雪道を思いやりのひとかきで快適に。福井県「みどりのスコップ」の取り組み

福井県では雪の季節が近づくと街中に「みどりのスコップ」が出現します。これは、歩道に積もる雪を「1人ひとかき」することで、通行しやすくしていこう! という取り組みで、「みどりのスコップひとかき運動」と呼ばれるものです。この運動が始まったきっかけなどを、福井県土木部道路保全課 雪・安全対策G 主任の松井義弘さんに伺いました。

1人が頑張るのではなく「1人ひとかき」でみんなを安全に

――「みどりのスコップひとかき運動」はどのようないきさつから始まったのですか?

車道除雪とは違い、基本的に歩道の除雪は地域の住民の方々にご協力いただいて行っています。中でも、交差点付近やバス停留所の周辺というのは人の往来も多く、雪がたまりやすいこともあり、横断に不便があったり、バスの乗り降りに危険が伴ったりということがあったのです。そこで、平成17年度より、交差点やバス停にスコップを置いて、そこを通りがかる人やバスを待っている人などに「少しだけ除雪をお願いしたい……」ということから始まったのが「みどりのスコップひとかき運動」です。

――なぜみどりのスコップなのですか?

んなのうろ、ようしやすく」の頭文字で「みどりのスコップ」としてスコップを緑色に塗って設置したそうです。当時の職員が考えたと聞いていますが、上手く考えたものだなと私も思っています。緑色だと白い雪の中でも目立ちますし、「映え」ますよね(笑)。

――「ひとかき運動」と呼びかけているのは何故ですか?

協力できる方に無理のない範囲でやっていただけたらよいなと考えているからです。できなかったらやらなくてもよい。でも、もしできるのであればひとかきでもふたかきでもやっていただけるとありがたいという気持ちです。例えば、1人が頑張ってやるのではなく、1人ひとかきでもいいからたくさんの方に協力してもらえたらと。思いやりの心でというのでしょうかね。そういう意識でやっていただければと思っています。

最初のスコップは福井豪雨の時にボランティアが使用したもの

実は、みどりのスコップはもともと、平成16年7月に起きた福井豪雨の時にボランティアの皆さんが使用したものなのです。福井市の中心部などが水浸しになったあと、泥を掻き出す作業に使われたものをきれいにして再利用しています。そういう意味では、ボランティア精神がつながっていっているのではないでしょうか。
初めてみどりのスコップを設置したのは福井豪雨の翌年、平成17年度からで、この年は30カ所でした。平成18年には100カ所に増え、現在は県内約160カ所までになっています。12月の初旬から準備を始めて設置を行い、3月の半ばくらいまで置いています。

冬の風物詩としてのみどりのスコップ

――今年で15年目になるみどりのスコップですが、県民の皆さんからはどのような反応がありますか?

普段は特にお声をいただくことはありませんが、2年前の平成30年の福井豪雪の時には、交差点などでの利用はもちろんですが、雪で動けなくなったクルマを助けるために使われたり、歩道に積もりすぎた雪を除雪するのではなく、歩きやすいように階段状に整えたりと大いに利用してもらえたと聞いています。

  • 県民の皆さん一人ひとりの力で支えられている「みどりのスコップひとかき運動」

    県民の皆さん一人ひとりの力で支えられている「みどりのスコップひとかき運動」

――12月にみどりのスコップの設置が始まるのを県民の皆さんは楽しみにされているのではないですか?

どうでしょうかね。「いよいよ、雪の季節が始まるなあ」と思うか、どちらでしょうね(笑)。

みどりのスコップも福井県の冬支度のひとつですが、冬期間の道路の安全を確保するための準備もしています。「みち情報ネットふくい(https://info.pref.fukui.lg.jp/hozen/yuki/)」というサイトがありまして、年間を通して道路の通行規制情報や、県内各地に設置された路面状況確認カメラの画像などを提供しています。冬期間(この冬は令和2年11月6日から令和3年3月31日までになります)は、通常の情報に加えて路面温度や積雪観測情報なども確認ができるようになります。福井県内を走行する際は、ぜひこちらのサイトもご確認いただければと思います。

  • 「みち情報ネットふくい」ウェブサイトより

    「みち情報ネットふくい」ウェブサイトより

――12月から今年の設置も始まりますが、松井さんもひとかきしますか?

そうですね。私もひとかきします(笑)。私がひとかきしている姿を誰かが見て、「自分もやってみようかな」というように思いやりの心が広がっていけばいいなと思います。

今年のみどりのスコップの設置は、12月上旬から準備しスタートする予定だそうです。一人ひとりの思いやりの「ひとかき」で、雪の季節も快適に過ごそうという「みどりのスコップひとかき運動」。冬道の安全確保のために役立つのはもちろんのこと、寒い冬に心あたたまる取り組みであると感じました。冬の福井県に行ったらぜひ、「ひとかき」してみたいものです。

<取材協力>
福井県土木部道路保全課
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/hozen/

(取材・文:わたなべひろみ/写真:福井県土木部道路保全課/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

コラムトップ