ガルウイングに後ろヒンジに…「ドア」の形がいろいろある理由
みなさんが普段乗るクルマには、どんなドアが付いていますか? 一般的には前側にヒンジが付いた「スイングドア」でしょう(ヒンジドアとも呼ばれます)。日本では「スライドドア」のクルマに乗っている人も少なくないですね。
一方で、クルマによっては「シザーズドア」や「ファルコンウイングドア」、そして「後ろ側にヒンジがあるスイングドア」など、個性的なドアを組み込んだクルマも存在します。果たして、それらのドアはどんな特徴やメリットがあるのでしょうか?
スライドドアは実用性が高く、子育て世代とのマッチング良好
まずは、ミニバンや背の高い軽自動車などで市民権を得ている「スライドドア」。その特徴はドアが後方へスライドすることで、メリットは明確です。所狭しとクルマが並ぶスーパーの駐車場など、クルマの隣に広い空間がなくてもドアを全開にでき、広い開口部を確保できるのが長所。
全開にするのにクルマの脇に広い空間が必要なスイングドアとは大違いで、狭い場所でも乗り降りしやすいのが魅力です。子どもが勢いよくドアを開けて、もしくは風などでドアが開いてしまい、隣のクルマや壁にドアを当ててしまうようなアクシデントも防げます。
電動化したスライドドア(電動スライドドア)は力がいらず、楽に開け閉めできることも使い勝手の上での大きなメリットといえるでしょう。また、電動スライドドアは、チャイルドロック(子どもの操作で誤ってドアが開かないよう、内側からの操作を無効にする仕掛け)を効かせつつ、運転席のスイッチでドアの開け閉めを管理できるのも、子どもを乗せる際には便利です。ウィークポイントは、価格や重量が増すこと(特に電動スライドドア)と、スイング式ドアに比べると構造が複雑な分だけ、故障の可能性が高まることでしょう。
スーパーカーが好む、上に開くドア
ドアを真上に跳ね上げるのが特徴の「ガルウイングドア」。市販車では、1954年に登場した「メルセデス・ベンツ300SL」が初採用しました。ガルウイングとは「カモメの翼」という意味で、ドアを開けた姿が、翼を広げたカモメに似ていることからそう呼ばれています。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で一躍有名になった「デロリアン DMC-12」やメルセデス・ベンツ「SLS AMG」、1992年に発売された軽自動車スポーツカーのマツダ「オートザムAZ-1」もガルウイングドアですね。
どうしてガルウイングドアを採用するのか? ドイツのメルセデスベンツミュージアムに展示されていた300SLの説明書きによると、「車体側面下部にはフレームが通っているので通常のドアのように広い開口部を設けられない。そこで開口部を最大限に確保するために天井まで開く特殊なドアとした」とのこと。
レーシングカーなど、車体側面に太い骨を通す構造かつ背の低いクルマにガルウイングドアを採用することが多いのは、そんな理由によるものと考えてよさそうです。
テスラ「モデルX」の後席に備わるドアは「ファルコンウイングドア」と呼ばれますが、これはテスラ独自の呼び名で、分類としてはガルウイングドアです。同社は「後部座席へのアクセス性を向上し、狭い駐車スペースでもドアを開くことができます」と説明し、実際に車体の脇に30cmの空間があれば完全に開けられるスグレモノ。
後席に組み込んでいるのがスーパーカーなどとの大きな違いですね。電動開閉式でキーのスイッチを使ってのリモコン操作もできるうえに、センサーを活用して天井などに接触しそうになると動きを止めるというハイテクもさすが。
バタフライドアとシザーズドアはどう違うのか?
ガルウイング同様に跳ね上げ式ですが、ガルウイングが真上なのに対し、前方へ持ちあがるのが「バタフライドア」や「シザーズドア」と呼ばれるタイプ。このふたつは似ていますが、バタフライドアはやや外側に向かって持ち上がり、開いたときはドア内張が下を向くタイプ。バタフライとは「蝶」の意味で、開いたドアが羽ばたく蝶のように見えるからそう呼ばれます。かつてはフェラーリ「ラ・フェラーリ」、トヨタ「セラ」、そして最近ではBMW「i8」が採用していますね。
一方、シザーズドア(シザードアと呼ばれることもある)は、ドアが真っすぐ前方へ跳ね上がる方式。イタリアのスーパーカーメーカーであるランボルギーニの「カウンタック」や「アヴェンタドール」などが採用し、ハサミのような動きから「シザーズ(=ハサミ)ドア」と呼ばれます。
「目立つため」と思われがちなこれらのドアですが、実は、開いたドアが邪魔にならず足を出し入れしやすいという実用面でのメリットも。そして、クルマの脇に広いスペースがなくてもドアを全開放できるのも長所といえます。
逆にウィークポイントは、ドアを閉じる際に手を伸ばしつつ力を入れて降ろす必要があること、そして天井が低い場所ではドアを開けられないことです。
後ろ側に開くスイングドアのメリットはどこに?
さて今度は、ガラリと変わって後ろ側にヒンジを備え、通常とは逆に“後ろ側へ開く”横開きドア。「ロールスロイス」は、これを「コーチドア」と呼び、多くの車種に採用しています。
現代の常識では変わった形に見えるこのドアには、実は大きなメリットがあります。それは開いたドアが乗り降りの邪魔をしないこと。足の出し入れの容易さは、「ドアの開く向きが変わるだけでこんなに違うのか……」と驚くばかりです。今では少数派ですが、たとえば初代「クラウン」、それから後にそのイメージで作られた「オリジン」の後席も、このタイプのドアでしたね。
では、このドアの欠点は? それは開いたドアを内側から閉めにくいことです。シートに座るとドアに手が届かないのですね……。つまり、ドアを開け閉めしてくれる人(運転手やドアマン)が存在する環境で生きる方式というわけ。ただ、最新のロールスロイスでは電動式となっていて、車内からスイッチ操作でドアを閉められるので、ドアを開け閉めしてくれる人がいなくても大丈夫です。
観音開きドアは、後席に荷物を置くときに最適
最後に紹介するのは、Bピラーレスの観音開きドア。リアドアは小さく、「コーチドア」のように後ろヒンジとなっています。また、リアドアのみを単独で開くことはできません。現行車種ではBMWの「i3」やマツダ「MX-30」などが採用していますね。
このタイプは、リアドアを備えているといっても、普通の4ドアとは使い勝手がかなり違います。開口部が小さく後席乗り降りには適さないかわりに、前席に座る人が乗りこむ際に後席へ荷物を置くシーンなどに重宝。「便利な2ドア」という感じですね。
理想を追求しつつ、個性を求めてドアの開き方を選ぶことが多い
特殊な開き方のドアを持つクルマには「より便利に乗り降りできるように」とか「構造上の理由」など、それぞれ背景が存在します。でも、根底にあるのは「車体構造や天井高さなど限られた条件の中でもっともスマートに乗り降りできること」でしょう。また、一部の車種では「理想の追求」や「個性を高めるため」として個性的なドアを採用することもあるようです。便利かどうかは別として、クルマ好きの中には「ガルウイング」や「バタフライ」、「シザーズ」など上へ開くドアに憧れる人も多いのではないでしょうか。
(文・写真:工藤貴宏/写真:ロールスロイス、BMW、フォード、メルセデス・ベンツ、マツダ、テスラ、ランボルギーニ、LEVC/編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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