【最終回】充電環境や使用用途などBEVとマッチングがいい人・・・BEVの真実と未来

  • 日産 サクラ

BEV(バッテリー式EV)を中心に、時には水素まで含めた次世代エネルギーに関する話題で進めてきた本連載。最後となる今回のテーマは、これまでのまとめを兼ねて「“現時点”で日本においてBEVとのマッチングがいいのはどんな人か?」だ。

キーワードは、

  • 「一戸建て」
  • 「2台所有」
  • 「都市内移動(シティコミューター)」

ユーザー目線で、EVを買うことにメリットがある人を考えてみよう。

「一戸建て」~自宅で充電できる環境が必要

  • LEXUS RZ450e

ひとつめのキーワードは「一戸建て」。これは家の広さや敷地云々ではなく充電環境に関する話なので、マンションなど集合住宅でも各駐車場に普通充電器があれば「一戸建てに準じるもの」として考えていただいて結構だ(マンションなどで急速充電器のみの場合は含まれない)。大切なのは、自宅駐車場で普通充電できるか否かである。

まずお伝えしたいのは、BEVを所有する前提のひとつとして自宅で充電ができることは必須と考えたい。なかには「自宅で充電できないけれどEVに乗っている」というユーザーがいるのも事実だし、メーカー公式説明ではないが「自宅に充電器がなくても所有できる」と販売店レベルでは説明することもある。しかし、それにはふたつのハードルがある。ひとつは時間的なハードルだ。

たしかに毎日クルマを使うような環境ではなく走行距離が少なければ、人によっては「充電は月に一回で事足りる」となるかもしれない。でも筆者の考えでいえば、たとえ月に1度だとしても急速充電器へ出向いて数十分待つのはやっぱり面倒な行為だ。もしも充電器が埋まっていたら、充電の待ち時間はもっと長くなる。エンジン車の、気軽にサッと燃料を入れる行為とはやっぱり違うのだ。

なかには「そのくらいの時間は気分転換になってちょうどいい」と思う人もいるかもしれない。考え方や性格次第ではそう受け止めるのもアリだが、壁はもうひとつある。充電にかかる金額だ。これがふたつめの理由である。

実は、自宅で普通充電するのと外で急速充電するのでは、電気代が大きく違う。充電量、電気契約や料金プランなどによって異なるから一概には言えないものの、一般的に私設充電器による普通充電の電気代は安価で済むが、外部充電に頼るとエネルギーコストはガソリン車と同じくらいかかる場合もある。

それら2つの理由から、BEVを所有する場合は基本的に普通充電できる環境が必要。つまり、一戸建てが適しているのである。ちなみに一戸建てであれば、いま普通充電器がなくても簡単な工事で設置可能だ。

「2台所有」~BEVとガソリンエンジン車を用途に合わせて使い分ける

ふたつめのキーワードは「2台所有」。たとえ一戸建て住まいで自宅充電が可能だったとしても、走行距離(一充電で走れる距離)の制約から離れることはできない。かつてよりも外出先での急速充電器が使いやすくなったり、充電スポットをマップ上に表示してくれるアプリなどで探しやすい環境とはいえ、まだガソリンスタンドと同じ感覚で利用できるとまではなっていないからだ。

日常生活範囲ならともかく、旅行などで出かけた先で、急速充電器を前提とした行動をするのは神経を使う。実際に充電しようと行ってみたら休止中だったり、充電待ちの列ができている可能性もある。特に、多くの人が動く週末などの都市や観光地付近の高速道路サービスエリアでは、充電待ちが発生しがちだ。

それを解決するのはどうするか? クルマを複数台所有する方法がその一つだ。たとえば2台持ちなら、1台はBEV、もう1台はエンジンを積んだクルマとして、行先や目的地によって使い分ければ長距離移動時の充電問題は解決する。

「BEVを所有するために車をもう一台買うなんて、本末転倒ではないか?」と感じる人もいるだろう。しかし、大都市中心を離れた日本の多くの地域では、一家に複数台のクルマがあるのが一般的だ。複数台のうち、長距離移動の目的に合った1台をエンジンでも走る(充電しなくても燃料を入れれば走る)クルマとしておけばいいだろう。

もしくは、思い切って「普段は所有するクルマはBEVで、遠くへ出かけるときはエンジンで走るレンタカーかカーシェアを利用して乗り切る」というのも一つの手。あまり遠出をしないというのであれば、それもいい方法だろう。

「都市内移動(シティコミューター)」~小型BEVから普及する理由

  • 合計生産数10万台を突破した三菱 eKクロス EVと日産 サクラ

    三菱自動車の水島製作所で生産している軽乗用EV『三菱eKクロス EV』と『日産サクラ』を合算した生産累計台数が、2024年9月(生産開始から2年5カ月)に10万台を突破した

3つめのキーワードとなる「都市内移動」は、行動範囲に関してである。昨今は500キロ以上走るBEVも存在し、確かにそれらはエンジン車からの乗り換えハードルも低くなってきているようにも感じる。

しかし、航続距離を求めるならバッテリーの大型化は必須で、そうするとそもそも高いBEVの車両価格がますます高くなる。もちろん「それでもBEVを所有したい」というならそれを買うのも結構だが、経済合理性を考えると難しい選択肢と言わざるを得ないだろう(現時点では、BEVはリセールバリューが大きく下落しやすいという現実もある)。

そう考えた時に理にかなったBEV利用は、2台所有を前提で闇雲に走行距離を求めず小さなバッテリーBEVを選び、1台はエンジン付きのクルマを所有。自宅で充電し、急速充電器に頼らずに済む範囲を移動することだ。いわゆる「シティコミューター」としての活用である。それが現時点ではもっとも賢い、BEVライフといえるだろう。

そう考えると、日本のBEVマーケットでは「日産サクラ」がダントツの売れ筋であり、日本での乗用車でのBEV普及が「小型車のEVから」と言われている理由もよくわかる。

実は、これは商用車にも当てはまり、日本郵政はBEVの軽バン、大手宅配業者も小型トラックのBEV車両の導入を進めている。配送範囲と1日の走行距離がおおよそ決まっていおり、夜間に充電しておけばいいためBEV活用のハードルが低くなっているのだ。

乗用車の話に戻るが、2024年の日本国内のBEV販売総数は輸入車も含めて8万台ほどだったが、そのうち約4.5万台はサクラをはじめ「eKクロスEV」や「ミニキャブEV」などの軽自動車だった。それだけ「小さなBEVをシティコミューターとして使うのがもっとも効率的」だと気が付いているユーザーが日本では多いということである。

乗用車ではまずは小さなBEVが広がり、追って充電設備の拡充やバッテリーの進化なども踏まえて徐々にではあるがサイズの大きなBEVも増えていく。それが長い目で見たときの、いま日本において想定されるBEV普及への道筋なのだろう。

(文:工藤貴宏)

BEVの真実と未来

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