愛犬にとって“いいクルマ”とは?――人間とは違う、快適性の考え方
安全の次に考えること
これまで本連載では、ペットとクルマの関係について、とくに安全性や装備といった観点から整理してきました。ドライブボックスや固定方法の重要性について触れてきたのも、その一環です。
では、その次に考えるべきことは何でしょうか。安全を確保したうえで、次に考えたいのが「快適性」です。ただし、ここでいう快適性は、走行中の居心地だけを指すものではありません。乗り降りを含めた一連の動作すべてが、愛犬にとって無理のないものであるかどうか、そこまで含めて考える必要があります。愛犬にとっての“快適なクルマ”とは何か。その基準は、私たち人間が考えるそれとは、少し異なるところにあるのかもしれません。
愛犬にとっての快適性は、大きく三つの要素に分けて考えることができます。「安心していられるか」「身体が安定しているか」「過度な刺激を受けないか」です。
愛犬は不安や緊張を感じた際、壁や人に体を寄せるような行動を見せることがあります。これは身体的な支持を得ることで安定しようとする行動の一例とされており、裏を返せば、体勢を保ちにくい状況では落ち着きにくくなる可能性があるとも言えます。
この視点をクルマに当てはめると、単純な広さや開放感が愛犬たちの快適性につながるとは限らない、という見方が成り立ちます。
「広い=快適」とは言い切れない理由
乗車中は加速・減速・旋回といった動きによって、常に加速度変化が発生します。乗員の身体には前後左右の力が加わり、姿勢を維持するための調整が求められます。
基本的に、空間は広いほど自由度が高まります。しかし、その広さを快適性につなげるためには、愛犬の身体を適切に支えたり固定したりする環境づくりも欠かせません。たとえばミニバンは室内空間の広さという点では魅力的ですが、適切に固定されていない状態では、車両の動きに対して体勢を保ちにくい環境になる可能性があります。
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愛犬にとっては、広さよりも体勢を保ちやすい包まれ感が快適性につながると考えられます。
例えば後席で、ある程度スペースを持って過ごさせている場合、ブレーキングやコーナリング時に体が流されやすいというケースも考えられます。こうした点を踏まえると、愛犬にとっては「広いこと」自体が快適性を保証するわけではなく、その空間をどのように使うかが重要であることが分かります。
SUV・ミニバン・セダン─愛犬とのドライブで考えたい車種ごとの特性
では、車種による違いはどのように考えればよいのでしょうか。SUVは一般に着座位置が高く、窓面積も大きいことが特徴です。これは人間にとっては見晴らしの良さというメリットになりますが、愛犬にとっては視界に入る情報量の多さを意味します。外を行き交うクルマや人、風景の変化など、動的な刺激が増えることで、注意が分散したり、車酔いにつながったり興奮しやすくなったりする可能性も考えられます。
もっとも、外の景色を眺めること自体を楽しんでいるように見える愛犬も少なくありません。刺激の多い環境を好む子もいれば、逆に落ち着きを失いやすい子もいます。こうした反応には個体差があることも意識しておきたいところです。
一方で、SUVには後席やラゲッジスペースに十分な余裕があり、クレートや大型のドライブボックスを設置しやすい利点があります。近年は移動時の安全性を重視し、愛犬をクレートやケージ内で管理する飼い主も増えていますが、そのような使い方との相性は良好です。特に大型犬や多頭飼育の場合、十分なスペースを確保しやすいSUVが有力な選択肢となるケースも少なくありません。
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大型SUVはラゲッジスペースにも余裕があり、「愛犬専用スペース」としても活用できます。写真はベントレー・ベンテイガの純正アクセサリー「Bespoke Dog Guard(専用ケージ)」です。(写真:Bentley)
ミニバンの場合、広い室内空間に加えて低床設計とスライドドアを備えている点が特徴です。愛犬にとって、段差の昇降は身体的な負担となる場合があります。とくに小型犬では関節や骨格への影響や着地時の衝撃によるリスクが指摘されることもあり、無理なジャンプを避けることが望ましいとされるケースもあります。その点、床面が低く開口部が広いミニバンは、飼い主が抱き上げて乗り降りしやすく、愛犬自身が出入りする場合でも動作が穏やかになりやすい構造と言えます。
また、スライドドアのメリットは単に開口部が広いことだけではありません。小型犬を抱きかかえながら、リードや荷物を持って乗り降りする場面は少なくありませんが、スライドドアであれば狭い駐車スペースでも安心です。電動スライドドアを備える車種であれば、さらに負担は軽減されるでしょう。
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ミニバンの低床・スライドドアは特に小型犬の飼い主にメリットが多そうです。写真はトヨタ・ノア/ヴォクシーのオプション装備「ユニバーサルステップ」です。(写真:トヨタ自動車)
もっとも、ミニバンにも注意すべき点があります。広大な室内空間は使い方によっては愛犬の行動範囲が広がりすぎるため、適切な固定を行わないと車両の動きによる影響を受けやすくなります。また、低床設計とはいえ、3列シート車では荷室部分の床面が比較的高い位置にあるモデルも少なくありません。中型犬がラゲッジスペースから乗り降りする場合には、想像以上に大きな段差となることもあります。
セダンの場合は重心が低くロールが抑えられる傾向にあり、車体の動きが比較的穏やかです。また、SUVほど開放的ではない室内空間は、外部からの視覚的刺激を適度に抑える方向に働くこともありそうです。その結果、落ち着きやすい環境になるケースも考えられます。
さらに、一般的に前後重量配分や車体剛性の面で走行安定性を重視して設計されているモデルが多く、長距離移動時の車両挙動も穏やかな傾向があります。愛犬にとっても、車体の動きが予測しやすい環境は安心感につながる可能性があります。
その反面、後席開口部やトランクスペースの使い勝手という点ではSUVやミニバンに及びません。大型のクレートを積載する際には制約が生じることも少なくありません。
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それぞれがもつメリットをうまく生かせるボディ形状として、筆者はステーションワゴンを選びました。
このように、ミニバン、SUV、セダンはいずれも異なる強みと弱みを持っています。乗降性や日常的な使いやすさを重視するならミニバン、クレートを活用した長距離移動や大型犬との生活を重視するならSUV、走行時の安定感や刺激の少なさを重視するならセダンというように、何を優先するかによって評価は変わります。
重要なのは、「愛犬に優しい車種」を探すことではなく、自分の愛犬の体格や性格、そしてクルマの使い方に合った環境をどう作るかという視点なのかもしれません。
乗り心地や運転の仕方も快適性を左右する
快適性に関わるもうひとつの要素が「揺れ方」です。サスペンションが柔らかい車両は路面の凹凸を吸収しやすい一方で、大きくゆったりとした動きを伴うことがあります。人間の場合、このような低周波の揺れは乗り物酔いを引き起こしやすい要因のひとつとされています。
愛犬においても、乗り物酔いは内耳の平衡感覚に関係すると考えられており、揺れ方や加速度変化の影響を受ける可能性があります。したがって、人間にとって「乗り心地が良い」とされるセッティングが、そのまま愛犬にとって快適であるとは限らない点に注意が必要です。
ここまで見てきたように、車両の特性は重要な要素ですが、それだけで快適性が決まるわけではありません。急加速や急減速といった操作は、加速度変化を大きくし、車内の安定性を損ないます。人間でも身体が振られれば負担を感じます。愛犬も同じ車両運動の影響を受ける以上、その負担は無視できません。
また、ドライブボックスやクレートの使用、設置位置、床面の滑りにくさといった要素も、身体の安定性に直接関わります。同じ車種であっても、これらの条件によって愛犬の快適性が大きく変わることは十分に考えられます。
結び:クルマ選びの“次の視点”として
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安全で快適なドライブで、愛犬たちも飼い主さんも旅先で楽しく過ごすことができます。
これまで本連載では、安全性という観点から装備や固定方法の重要性について取り上げてきました。その延長線上で今回あらためて見えてきたのは、「快適性は単純なスペックでは語れない」という点です。とりわけ見落とされがちなのが、乗り降りのしやすさを含めた“使い方全体”としての快適性です。
移動中の安定性だけでなく、日常的な乗降動作に無理がないかどうかも、愛犬にとっての負担を左右する重要な要素となります。広さや高級感といった人間目線の指標に加え、体の安定性、刺激の量、そして乗降性やドライビングといった要素を含めてクルマを捉えること。その視点を持つことで、愛犬とのドライブの質は大きく変わってくるはずです。
安全性を考え、快適性を考えた先には、「愛犬にとって、移動が楽しい体験になっているのか」という問いも見えてきます。今後はこうした前提を踏まえながら、具体的な装備や環境づくりについても、さらに掘り下げていきたいと思います。
(文:石川 徹 写真:石川 徹、Bentley Motors、トヨタ自動車)
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