bZ4Xが月販No.1に!? BEV先進国でBEV/PHEVが売れる理由・・・BEVの真実と未来

  • トヨタ・bZ4X

    bZ4X


2025年1月、ノルウェーで興味深い出来事が起きた。トヨタ「bZ4X」が同国でもっとも売れたクルマとなったのだ。
bZ4Xといえば電気自動車。それが1カ月間とはいえ国内でもっとも売れたクルマになったというのだから驚くしかない。

そう聞くと「何かの間違いではないか」と思う人もいるかもしれないが、補足としてノルウェー特有の事情を聞けば納得するだろう。ノルウェー道路連盟の発表によると、販売される新車乗用車のうちほぼ9割(2024年通年は88.9%で前年の82.4%から上昇)がBEV(バッテリー式電気自動車)という電気自動車大国。すなわち“もっとも売れたBEV”が“もっとも売れたクルマ”となっているのだ。

世界一のBEV普及国のノルウェー

  • ノルウェーの街並み

    ノルウェーの街並み

2025年1月のノルウェーにおけるbZ4Xの登録台数は1188台(これでトップになれるということは新車マーケットの規模としてはそう大きくはないことがわかる)。しかもこの「首位」には背景があり、それは「1月に大量のbZ4Xが市場へ供給され、納車待ちの顧客向けに登録が進んだ」ということ(その前の月となる2024年12月の登録は極めて少なかったのでその反動があった)。

いずれにせよ、新車販売におけるEV(以下、EVの表記はBEVとPHEVをまとめたもの)比率が約2割の世界平均と比べると、ノルウェーにおけるBEV販売は驚異的な比率と言っていいだろう。ノルウェーは世界でもっともBEV普及率の高い国なのだ。
参考までに日本の状況は、2024年通年の新車販売(中型以上の商用車を除く)におけるBEV販売比率は1.4%で台数は3万4057台。PHEVは1.7%で4万3132台となっている。

気になるのは、なぜノルウェーはここまでBEVを普及したのかということ。同国は「2025年までのガソリン車の販売終了」を早くから打ち立ててBEV普及に舵を切ったが、単に目標を掲げるだけでなく様々なEV優遇策を進めてきたのである。
その結果として「EVのほうがコストパフォーマンスに優れる」という状況を作り出した。結論からいえばノルウェーの人々は「経済性の面からEVを選ぶ」という判断をしているのである。

ノルウェーでBEVが売れる理由① エネルギーコスト

  • ノルウェーのショースフォッセンの滝

    観光名所となっているショースフォッセンの滝でも水力発電が行われている

まずはエネルギーコストだ。ガソリンよりも電気のほうが大幅に安い。つまりBEVに適しているのである。

その背景にあるのは発電方法。ノルウェーは雪解け水を利用した水力発電が広くおこなわれ、それが同国で生み出されるエネルギーの約9割を占める。水力発電は再生可能エネルギーとしては安定的な発電がおこなわれる手法のひとつで、火力発電における燃料と違って水のエネルギー自体は無料だから発電コストも抑えられる。それが、EVに有利となる安い電力供給に繋がるのだ。
ちなみにノルウェーは石油が掘れ、石油輸出国であるものの、政府は気候変動対策の一環として化石燃料に高額な税金を掛けている。ガソリン価格は1Lあたり300円程だ(2025年1月時点)。

ノルウェーでBEVが売れる理由② 税制優遇

  • ノルウェーではカーフェリーも便利な移動手段の一つ

    ノルウェーではカーフェリーも便利な移動手段の一つ

もちろん、新車購入に関わる優遇税制もある。ガソリン車やディーゼル車を購入する際は25%の付加価値税が課せられるが、EV(BEV+PHEV)を購入する場合には免除される。
そのうえで、EVを所有し利用する上での優遇も多い。

公共の駐車場や有料道路、さらにはカーフェリーの料金で割引(概ね定価の50%以下で利用できる)が受けられる政策はクルマを利用するうえでとても魅力的だ(EVの増加により現在は廃止されたもののかつてはそれらが無料で提供された)。日本の感覚だと「カーフェリー」と言われてもピンとこないかもしれないが、フィヨルドの入り江を横断できるフェリーは道路を走るよりもショートカットできるのでクルマ移動に欠かせない存在であり、彼の地ではそこを優遇されるメリットは大きい。

EV専用駐車場やEV専用レーンが用意されるのに加えてバス専用レーンを通行できる“アメ”も与えられ、金銭的なメリットだけでなくスムーズな移動という面でもEVのアドバンテージを受けることができる(というかEV比率がここまで上がるとむしろエンジン車が迫害されているといっていいだろう)。それもEV普及を後押しした大きな理由のひとつだろう。

ノルウェーでBEVが売れる理由③ インフラ整備

  • ノルウェーの住宅でBEVを充電する様子

    ノルウェーの住宅でBEVを充電する様子

さらに、インフラの充実も大きなプラスだ。ドイツ自動車産業連合会のレポートによると、2021年はじめの時点でのノルウェーの公共充電施設は約2万基と多くはない。しかし、公共充電施設1基あたりの乗用車1台の登録台数は147台。これは世界でみてもその時点のトップであるオランダの109台に次ぐ少なさで、2021年時点での数値とはなるが車両1台当たりの充電施設が充実しているというわけだ。

しかもそれだけではない。極寒のノルウェーでは冬になるとガソリン車やディーゼル車の油脂類が凍ってしまう。凍るとエンジンを掛けられなくなるので、それを防ぐため車両のエンジンルームなどにヒーターが組み込まれており、駐車場にはそこへ電源を供給するための200Vアウトレットが用意されているのだ。それを充電に活用できるのである。これもEV普及にとってアドバンテージに他ならない。

ノルウェーでBEVが売れるのは「財布にやさしいから」

ノルウェーの人々がEVを買うのはなぜか?
それは、ガソリン車やディーゼル車を買うよりもトータルで考えて経済的だからである。「地球にやさしいから」とか「理想を求めて」という意識の高い理由も大切だが、ノルウェーの場合は「財布にやさしいから」と極めてシンプルなのである。

ただ、興味深い背景もある。EV優遇につかわれる補助金の財源だ。
ノルウェーは石油産出国であると触れたが、そこに天然ガスも加えた化石燃料は欧州を中心とした海外に輸出され、ノルウェー全体の輸出額の約7割を占めている(2023年統計)。そこで得た利益をEV優遇の原資として活用しているのだ。

つまりノルウェーは世界でもっともEVが普及する国であると同時に、他国で二酸化炭素を排出することを前提に成り立っているEV大国ともいえる。その是非はともかく、それが現実なのだ。

(文:工藤貴宏 写真:トヨタ自動車、写真AC)

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