小型商用車のBEV化が進行中。配送業から始まる変革の潮流・・・BEVの真実と未来
-
ヤマト運輸が導入した三菱ふそうのeキャンター
乗用車の目線から語られることが多いBEV(バッテリー式電気自動車)だが、実は一部の商用車には向いているといわれている。
商用車といっても大きなトラックなどではなく、狭い範囲内で活躍する小さなトラックやバンなどだ。具体的には、郵便や宅配便の集配をはじめ、花屋や酒屋などのお店で配送業務を担うような車両である。
小型商用車でBEV化が進む
たとえば郵便配達に使われている赤い軽バン。日本郵便は2013年に10台、翌2014年には40台を試験的に導入したあと、2019年度から2020年度にかけては東京を中心に1,200台が本格導入され大きくBEV化への舵を切った。その後2023年度の終わりの時点において、全国では約5000台のBEV軽バンが郵便配達車両として活躍しているのだ。
郵便配達のバイクに至ってはすでに約1万6000台のBEVバイクが活用されており、今後はさらに軽BEVを1万台、BEVバイクを1万4000台導入する計画を立てている。この計画通りに進めば、軽四輪自動車は約5割、二輪車は約4割がBEV車両となる。
-
日本郵政が導入した三菱自動車のミニキャブ EV
宅配便大手のヤマト運輸は、ラストワンマイル配達用(集配用)の車両として2019年にドイツ製の小型BEVトラック約500台を試験的に導入。2022年には日野自動車製の小型EVトラックを500台、2023年度にはふそう製の小型EVトラック900台と日野といすゞ製を300台、合計1200台を導入している。
同社は約4万台の集配用小型トラックを所有しているので、現時点ではまだBEVトラックの比率は低い。しかし「2030年までには2万台のEVを導入」という野心的な計画を立てている。都市部の集配車両はかなりBEV化されていくと考えていいだろう。
-
ヤマト運輸が導入した日野デュトロ Z EV
-
ヤマト運輸が導入したいすゞのエルフEV
小型商用車とBEVの相性がいい理由
さて、日本郵便やヤマト運輸がラストワンマイルの配達用にBEVを大規模に導入する背景はどこにあるのか? それこそが本稿のテーマである「商用EVがもたらす大改革」の理由であり、結論を言えば集配用の車両はBEVとの相性が抜群にいいからである。
相性がいい理由のひとつは、BEVの大きなウィークポイントが気にならないことである。BEVのウィークポイントは「(内燃機関車に比べて)航続距離が短い」ということだが、そもそも都市内におけるラストワンマイル配送用の車両であればこれは全く問題にならない。
ヤマト運輸に導入されている小型BEVトラック「日野デュトロ Z EV」の1充電の走行距離はWLTCモード計測で150kmだが、都市部のヤマト運輸の集配車両の走行距離は1日あたり40kmほど。全く問題ないのだ。
また、行動範囲と行動パターンが定まっているのも好都合。拠点で充電するだけで、外出先で充電する必要も公共の充電器に頼る必要もないし、それもクルマを使わない夜間の駐車中に普通充電するだけで事足りるのだからBEVとのマッチングがいいのだ。
給油に行く手間が省けるのもいいし、走行に必要なエネルギーコストも燃料より安く済む。
-
配送の拠点で充電している様子
そのうえで、BEVは走行特性としてもメリットが大きい。走りがスムーズなこと、そして静かなことだ。
BEVであればディーゼルエンジンのような振動がなくスムーズで快適だし、モーターは特性として回転し始めから極太のトルクを発生するので発進加速が力強く、滑らかで運転がしやすい。これはディーゼルエンジン搭載の小型トラックに対してアドバンテージがあるし、軽バンにおいてもガソリン車との比較してメリットも多い。
短距離の間に停止と発進を繰り返すラストワンマイルの配送車両にとって、そんなBEVの走行特性はきわめてマッチングがいいのだ。
しかも、モーターは走行音をほとんど出さないのでBEVはエンジン車に対して静か。騒音はないものと考えていい。閑静な住宅街で発進/停止を繰り返す使われ方を考えれば、それも大きなメリットとなるのだ。
問題は、エンジン搭載車に比べて車両導入のコストが高くつくことだろう。
しかし、ラストワンマイル配送用車両と考えれば、これも一般的なBEVに対して有利な面がある。
それは長距離を走る必要がないから、バッテリーが小さく済むことだ。BEVの車両価格が高いのはバッテリーに理由があるから。バッテリーは価格が高く、航続距離を伸ばそうとバッテリーを大きくすればするほど、車両価格が高くなる。逆に割り切って航続距離を短く想定してバッテリーを小型化すれば、BEVでも車両価格を下げられる方向となるのだ。
とはいえ現時点ではエンジン搭載車よりは高い車両価格となるのを避けられないが、エネルギーコストまで含めてトータルで考えればエンジン車との差は縮まる計算となる。
軽バンや軽トラックもBEVとの相性はいい
-
スズキとダイハツとトヨタが共同で開発したBEV商用軽バン
そんな商用車とBEVとの相性は、なにも配送業の集配車両に限ったことではない。たとえば花屋や酒屋といったお店の業務車両も、狭い範囲でしか使わないという条件は同様。通販系の配送車両だってそうだろう。それらはBEVとの相性がいいのだ。
現在、BEVの購入にあたっては国や自治体からの補助金が交付されるし、税金面の優遇もある。加えて自宅や事業所などで充電すればエネルギーコストを燃料よりも抑えられるので、軽トラックや軽バンを選ぶと条件(購入時の補助金や契約している電気代と走行距離)によってはガソリン車よりもBEVのほうがトータルコスト(車両購入費用+維持費+エネルギー代)を抑えられることもある。「総費用を抑えられるのであればBEVを選ぶ」という人やお店はこれから増えていくだろう。
また昨今はガソリンスタンドの数が減り給油の手間が増えたという地域も増えているが、それもBEVなら解消できる。農家で使われる日々の走行距離が短い軽トラックもまた、BEVとの相性がいい車両なのだ。
さて、ここまで読んで「大型のトラックはどうなのか?」と疑問を感じた人もいることだろう。本題からは外れるが、それについてもお伝えしておこう。結論からいうと、現状では大型トラックのBEV化は難しい。相性が良くないからだ。
なぜなら、大型トラックは一般的に日々の走行距離が長く、それは航続距離の制約が大きいBEVにとって不利な条件。そのうえ重量(車両重量+積荷)が重いから、走らせるためには多くのエネルギーが必要。それも航続距離を短くしてしまう要因となる。そのためバッテリーを大きくして、ますます重くなるという悪循環となる。
エンジン車の大型トラックをそのままBEVに置き換えるのであれば、乗用車や小型トラックとは比較にならないほど大きなバッテリーを積まなければならないだろう。
ということからも大型トラックのBEV化は、現状では輸送効率の悪い手段となることが避けられない。そのうえ、そんな大きなバッテリーを充電するのにどれだけの充電時間が必要なのか、高速道路の充電設備には大型トラックを止められないことなどをを考えてみれば、現実的ではないことは理解いただけるだろう。
大型トラックは水素を燃料とする車両が普及の可能性
-
いすゞ、スズキ、日野自動車、トヨタ自動車の4社が加盟する「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)」。「電動化」と「物流効率化」を事業の主軸に、燃料電池車両のトラックの実証実験や導入を進めている
では、大型トラックはどうなっていくのか?
実は、海外ではBEVの大型トラックを発表しているメーカーもあり、ルートの整備と拠点ごとの充電環境の整備やバッテリーの小型&高効率化、またホンダが開発を進めているという走行しながら充電できる技術の実用化など環境が整えば導入が進んでいく可能はある。
しかし、いま、有力候補とされているのは水素だ。水素を使って発電し、その電気でモーターを回して走らせる燃料電池のほか、水素をそのまま燃やす水素エンジンも考えられる。
水素であれば、大きな水素タンクが必要とはいえバッテリーほどは大きく重くならないし、航続距離の制約もなくなる。水素の充填はBEVの充電よりも時間はかからない。
現在の日本の水素ステーションは乗用車と路線バスを対象として市街地を中心に置かれているが、大型トラックが軸となればそれも変更となるだろう。トラックステーションや高速道路のインターチェンジ付近を中心に水素ステーションを設置することで、物流を支える存在(プラス乗用車へも充填できる)へと変化していくのだ。大型トラックを対象とすれば乗用車とは比較にならないほどたくさん水素を必要とするので採算もとりやすいことも水素の普及につながる。
これは日本のみならず、欧州でも北米でもカーボンニュートラル社会へ向けて大型トラックの将来は水素が燃料になっていくことが有力視されている。
(文:工藤貴宏 写真:ヤマト運輸、三菱自動車、トヨタ自動車)
BEVの真実と未来
-
-
電力事情が不安定な発展途上国でもBEVは普及するのか?・・・BEVの真実と未来
2025.01.30 コラム・エッセイ
-
-
小型商用車のBEV化が進行中。配送業から始まる変革の潮流・・・BEVの真実と未来
2025.01.27 コラム・エッセイ
-
-
欧州でのBEV減速の背景。BEVはこのままマイノリティで終わるのか?・・・BEVの真実と未来
2024.12.29 コラム・エッセイ
-
-
自動車大国で広大な国土のアメリカでBEV化はどう進むのか・・・BEVの真実と未来
2024.12.15 コラム・エッセイ
-
-
歴史に残る革新的なBEVと日本メーカーのBEV開発の歴史を振り返る・・・BEVの真実と未来
2024.12.08 コラム・エッセイ
-
-
BEVのメリット、デメリットと現状でBEVがマッチングするシチュエーション・・・BEVの真実と未来
2024.12.03 コラム・エッセイ
-
-
電気自動車の実用性能のバロメーター「バッテリー」。ゲームチェンジャーは“全固体電池”・・・BEVの真実と未来
2024.11.05 コラム・エッセイ
-
-
実は電気自動車がガソリンエンジン車より先に登場。BEVの歴史を振り返る・・・BEVの真実と未来
2024.10.31 コラム・エッセイ
最新ニュース
-
-
フォーミュラE、米国でF1を上回る人気に、視聴者数記録を更新
2025.02.12
-
-
車検の混雑を回避せよ! 2025年からの新ルール&賢い受け方ガイド
2025.02.12
-
-
自動車部品の端材をバッグや文具に、豊田合成のエシカルブランド「Re-S」東京ギフトショーに出展へ
2025.02.12
-
-
目指せゴールド免許! 約13年無事故無違反を続けられたポイントを伝授
2025.02.12
-
-
トヨタ『クラウン・オープンカー』…特別仕様を開発、製作する理由がある[詳細画像]
2025.02.12
-
-
“思わず二度見”した、超個性的な展示車両11選をお届け!・・・大阪オートメッセ2025
2025.02.11
-
-
レクサス『LX』初のハイブリッド「700h」、今春米国発売へ
2025.02.11