BEVのメリット、デメリットと現状でBEVがマッチングするシチュエーション・・・BEVの真実と未来
クルマには多くのパワーユニットが存在する。ベーシックなのはガソリンエンジンやディーゼルエンジンを積んだ「内燃機関車」だが、複数のパワーユニットを組み合わせた「ハイブリッド」もあるし、水素から電気を起こす「水素燃料電池」、そして本連載のテーマである「BEV(バッテリー式電気自動車)」だってある。
なぜパワーユニットがひとつに統一されないのか?
それはそれぞれに長所と短所があるからである。現時点では、長所ばかりで短所がないパワートレインというものは存在しないのだ。そしてそんな長所と短所によって、マッチングのいい使い方とそうではない状況が存在。繰り返すが、それはどのパワーユニットにも当てはまることである。
そこで今回は、ユーザー目線として「BEVと相性のいいシチュエーション」について考えていこう。
BEVの長所はどこにあるのか?
BEVの長所としてまずいえるのは走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないことだ。いわゆるカーボンフリー(あくまで走行中であり発電時の二酸化炭素発生状況は発電方法により異なる)であり、二酸化炭素が大気中に増えることで地球温暖化が進行するといわれている(あくまで「疑い」であり現時点において地球温暖化と二酸化炭素の関係は完全に解明されたわけではないが)。
だから地球温暖化を防ぐためにBEVの役割は大きいとされ、近年においてBEVの普及が促されている背景もそこにある。
しかし、それは「大義名分」ではあるものの、ユーザー目線として大きなメリットやBEVを積極的に選ぶ理由になり得ると感じられる人は多くはないだろう。
“ユーザー目線”としてのベネフィットはどこにあるか?
ではBEVを選ぶ理由の中でまず挙げられるのはスムーズで爽快な走りだ。モーター駆動車は本当に走りがスムーズで滑らか。比べるとエンジン車が砂利道の上を走っているかのような感覚なのに対し、BEVは雪の上をソリで滑走するかのような滑らかさ。エンジン車から乗り換えてみると、「エンジンってこんなに雑味があったんだ!」と思わずにはいられない(その振動などが躍動感としてエンジン車の魅力のひとつでもあるのは確かだ)。
それからトルクフルな走りも魅力だ。エンジンの回転を上げないと力を発生しないガソリンエンジンと違い、モーターはアクセルを踏み始めた瞬間から大きな力を引き出せる。たとえば急傾斜坂道を上るときや、バイパスや高速道路への合流といった中間加速域でその力強さを体感できるだろう。
それは、大きなクルマよりも軽自動車やコンパクトカーなど小さなエンジンを積むクルマでこそ、同じくらいの車体サイズのBEVとの差を実感できる。
それらの走行感覚により、多くの人々は「いちどBEVなどモーター駆動車を知ってしまったら、もうエンジン車には戻れない」という感想を持つのだ。
またエンジン車やハイブリッドの「給油」ではなく「充電」というエネルギーチャージ方法もメリットとなり得る。それはガソリンスタンドに行く必要から解放されることだ。
自宅に充電環境さえ確保できれば、自宅へ戻ったときにケーブルを接続するだけでチャージできる。「それって面倒なのでは?」と思う人もいるかもしれないが、手間としては月に数回ガソリンスタンドに行くよりも楽だという人のほうが多いようだ。
また、自宅で充電すればエネルギーコスト(充電にかかる費用)は内燃機関車のガソリン代に比べて数分の一程度で済むのも魅力である。
BEVのデメリットは?
いっぽうで短所は、まずは充電に時間がかかることだろう。数分で終わる給油と違い、バッテリーが減った状態からの充電はそれなりの時間がかかってしまう。
これは自宅充電ではあまり気にならないことでもあるが、外出先で急速充電などをする際には足かせとなる。バッテリーの減り方にもよるが、ある程度減っているのであれば30分程度(急速充電器の使用は30分までがマナーとなっている)はその場にとどまる必要があるからだ。そのうえもしも急速充電器の使用を待つ車両が数台いたら……。長距離移動の際は、それがハードルとなってくる。
また、外で充電する際に時間がかかることを考えると、BEVの所有にあたっては自宅に充電設備を用意したい。一戸建てであれば普通充電器を設置するのは簡単だが、マンションやアパートなど集合住宅や月ぎめ駐車場だとハードルは高い。
現在の日本でのBEVに適した生活環境とは
以上を簡単にまとめると、BEVの長所はスムーズで爽快かつ快適な走りと、ガソリンスタンドに行かずに済むこと、そして自宅充電の場合は走行時のコストが安く済むことだ。
いっぽうで短所は、自宅の充電環境が半ば必須と言えること、急速充電は時間がかかるから長い距離を走るのには向かない(そもそも急速充電器はガソリンスタンドほど多くない)ことなどである。
そんな長所と短所を踏まえると、もっともBEVの良さを実感できる使い方は充電設備を自宅に設置できる一戸建てで、出かけた先で急速充電をしなくて済むように近距離移動用として使うこと(それなら急速充電器の心配をする必要もない)。
さらに、遠くへ出かける際に使う内燃機関車やハイブリッドカーとの複数台所有だとベストだ。複数台所有は都市部では厳しいが郊外では1家で何台もクルマを持つのが基本なので、そのうち1台を街乗り用のコンパクトなBEVとするのがいい。
近距離移動用として航続距離を伸ばす必要がないから搭載するバッテリーが小さく済み、それは環境負荷が少ないだけでなく、(車両価格を下げられるので)ユーザーの財布にも優しい。
さらに、電気自動車は購入時に補助金などの優遇もあり、日産自動車のホームページによると、国の補助金(55万円)+エコカー減税(1.56万円)+自治体の補助金(東京都の例 ※再エネ電力導入の場合)70万円と、実に126.56万円もの優遇が受けられる可能性がある(2024年11月現在)。
つまり、現在の理想的なBEVの使い方でありBEVが得意とするシチュエーションとは、近距離移動用のセカンドカーとして車体とバッテリー搭載量の小さなBEVを(大型車に比べると)控えめの値段で買い、近距離移動用として使うことである。
実は、日本でのBEVの使われ方はその傾向がはっきり見てとれる。日本でもっとも売れているBEVは「日産サクラ」であり、2023年度は34,083台販売され、国内EV販売台数の約41%に達しているという。
同車は車体が小さな軽自動車。バッテリー積載量が少なく、価格もBEVとしては控えめだ。
それをセカンドカーの軽自動車として購入し近距離移動に使っているユーザーが、日本のBEVユーザーのもっとも多いスタイルなのである。
ちなみクルマの力強さの指標である「トルク」をみると、サクラの数値は軽自動車のガソリンターボエンジンの約1.5倍。加速や上り坂で誰もが実感できる、軽自動車らしからぬ力強さもBEVの魅力なのだ。
日本のBEV普及は、小さなクルマから広がっていくだろう。ここへきて再び、日本の自動車メーカーが小さくて実用性の高いBEVを発売する背景もそこにある。
(文:工藤貴宏 写真:トヨタ自動車、日産自動車、山内潤也)
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