチブル。日本で生産、アメリカで架装という稀有な存在・・・語り継がれる希少車
カブリオレにコンバーチブル、そしてロードスターやスパイダー。表現方法はいろいろある(厳密にいえば作り方や幌の展開方法などの違いもある)が、ひとくくりでいえばどれも「オープンカー」だ。
オープンカーの特徴であり“それ以外のクルマとの違い”といえば、屋根がないこと。それに尽きる。では屋根がないことで得られるメリットはなにかといえば、開放感だろう。屋根がないだけで、なんと気分が良くなることか。
その心地よさはオープンカーを経験したことがある人でないと理解しにくいかもしれない。でも、流れる風の心地よさを知れば、人生のパートナーとしてオープンカーを選びたくなってくるはずだ。
そんなオープンカーには2つのタイプがある。ひとつははじめからオープンカー専用として開発されたモデルだ。たとえば「マツダ・ロードスター」である。
もうひとつは、通常のルーフ付きのモデルの派生形としてオープン化したモデル。今回紹介する「セリカ コンバーチブル」もそうである。
セリカとして初のオープンモデルが用意されたのは、1987年10月。T160型と呼ばれる4代目セリカ追加バリエーションとして用意されたのだが、4代目セリカはセリカの歴史において大きな変革が起きたモデルだった。
たとえば駆動方式。1台から3代目までは後輪駆動としていたが、1985年デビューの4代目では前輪駆動へとシフト。いっぽうで、ターボエンジンを積む高性能仕様「GT-FOUR」がセリカとしてはじめて4WDを採用したことも大きなトピックだ。
そしてオープンモデル「セリカ コンバーチブル」の追加。日本向けの正式モデルとしてはじめて「屋根のないセリカ」が登場したのである。
コンバーチブルのルーフは、油圧(電動油圧)による自動開閉式。ロックを解除し、センターコンソールに埋め込まれたスイッチを操作するだけで気軽に屋根を開けることができた。オープンカーにとって「気軽さ」は重要である。
そして特筆すべきは、このセリカ コンバーチブルがとても手間をかけた生産方法をとっていたこと。オープンボディの制作はトヨタの車両生産ラインではなく、ASC(アメリカン・サンルーフ・コーポレーション)という会社にてクローズドボディ(通常の屋根付きボディ)を改装する手法でおこなわれた。
その後、オープン化された車体を再びトヨタの生産ラインへ戻し、最終組み立てを経て完成させたのである。なんと手がかかっていたのだろう。
セリカの生産自体は日本だが、作業を担うASC社の所在地はアメリカ。つまり完成までに太平洋を2度も渡る旅をする、極めて珍しいクルマだったのだ。
当時の日本にはコンバージョンタイプ(屋根付きのモデルからオープンへの改造)のオープンモデルを量産するノウハウが乏しかったというのもあるが、日本国内でオープンカーへと架装するよりもトータルでのコストを抑えられるという判断もあったという。
通常の日本向けセリカはハッチバックだったが、セリカ コンバーチブルはオープン化に伴ってトランクリッドを備えるボディへと変化(兄弟車の「コロナクーペ」がトランク付きだったし、北米向けのセリカにもトランク付きがあった)。オープン化されてもリヤシートは残り、実用性はしっかりキープされていた。
また、オープン化による車体剛性低下を抑えるためにフロントピラーや幌の収納スペース周辺、そしてドア周辺も強化。わずか2年ほどの販売だったが、その存在は大きな話題となった。
1989年にセリカが5代目のT180型へとフルモデルチェンジしたのを受けて、1990年にはセリカ コンバーチブルも2代目が登場。
ASC社が架装を担当するのは初代と変わらないが4WS(後輪操舵)が全車に搭載され、また本革シートを備える上級グレード「コンバーチブル タイプG」が追加されたのもトピックだ。
そして1993年にはベースのセリカが6代目の「T200」型となり、1994年には3代目のコンバーチブルが登場。
架装は引き続きASC社が担うが、開閉機能をそれまでの電動油圧から電動モーターへと変更。幌の格納方法の進化もあって格納スペースのコンパクト化を実現し、後席が従来よりも広くなったのもうれしいニュースだった。リヤウインドウもはじめてガラスとなるなど、実用性は大きく向上した。
一時期、日本でもオープンモデルが増えた時期があった。時は1980年代中半から1990年代前半。日本人がバブルを謳歌し、多くの人が遊び心を持って“楽しいクルマ”を選んでいた時代である。
セリカのほか「マツダRX-7」や「日産シルビア」「日産フェアレディZ」「ユーノス・ロードスター」といったスポーツカーやクーペをはじめ、「ホンダ・シティ」「マツダ・ファミリア」「スズキ・カルタス」「日産パルサー エクサ」「日産マーチ」などコンパクトカー、さらには「スズキ・カプチーノ」や「ホンダ・ビート」そして「ダイハツ・リーザ」などの軽自動車にまで用意されたのだからまさに百花繚乱と言える状況だった。
しかし、セリカ コンバーチブルはそれら多くの国産オープンのほとんどとは大きく違うところがある。それは、1世代だけ終わらなかったことだ。オープンモデルが3世代続いた国産車は、そう多くはない。
(文:工藤貴宏 写真:トヨタ自動車)
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