時代の声に応えてFFへと転換したファミリーカーの王道モデル【60年目のカローラ/5代目】
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5代目カローラ 4ドア 1500 SE サルーン
1966年11月に初代が発売されて以来、多くの人に愛され続けるトヨタ カローラ。これまでに12世代が世に送り出され、派生モデルも数多く登場しています。そしてカローラは日本の、そして世界のベーシックモデルというコンセプトはぶらさずに、時代が求めるニーズを巧みに取り入れながら進化してきました。2025年11月に誕生から60年目を迎えるカローラの歴史を6回にわたって振り返っていきましょう。
FF化でクラストップレベルの室内空間を獲得した5代目カローラ(1983年~1987年)
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5代目カローラGT
戦後の驚異的な復興から高度経済成長に発展した1950年代。そして東京オリンピックとその特需に沸いた60年代。そんな「上を目指す時代」に登場した初代カローラは、庶民のマイカー志向が高まる中で大ヒットモデルとなりました。初代カローラが登場した1966年は「マイカー元年」とも呼ばれます。
東京と大阪が高速道路で繋がった1960年代末。本格的なハイウェイ時代の始まりである1970年に登場した2代目カローラは、高速連続走行性能を高めて家族でロングドライブを楽しむ人たちを支えました。
一方で、1960〜70年代に世界中で深刻な社会問題になったのが大気汚染でした。工業の発展とともに工場から排出される有毒物質により健康被害を受ける人が増加。自動車の排気ガスも規制の対象になりました。1974年に登場した3代目カローラは年々厳しくなる排ガス規制への対応することを主軸に開発。さらに安全性能も高めることで、多くの人から選ばれるファミリーカーとしての使命を果たします。これにより車名別生産台数世界一という偉業を成し遂げました。
1979年に登場した4代目カローラは、人々が豊かな暮らしを送るようになった1980年代を見据え、シャープなデザインに変貌。そしてホイールベースを延長してキャビンを拡大。ゆとりを求める人々の期待に応えました。
ただ、カローラはデビューから一貫してFRレイアウトを採用していたため、小型車枠ではスペース効率を高めるのに限界もありました。FRはエンジンが縦置きになるためエンジンルームが大きくなり、後輪を駆動させるためのプロペラシャフトが車内を圧迫します。そのため、日産 サニー、ホンダ シビック、マツダ ファミリアなどのライバルモデルはひと足早くFFに舵を切っていました。
カローラは1982年にFFハッチバックのカローラIIを追加します。このモデルはターセル/コルサの兄弟車になりますが、カローラも今後はFFになることを予見したと考えることもできるでしょう。
そして1983年に登場した5代目カローラは、ライバルモデル同様に、FF車に生まれ変わりました。カローラのFF化は世界的な潮流であり、必然的なものだったと言えます。そしてコンパクトでありながら家族でロングドライブも楽しめるモデルとしては悲願だったはずです。
5代目カローラのコンセプトは「時代の最先端をいくベストフィットファミリーカー」。4代目からさらにシャープさを高めた中に丸みもある先進的なスタイルが特徴で、当時のカタログでは「(5代目)カローラのフォルムは、広い室内の確保と空力特性による低燃費を同時に追求した結果として生まれたものです」と説明しています。ボディタイプは4ドアセダンと5ドアのリフトバックをラインナップしました。兄弟車のスプリンターはリアドアの後ろにもガラス部がある6ライトキャビンで開放感が高められました。
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5代目カローラ 4ドア 1500 SE サルーンのインテリア
FF化で広くなった室内は、室内長1810mm(旧型比+100mm)、室内幅1380mm(旧型比+40mm)、室内高1160mm(旧型比+30mm)ともにクラストップレベルに。狭い路地や駐車場でも取り回ししやすいサイズながら広い室内を獲得したことをカタログでは「小学生のお子さまが、5年後に高校生になられてもゆったり乗れる室内」と、ヤングファミリーでもイメージしやすい身近な表現でアピールしていました。
リフトバックは前後フルフラットや左右独立して後席を格納することで荷室を広げられる多彩なシートアレンジを実現。レジャーシーンで活躍するモデルとして開発されています。
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5代目カローラ 4ドア 1500 SE サルーンの運転席
搭載エンジンは1.3L、1.5L、1.6Lのガソリン、1.8Lディーゼルの4種類を用意。上級グレードとなる1.6Lエンジン搭載車にはクラス初となる電子制御式4速フルオートマチック「ECT-S」が搭載されたこともトピックです。このATはエコノミー、パワー、マニュアルという3つの走行モードを選ぶことができました。
足回りには新開発したストラット式(フロントはLアームストラット式、リヤはデュアルリンクストラット式)4輪独立懸架を採用し、ネガティブキャンバーやラックアンドピニオンステアリング、エンジン回転数感応型パワーステアリングなどによってコーナリング性能や安定性が高められました。
ここでもファミリーユースを想定していて、カタログにも「かけがえのないお子さまや奥様を乗せる機会の多いクルマです。まず、乗り心地の良さを第一に考えました」と、基本から見直して新設計したそうです。
FRのまま進化し伝説となったAE86
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カローラレビン 3ドア
FF化により広い室内空間を獲得した4ドアセダンと5ドアリフトバックですが、カローラシリーズにはこれまでクーペもラインナップされていました。5代目ではスポーティさを打ち出したクーペはFF化せずにFR方式を継続。カローラシリーズではカローラレビン、スプリンターシリーズではスプリンタートレノとして販売されます。
当時、ワンダーシビックやバラードスポーツCR-X、ファミリアターボなどのライバル車がほぼFFである中でもレビン・トレノがFF化されなかったのには、5代目すべてのモデルをFF化することへのハードルや、当時スポーツモデルのFF化に慎重であったなどといった背景もありました。
搭載エンジンは1.5L(3A-U型)と1.6L(4A-GEU型)。1980年代はターボ車に注目が集まっていましたが、どちらもNAで登場します。1.5Lエンジン搭載車の型式はAE85は「ハチゴー」、1.6Lの「テンロク」と呼ばれるカテゴリーの中でもレスポンスの良さで特徴の名エンジン「4A-GEU」搭載車の型式AE86は。「ハチロク」として今なお多くのファンがいるモデルです。
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カローラレビン 3ドア
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スプリンタートレノ 3ドア
ボディはレビン・トレノともに2ドアと3ドアが用意され、トレノはリトラクタブルヘッドライトを搭載。トレノの3ドア、白黒2トーンモデルは『頭文字D』の主人公である藤原拓海の愛車として有名です。
また、AE86は“ドリキン”ことレーシングドライバーの土屋圭市氏が長年乗り続けていることでも知られています。土屋氏は1984年の富士フレッシュマンレースにおいてトレノを操り大活躍。これがきっかけで上位レースへのステップアップを果たしました。
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土屋圭市氏とAE86
AE86は1985年にスタートした全日本ツーリングカー選手権にも参戦。ハイパワーのライバル車を相手に善戦しました。もちろんトップカテゴリーだけでなく、アマチュアが参加するレースやワンメイクレースなど、さまざまなモータースポーツシーンで活躍しました。デビューから40年以上経った現在でもAE86でレースを楽しむ人もいます。ちなみに2025年8月時点で中古車は状態がいいと400万円以上の価格で取引されています。
1980年代はクルマの高級化やハイパワー化も進んだ時代。ハイソカーやデートカーと呼ばれるモデルにも注目が集まりましたが、FFのカローラはごく一般的な家族が気持ち良くドライブできるクルマという小型ファミリーカーの王道を貫き、スポーツモデルはFRで走りを極める。5代目カローラはウイングを大きく広げることで嗜好の異なるユーザーからの支持を集め、中でもスポーツモデルは今なお多くのファンを魅了する歴史的な一台になったのです。
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東京オートサロン2023に展示されたAE86 BEV Concept(電気じどう車/右)とAE86 H2 Concept(水素エンジン車/左)。年代を越えて人気のモデルだからこそ、こうしたスワップしたクルマも注目を浴びるのでしょう。
(文:高橋満<BRIDGE MAN> 写真:トヨタ自動車、平野陽)
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