日本の高速道路網に残された夢の道10選・・・歴史で紐解く高速道路
この連載も最終回。夢のある話でしめくくりたい。
日本に高速道路が誕生してから60余年の月日が流れた。
1987年に策定された合計1万4000kmの高規格幹線道路(≒高速道路)網計画のうち、2024年3月現在の開通延長は1万2283km。全体の88%に達した。2030年までには、一部区間を除いておおむね開通するだろう。
日本の高速道路建設が間もなく終了するかと思うと、うれしくもあり寂しくもある。残る未開通区間のうち、一ドライバーとして開通が楽しみな地方路線を、東から順に4つ挙げてみたい。
伊豆縦貫道
引用:静岡県公式ホームページ 伊豆縦貫自動車道
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/029/252/juukan.pdf
伊豆半島の中央部を、沼津市から下田市まで結ぶ。伊豆半島は高速道路ネットワークからやや取り残された存在。私は下田海岸を日本のハワイだと思っているが、これが開通すると、首都圏から下田がぐっと近くになる。
現在は沼津-月ヶ瀬間と、下田寄りの河津-逆川間が開通しているのみだが、沼津―修善寺間の一般道の渋滞はほぼ回避できるので、以前に比べるととても便利になった。月ヶ瀬-河津間はまだ事業化もされていないので、全線開通は遠い将来のことになるが、楽しみな路線だ。
中部縦貫道
引用:岐阜県公式ホームページ 中部縦貫自動車道の概要
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/286760.html
中部山岳地帯を貫き、長野県松本市から福井県福井市までを結ぶ。途中に上高地、白骨温泉、飛騨高山、九頭竜ダム、大野城(天空の城)といったワイルドな観光資源が並ぶ。
松本市内から安房峠トンネルまでの狭い峠道は難所だが、その先は快適な一般道。現在工事中の高山IC-丹生川ICが開通すれば、高山市内を完全にスルーできるようになる。
高山ICから西寄りは、2026年度中に全線開通予定となっている。途中の油坂峠は、標高差400mをふたつの巨大なヘアピンカーブでクリアするダイナミックな高速ワインディングだ。景色もすばらしい。
ただし自動車専用道路なので途中停車はできない。もっと景色を堪能したいなら、あえて並行する国(酷)道158号(冬季閉鎖)を選ぶのもいい。思う存分秘境感を味わえる。その先は九頭竜川流域のダム銀座。ダムを巡ってダムカードを集めたい。
紀勢道
引用:三重県公式ホームページ 近畿自動車道紀勢線 全体路線図
https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000847232.pdf
紀伊半島は地形が極めて険しく、高速道路の開通が最も遅れている地域のひとつだったが、伊勢道から分岐した紀勢道が熊野大泊まで開通しており、その先は那智勝浦新宮道路(紀勢道の一部)をはさんで、すさみ南から南紀田辺ICまで開通済み。そこで阪和道にバトンンタッチして、大阪までつないでいる。全線開通まであと一息だ。
観光ドライブの場合、内陸側を走る紀勢道を使うと、南紀の海岸美が楽しめないが、高速道路の完成によって、一般道の交通量が減少するのはありがたい。
紀伊長嶋IC以南は、税金で建設する新直轄区間なので料金無料。予算がつかないと建設が進まないので、全線開通はいつになるか見通せないが、一般道と高速をうまく組み合わせれば、現状でも十分魅力的なルートだ。
九州中央道
引用:九州中央自動車道建設促進協議会作成パンフレット「九州中央自動車道2021」
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/153970.pdf
まだ全体の3割しか開通していないが、途中には高千穂峡と通潤橋という2台観光資源がある。ドライブルートとしては、もうすこし北寄りの阿蘇や九重連山を縦断するルートのほうが魅力的だが、九州中央道が開通すれば、宮崎県から熊本県へ抜ける快速ルートが拓かれる。
続いて、都市部の未開通重要路線を挙げよう。
新名神高速(大津JCT―高槻JCT間)
引用:NEXCO西日本新名神高速道路
https://corp.w-nexco.co.jp/activity/branch/kansai/shinmeishin/index.html
新東名・新名神は日本のアウトバーン。景色があまり見えなくても、走っているだけで気持ちいいし、開通後は首都圏と関西圏が一気に近く感じられるようになった。
新名神は、まだ2つの区間が未開通のため、滋賀県から大阪府にかけて、名神の混雑区間を走る必要があるが、恐らく2027年度中には、大津JCT~城陽JCT間25.1kmが暫定4車線(片側2車線)で開通するだろう。
残る八幡京田辺JCT/IC~高槻JCT間10.7kmも、工事が順調に進めば2027年度に開通予定。これをもって新名神が全線開通を迎える。その時は、「走るだけ」を目的に走破してみたい。
新東名高速(新秦野-新御殿場間)
引用:E1A 新東名高速道路(海老名南JCT~御殿場JCT)連絡調整会議(第5回) 説明資料
https://www.c-nexco.co.jp/images/news/5591/ed497ad384f875c2ff44c5b56798aa6f.pdf
新東名の未開通区間も、2027年度の開通を目指しているが、こちらは新名神と違って海老名南JCTで圏央道と接続して終点になり、混雑緩和効果はあまりない。
また、既存の東名が6~7車線なのに対して、新東名は暫定4車線。新東名はカーブや勾配は少ないが、車線数は東名のほうが多い。だいぶ小ぶりな夢である。
東京外環道と圏央道南側区間
引用:国土交通省 外環(東京外かく環状道路)
https://www.ktr.mlit.go.jp/road/shihon/index00000039.html
首都圏には、東京外環道と圏央道南側区間という、三環状のミッシングリンクが残っている。圏央道南側区間についてはすでに連載で詳しく触れたが、東京外環道は、調布市内で発生した地盤陥没事故により、東京地裁から工事中止命令が出たままで、再開のめどは立っていない。
それをクリアすることができても、完成まであと10年、いや20年かかるかもしれない。「自分が生きている間は無理か?」と思い始めている。
それに続く東名JCTから湾岸線までの区間についてはルートも未決定。東名JCTまでの開通が見通せないのだから、その先について考えてもあまり意味がない。夢を抱くのはやめ、当面忘れることにしよう。
では、首都圏に夢を抱ける計画はないのかというと、そうでもない。候補は2つ。冒頭に記した1万4000kmの高速道路網計画に入っていない新湾岸道路と、東京湾口道路だ。どちらも計画や構想が凍結された状態だが、千葉県が建設に向けて働きかけを再開している。
新湾岸(第二湾岸)道路
引用:千葉県ホームページ 令和5年度展示パネル(計画の基本方針・現在の取組状況等)
https://www.pref.chiba.lg.jp/doukei/shinwangan/documents/shinwangan-panel2.pdf
東関東道および館山道の海寄りに、もう1本高速道路を通すというもの。2000年代初頭までは国交省が正式な計画としていたが、船橋市周辺の東京湾沿いに広がる三番瀬が野鳥の楽園になっていることから、そこを埋め立てて突っ切る予定だった新湾岸に千葉県知事がストップをかけ、以来お蔵入りとなった。
しかし千葉県としては、東関道や京葉道路の渋滞を放置するわけにも行かず、計画内容を縮小した上で、国交省に陳情を初めている。
縮小されたルートは、館山道の市原ICおよび蘇我IC付近から海岸沿いを走って、東関道と外環道が接する高谷JCTにつなげるというものだ。これでは渋滞の先頭が高谷JCTになるだけで、解決策にはなり得ないのだが、三番瀬を避けるとその先は道路を通す用地がなく、東関道の地下にトンネルでも掘るしかない。
私としては、発想を変え、三番瀬のはるか沖合を通す計画に変更すべきではないかと考えている。第二のアクアラインだ。途中、中央防波堤外側埋立地で首都高11号台場線の延伸部と接続し、京浜島付近で首都高湾岸線に着地させる。
こうしても、結局台場線や湾岸線を先頭に大渋滞する可能性があり、巨費をかける意味があるのかどうか微妙。道路をつなげても、着地点の交通容量に余裕がなければ無意味なのだ。
東京湾口道路
千葉県の富津岬と神奈川県の観音崎付近を、吊り橋かトンネルでつなぐという壮大な計画で、千葉県南部の自治体による協議会が陳情を再開している。
夢のある話だが、17kmの吊り橋など世界中のどこにもないし(明石海峡大橋で3.9km)、トンネルを掘れば4兆円はかかるだろう。三浦半島と富津岬の先端という接続位置も、東京方面からだとかなりの遠回りになって利便性が低い。
「アクアラインの渋滞緩和策になる」と言っても、4兆円はまったく割に合わない。それならアクアラインを6車線に拡幅したほうがずっと安上がりで、さらに言えば、現在週末に社会実験導入されている時間帯別料金の変動幅(アクアライン片道800円→1200円)を、もっと大きくする対策が一番コスパが高い。
最後は夢のない話になってしまったが、しかし私は、現在の日本の高速道路網にかなり満足している。まだ課題は山積しているとは言え、私が自動車免許を取得した1980年に比べれば、夢のようなハイウェイ・ネットワークができあがっている。
よくぞここまで来たものだ。今がドリーム・カム・トゥルーだと思うのが、心の健康にはベスト。思う存分走り回りたい。
(文:清水草一)
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