日本では「CHAdeMO」。乱立するBEVの急速充電器の規格・・・BEVの真実と未来

  • 高速道路に設置されている急速充電器

BEV(バッテリー式電気自動車)とのカーライフにおいて切っても切れない関係にあるのが、バッテリーに電気を送って蓄えるための充電器だ。
今回は、同じBEVでも複数の規格が存在する充電器の違いや誕生の背景についてお届けしていきたい。

充電の方法は大きく分けて「普通」と「急速」の2つ

  • 日産リーフの充電ポート。左が普通充電、右が急速充電用のポート

    日産リーフの充電ポート。左が急速充電、右が普通充電用のポート

充電には2つの方法がある。ひとつは普通充電。設置された充電器のケーブルに接続するタイプのほか、100Vや200Vのコンセントに接続して車載充電器を使う方法もこれに含まれる。ゆっくりと時間をかけて充電するやり方で、家庭に充電器を設置する場合は普通充電器が相当する。スペースさえあれば大きな工事もなく設置できる。

もうひとつは急速充電だ。普通充電に比べて高い電圧をかけて早いペースで電気を流すのが特徴で、公共の充電器などで使われる方式である。外出した先においてできるだけ短い時間で充電するのに適しているが、設置には電気関係も含めて大きな工事が必要で、電気代も高額となる。

この記事で注目するのは後者の急速充電だ。実は急速充電器の規格は世界で統一されておらず、地域によって異なる規格となっていることをご存じだろうか?
現在使われている標準規格は3タイプ。「CHAdeMO」「コンボ規格(CCS1/CCS2)」そして「GB/T」である。

標準規格は「CHAdeMO」「コンボ規格」「GB/T」の3タイプ

  • Power Xの蓄電池型超急速EV充電器『Hypercharger』

    Power Xの蓄電池型超急速EV充電器『Hypercharger』

CHAdeMO

「(チャデモ)」は日本が中心となって作った規格で、日本の公共急速充電器は基本的にこの方式に基づいている。
このCHAdeMOは、2010年にトヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車工業、富士重工業(当時)、東京電力の5社を幹事会員とする「CHAdeMO協議会」の設立とともに誕生した急速充電機の商標だ。現在の幹事会員は本田技研工業、パナソニックホールディングス、日立製作所を合わせた8社となり、会員には国土交通省や自治体、海外の大使館、国内外の製造業、流通業、電力会社、研究所など500社以上が名前を連ねている。
なお、「CHArge de MOve=動く、進むためのチャージ」、「de=電気」、また「クルマの充電中にお茶でもどうですか」の3つの意味をもつ造語だ。

コンボ規格(CCS1/CCS2)

「CCS1」は北米の自動車に向けて開発されたもので、欧州向けの「CCS2」と兄弟ともいえる存在。CCS1とCCS2では充電口の形状が異なるが規格としては互換性があり、いずれも「コンボ規格(Combined Charging System)」と呼ばれている。

GB/T

「GB/T」は中国の標準規格。しかしCHAdeMOの技術支援を受けたことで充電口の形状や通信方法などにCHAdeMOとの関連が見られるのが興味深い。

急速充電器のスペック

世界の急速充電器標準規格は、日本のCHAdeMOに対し欧米コンボ、そして中国のGB/Tと3タイプに分かれているのだ。
スペックをまとめると以下のようになる。

名前 導入地域 規格上の
最大出力
通信方式
CHAdeMO 日本 400kW CAN
CCS1 北米 400kW PLC
CCS2 欧州 400kW PLC
GB/T 中国 250kW CAN

通信方式の「CAN」や「PLC」とは車両と充電器の間で情報をやり取りする手段に関する規格のこと。CANはクルマで活用することにおいて信頼性が高いが通信速度が遅い、PLCは電力を供給する線でやり取りできるがノイズに弱い、などそれぞれ一長一短がありどちらが優れているという判断はしにくいのが実情だ。

タイプは使用地域に合わせるのが基本

ところで、輸出車両で生産場所と使用場所が異なるなど、地域をまたぐとどうなるか?
その場合は生産国の仕様ではなく「輸出先に合わせる」のが基本だ。たとえば欧州車でもアメリカ車でも、はたまた韓国車や中国車でも、日本仕様の輸入車はCHAdeMOとするのが基本。なかには車両側の充電口などが対応できず変換ケーブルを用意してCHAdeMO対応としている車両もあるが、いずれにせよ日本で売っているBEVは輸入車でもCHAdeMO対応の充電器で急速充電ができる(後述するテスラ車もCHAdeMOアダプターを用意している)。

世界を席巻する新たな充電規格「NACS」

  • テスラの「NACS規格」のスーパーチャージャー

    テスラの「NACS規格」のスーパーチャージャー

いっぽうで今、それら世界各地の“標準規格”とは別にBEVの世界を席巻している充電規格がある。それが「NACS(North American Charging Standard)」(最大出力:250kW/通信方式:CAN)だ。
これはいうなればテスラ社の独自規格。テスラが自前で設置する急速充電器「スーパーチャージャー」に対応するものである。テスラは各地の標準規格ではなく独自の急速充電規格を採用しており、かつて「TPC規格」と呼んでいたものを「NACS」と改名したうえで仕様を世界に公開。テスラ以外の自動車メーカーにも参加を呼び掛けたのだ。
なにしろテスラといえば北米において最大のシェアを誇るBEVメーカーである。テスラの急速充電器は数が多いのだ。

そのうえ「コネクタが小さいうえにケーブルも軽くて使いやすい」「充電コネクタを車両に差し込むだけで認証までおこなえるので簡単」と使いやすいのもNACSの特徴。標準規格であるCCS1ではなく、こちらが優勢となるのも当然と言えるだろう。

その結果、北米ではテスラ以外の自動車メーカーも相次いで参加。GMやフォードといった米国メーカーはもちろん、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツ、そしてBMWといったドイツ勢も北米向けモデルはNACSにスイッチ。さらにトヨタ、日産、ホンダ、そしてスバルなど日本の自動車メーカーまでもが北米向け車両ではNACSに合流することを決めているのだ。

NACSは現時点において北米でもっとも使われている規格であり、NACSは2023年に「北米標準規格」へと格上げされている。

高出力が特徴の新たな充電規格「ChaoJi」

また、今後の話をすると日本と中国が開発し、アジアでの主力を目指している規格もある。CHAdeMO 3.0ともいわれる「ChaoJi(チャオジ)」だ。
2016年に検討会が立ち上がり、2019年には日本、中国、ドイツ、スイス、イタリア、オーストラリア、オランダ、韓国などが参加する「国際ChaoJi WG」が発足している。

上記の規格との互換性を確保することが前提で、この規格を採用した車両はCHAdeMO充電器とも変換アダプタを介して接続可能だし、ChaoJi充電器の規格上の最大出力は900kWと超高出力。
筆者の知る限り現時点で対応車両はまだ発売されていないが、世界最大のBEVマーケットである中国で普及すれば、数において世界最大となる可能性もある。

なぜ複数の充電規格が存在するのか?

ところで、率直に疑問を感じる人もいるだろう。どうして充電規格は世界共通ではないのか?と。
単刀直入に言えば、それは大人の事情である。ビデオの方式に「ベータ」と「VHS」があったように、スマホのOSに「iOS」と「Android」があるように、利害関係で覇権を争っている(?)というわけだ。

たとえばCHAdeMOも当初は世界標準規格を狙っていた。しかし、ほかにも同様の狙いをもった団体が存在し、そちらも自動車メーカーをはじめ各所に働きかけたために世界標準にはなれなかったということなのだ。
政治的な話をすれば「××地域と同じものは嫌だ」という感情的な側面もあることだろう。

いっぽうで、ユーザー側としては共通のほうが嬉しいのは言うまでもない。もしかすると、自動車メーカーだって「世界共通」にしたいと考えているかもしれない。同じ車種で数種類の充電器に対応するとなると、開発にも製造にも手間とコストがかかるからだ。充電器とのマッチングの検証も大変で、自動車メーカーは苦労している現状がある。
これからどうなっていくかは、見守るしかないだろう。

(文:工藤貴宏 写真:日産自動車、パワーX、テスラ、写真AC)

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