実は電気自動車がガソリンエンジン車より先に登場。BEVの歴史を振り返る・・・BEVの真実と未来
「BEV(発電装置を持たないで電気モーターのみを動力源とするバッテリー電気自動車)は新しい乗り物。まだ生まれたばかりだ」
そんな認識を持っている人も多いかもしれない。
しかし、実際はそうではない。実は140年も前から電気自動車は走っていて、その歴史においては「道を走るクルマはエンジン車よりも電気自動車のほうが多かった」という時代もあったほどなのだ。
このBEVに関する12回に連載では、電気自動車の過去と現在を知り、同時に未来についても考えてみる連載をお届けしていく。
まず第1回目となるこのコラムでは、「過去から現在」のBEVにおける大まかな流れをお届けしていきたい。
電気自動車の方がガソリンエンジン車よりも先に誕生
多くの人にとって予想外であろうことは、電気自動車の登場はガソリンエンジンの自動車よりも先だということだ。
ガソリンエンジンで走る最初のクルマはドイツのカール・ベンツが作り上げた三輪自動車「パテント・モートルヴァーゲン」である。1870年代からエンジンの研究を進め作り上げたクルマは、1885年に試運転に成功。1886年に特許が認められた。カール・ベンツは世界初のガソリン自動車を造ったエンジニアとし歴史を切り開いたのだ。
パテント・モートルヴァーゲンは1886年から1893年にかけて7年間で25台が製造された記録が残っている。
いっぽう最初の電気自動車は1830年代にスコットランドの発明家ロバート・アンダーソンが発明したものとされている。この時のバッテリーは、充電ができない「一次電池」だった。
1881年にはフランスの発明家ギュスターヴ・トルヴェが電気自動車を作り、パリの道でテストしたという記録もある。カール・ベンツがガソリンエンジン車を作り試運転に成功する4年も前のことだ。電気自動車は、ガソリンエンジン車よりも一足先に道を走り始めていたのである。140年も前のことだった。
世界初の市販電気自動車が発売されたのは、1888年のイギリスと言われている。アメリカではベイカー・モーター・ビークル社が1899年に「ベイカー・エレクトリック」という電気自動車を発売し、1915年まで長きにわたって販売された。1馬力のモーターを搭載し、時速40kmの走行が可能。135年も前の電気自動車ながら、1充電での航続距離はなんと100マイル(約160キロ)というから驚きだ。
電気自動車は当時、静かで、排気ガスもなく、始動時にクランクを回す必要もないという利点から人気があったそうだ。
20世紀初頭に一度「電気自動車の時代」を迎えたアメリカの動向
20世紀に入る頃のアメリカでは、モーター(電気自動車)、ガソリンエンジン、そして蒸気機関などさまざまなパワーユニットがマジョリティの座を競っている状態。1900年時点で道を走るクルマの最大勢力は蒸気機関の40%だったが、電気自動車は38%と僅差でそれを追う存在。ガソリンエンジン車はずっと少なくわずか22%だったという。
アメリカでは、遡ること100年以上前となる20世紀初頭に「電気自動車の時代」を迎えていたのだ。
当時、電気自動車が多く受け入れられた理由はふたつある。ひとつは蒸気機関や内燃機関(エンジン)よりも高性能だったこと。クルマの高性能の基準のひとつとして最高速度があるが、1899年に初めて時速100kmを超えた乗り物であるフランスのジャメ・コンタント号の動力源は蒸気機関や内燃機関ではなく、モーターだった。電気自動車はガソリン車よりも早いタイミングで「時速100kmの壁」を超えたのだ。
もうひとつは、特許問題。20世紀初頭のアメリカではセルデンという人物が「ガソリン自動車の発明者は自分」と主張し、ガソリン車の生産に対して特許使用料を請求していた。
しかし、その頃からアメリカでは徐々にガソリン車の性能が上がり、また電気自動車は航続距離の制約からガソリン車の機運が高まりつつあった。そのうえ1911年にセルデンの特許の無効に対しする訴訟で無効という判断がされると、自動車の主流がガソリン車に移り変わっていったのだ。
そして「T型フォード」の人気が決定打となり自動車の中心はガソリン車へと移行、電気自動車はいったん姿を消すこととなる。
その後、第二次世界大戦後の日本ではガソリン不足、および空襲による工場の喪失で電力が余っていた時期に「たま電気自動車」をはじめいくつかの電気自動車が市販された。
また1980年代後半からはアメリカ・カリフォルニア州において大気汚染を防ぐ観点から電気自動車の普及が求められ、車両を販売する各自動車メーカーが電気自動車の開発を本格化。しかし、エンジン車と比べて航続距離の制約や価格の高さなどもあって普及には至らず、少量生産モデルの展開にとどまった。その多くはガソリン車をベースに電気自動車化したモデルだ。
電気自動車の普及と地球温暖化
しかし、21世紀を迎えた頃から、電気自動車を取り巻く環境に変化が現れた。地球温暖化が人類にとって大きな脅威と認識され、その原因が二酸化炭素量の増加にあるという説が有力となったのだ(ただし二酸化炭素犯人説は現時点でも証明されたわけではなく「疑い」に過ぎない)。
地球温暖化を防ぐには二酸化炭素を排出しないことが正義とされ、その結果として走行中に二酸化炭素を発生しない電気自動車こそが「自動車分野での解決策」という流れとなったのである。
2009年6月、世界初の量産電気自動車といえる三菱「iMiEV(アイミーブ)」が生産を開始し、翌2010年末には日産が専用ボディを組み合わせた世界初の量産電気自動車「リーフ」の初代モデルを発売。近代の電気自動車の歴史の幕を開いたのは日本車だった、といっていいだろう。
同じ頃、アメリカのテスラモータースは「ロードスター」という少量生産の電気自動車を発売。そして2012年には量産モデルとなる「モデルS」を発売。富裕層を中心に大ヒットし、電気自動車の存在感を高めるのに貢献した。日本で始まった量産電気自動車の発売と、海の向こうでのテスラの台頭。そのふたつが現在につながる電気自動車の礎を築いたといっていいだろう。
その後、欧州各地における温暖化防止の観点からの電気自動車優遇政策、そして中国における国策としての電気自動車普及政策により電気自動車の市場は大きく拡大。2011年には年間わずか4万台ほどだった電気自動車の販売は、2017年に76万台、そして2020年には200万台まで増えている。そこからさらに急上昇のカーブを描き2023年には950万台まで市場が拡大している(数字はいずれもPHEV〔プラグインハイブリッド〕を含まないBEVだけの販売台数)。
世界的にみると、2023年の新車乗用車販売のうち12%強がBEVという状況。そのうち約半分が中国で販売されていて、欧州がそれに続くマーケットだ。
電気自動車が普及していくためには
果たしてこのままBEVは増えていくのだろうか?
どんどん増え、乗用車市場の中心へとなっていくことは間違いないだろう。ここ数年のような急激な伸びがずっと続くとは思えないが、数十年かけて乗用車におけるパワーユニットの主流としてシフトしていくはずだ。
当面は、シティコミューターがBEV販売の中心となるだろう。航続距離の拡大を諦めれば大きなバッテリーを積む必要がなくなり、その分車両価格も下げられるから購入しやすくなる。当初はアーリーアダプターと呼ばれる“新しいもの好き”がBEVマーケットを広げたが、さらに市場を拡大しようとなると「安いもの」を求めるニーズがどんどん増えていくのは自然なことだ。
いっぽうで、バッテリーの高性能化により「充電時間」と「航続距離」、そして「コスト」の問題が解消されれば、乗用車では爆発的に普及する可能性も秘めている。ガソリン車から何の制約も心配もなく買い替えできるBEVが登場した時こそが、BEVが本当の意味でスタートラインに立った時と言えるかもしれない。
EVは今年に入って伸び率が穏やかになり、昨今は「踊り場」と言われている。しかし、将来的にさらに広く普及していくことは疑いようがない。
※BEV販売の推移参考
https://www.iea.org/data-and-statistics/data-tools/global-ev-data-explorer
(文:工藤貴宏 写真:トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、テスラ)
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