欧州でのBEV減速の背景。BEVはこのままマイノリティで終わるのか?・・・BEVの真実と未来
欧州は16.4%に対して13.2%。
中国は22.2%に対して23.7%。
アメリカは7.2%に対して7.8%。
(日本は2.2%に対して1.6%)
この数字は、欧州、中国、そしてアメリカの新車販売におけるBEVのシェアだ(日本の数字は自販連の販売データに基づくもので、ほかは欧州自動車工業会、中国汽車工業協会、アメリカエネルギー省のデータをもとに調査会社KPMGがまとめたもの)。最初の数字は2023年通年、次の数字は2024年1月から10月の統計である。
中国とアメリカは“微増”ではあるものの、伸びが大きいというわけではない。いっぽうで欧州(そして日本)は明確に減っている。これが世間一般的に「BEVの踊り場」とか「BEVの失速」と言われているもので、並ぶ数字を見るとBEVに強い勢いがあるわけではないことを理解できる。
それを反映し、欧州の自動車メーカーではBEV戦略を見直すところも出始めた。たとえばBEV化の急先鋒として「2030年までに販売する車両の100%をBEV」にするとしていたスウェーデンのボルボは「2030年までに世界販売台数の90~100%を電動化車両とすることを目指す」と目標を変更した。
ここでいう“電動化車両”とはBEVとPHEV(プラグイン・ハイブリッド電気自動車)のことで、従来は「すべてエンジンを搭載しないBEV」としていたのが、PHEVも含める方向に切り替えたのだ。
さらに、残りの0~10%については「必要に応じて限られた数のマイルドハイブリッド・モデルを販売できるようにする」という。これまで“脱エンジン”の目標を掲げていたボルボが、エンジン搭載車の存続を明言したのである。これは大きな方向転換と言わざるを得ない。
ドイツのメルセデス・ベンツも今年「2030年までの全車電気自動車化」を撤回した。同社はかつて「市場がそれを望むならば」という前提付きで「2030年までに、販売する全新車を純粋なバッテリー電気自動車(BEV)にする」という計画を打ち出していた。
しかし2024年2月22日(欧州現地時間)に開かれた同グループによる2023年の決算会見で同グループのオラ・ケレニウス取締役会長(CEO)は、BEVの販売目標を下方修正したうえで、同計画の撤回を発表したのだ。
いま、各地で急速なBEVシフトからの転換がはかられている。それは誰の目にも明らかだろう。ドイツのフォルクスワーゲン社はいち早くBEVへと大きくかじを切り、そのため開発や生産設備に莫大な投資をした。しかしBEVは思ったほど売れず、莫大な投資の処理に困っている現実がある。
政府の政策としてBEV化を進めている中国は別として、欧州の多くの国やアメリカでは販売される新車の85%以上はいまだにエンジンが搭載されたクルマであり、その数字はしばらく変わることがないと考えるのが自然だ。
BEV戦略はなぜ、踊り場を迎えてしまったのか?
その理由は明確である。多くの消費者にとってBEVは「積極的に欲しい」という存在ではなく、上から押し付けられた施策に過ぎなかったからだ。市場原理を無視したところで普及するはずがないのは、当然のことである。
もちろん、スムーズな加速とかエンジンの音や振動がない快適性、自宅で充電すればガソリンスタンドへ行く必要がない……などBEVならではのユーザーベネフィットはしっかり存在する。そして、それらに惚れてBEVを選ぶ人も存在するのは間違いない。
しかし、BEVは航続距離や充電の不安があり、そもそも車両価格がエンジン車やハイブリッドカーよりも高い(そのうえリセールバリューが低い)というネガティブなポイントにより、多くの人にとって「積極的に選ぼう」という存在になり得ていないのが現状である。
そのうえ欧州の主要マーケットのひとつドイツは、2023年の終わりにBEV購入時の補助金を打ち切った。それをうけて販売台数が減ったのは当然の結果だろう。
話は少しそれるが、そもそも世の中がBEVに大きく舵を切る発端となったのは、欧州のいくつかの国が期限をつけて「エンジン車禁止」を打ち出し、その後2021年にEU(欧州連合)が「2035年に内燃機関(エンジン)の禁止」を決めたからである。
しかし2023年3月になり、EUは「環境に良い合成燃料を使うエンジン車は認める」と表明。事実上エンジン車の全面禁止はなくなり、エンジンは生き残ることになった。
そしてここへきてEU最大政党であるEPP(欧州人民党)は「2035年のエンジン車廃止を撤回し、2025年から施行されるCO2規制の見直しを図ること」を提案。環境保護政策のもとで消費者を無視した施策としてBEV化を推し進めてきたEUはいま、世の中の実情を踏まえて方向転換しようとしているのだ。
同時にEPPは技術中立的なアプローチをとり「持続可能な液体燃料を推進し既存の給油インフラとサプライチェーンを利用することを目指す」と表明。つまりエンジンの未来を探っているのだ。
また、ドイツの「緑の党」をはじめとする左派の環境政党がここへきて議席を減少させている動きも「BEV販売の減速」とは無縁ではない。ドイツでは少し前まで環境最重視を掲げた緑の党が連立与党のひとつとなっていて、その政策によりエネルギーまで含めた“グリーン化”がおこなわれた。
しかし、その結果としてエネルギーコストが高騰。国民が値上がりした電気代や暖房費に悲鳴を上げるだけでなく、コスト高からドイツの製造業が海外に移転するという動きも起きている。昨今いわれる“ドイツ凋落”の大きな理由の一つとなっているのだ。
フォルクスワーゲンのドイツ国内工場閉鎖騒ぎもその一環であり、無謀なまでの環境政策のおかげで明確に国力が衰えてしまった。ドイツにおいて緑の党が議席を減らしたのは「環境対策の負の面」という現実が見えたからであり、「環境対策のために貧しくなるのはノー」と国民が政治に対して表明した結果と言っていい。
そんな環境政策に対する認識の変化とBEVの未来がどう関係するのだろうか?
前提として、これまでのヒステリックなまでの環境政策はトーンが落ち着き、地に足の着いた施策となっていくことがあげられる。それは間違いない。その流れとして「無理やりエンジン車をやめさせてBEVを普及させる」ではなく「適材適所でBEVを普及させる」となるだろう。
これから先、長い目で見ればBEVが増えていくのは間違いない。しかし、強引に押し付けると必ずほころびが起きる。そうではなく、市場の原理に任せた緩やかな伸びで、少しずつBEVが増えていくというのが健全な姿だろう。
ちなみに、中国は2023年12月7日に発表された「2060年に向けた自動車産業のグリーン・低炭素発展のためのロードマップ1.0」において「内燃機関車は今後も相当な期間、自動車産業において重要な役割を果たす」と言及している。BEVを国の政策として強引に推し進めていると思われがちなあの中国でも“脱エンジン”ではないのだ。しっかりと適材適所を考えているのである。
「マイノリティかどうか」というよりも「適材適所」。それがBEVの正しい姿といえるだろう。
(文:工藤貴宏 写真:VOLVO、Mercedes-Benz、Volkswagen、BYD)
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