リアルな街を完全再現! 交通安全を楽しく学べる「豊田市交通安全学習センター」

愛知県豊田市にある体験施設「豊田市交通安全学習センター」。休日には多くの家族連れでにぎわい、他の交通公園では見られない珍しい施設がたくさん! 信号や踏切、住宅棟や模擬コンビニなど架空の街並みが再現されていたり、自分の運転能力をチェックする機器があったりと子どもと大人が楽しみながら学べます。同センターの総統括責任者・伊藤嘉康さんに施設の成り立ちや思い、センターの見どころを伺いました。

「交通安全の街・豊田市」を目指し生まれた公共施設

約25,000㎡の敷地に交通安全学習館と屋外施設から成り立つ豊田市交通安全学習センターは、市内にあった「豊田市交通公園」を2010年にリニューアルする形で生まれた公共施設です。

「1970年に年間の交通事故死者数が16,000人を超え、“交通戦争”という言葉が生まれるほど交通事故が社会問題だった時代に作られた交通公園が前身です。全国にある交通公園が施設の老朽化や時代の変化とともに減少する中でも、交通死亡事故の多い愛知県、そして県内でも事故が多く発生する豊田市だからこそ交通公園を無くすのではなく、歩行者と自転車に特化した施設を整備しようと旧公園からリニューアルして誕生した施設です。クルマの街・豊田が“交通安全の街”となれるよう働きかけています」(伊藤さん)

豊田市初のPFI事業として、施設内の道路管理をする日本道路、建設管理をする矢作ビル&ライフ、特殊機器を管理する乃村工藝社、来館者対応や講習など、日常の維持管理を行うトヨタ中央自動車学校の民間4社から成り立つ豊田交通教育株式会社が運営しています。リニューアル後は、年間平均約10万人が来場する人気のスポットとしてにぎわっています。

街を疑似体験! 屋外エリアで楽しみながら交通安全ルールを身に付ける

  • 模擬コンビニ。中は休憩所として来場者が利用できる

施設は、交通安全学習館と屋外の市街地ゾーン、芝生と遊具で遊べる広場ゾーン、遊園ゾーンの3つのエリアに分かれています。

市街地ゾーンは、一般の市街地を模擬したリアルな街並みを再現。信号機や踏切、道路標識、商業施設、休憩所として利用される模擬コンビニなどが設置されています。ほぼ実寸大の街並みが再現されていて、歩きながらどこに事故の危険が潜んでいるのかを体感できます。

人気の遊園ゾーンは、ミニSL、ゴーカート、おもしろ自転車などがあり、レジャー感覚で楽しみつつもスタッフの声掛けで自然に交通ルールを伝える工夫をしているのだとか。

「例えばゴーカートでは、シートベルトのアナウンスだけでなく、乗る時はお子さんを先に、降りる時は親が先に降りて子どもを迎えましょうと声掛けをしています。こういった習慣が身に付くと駐車場での子どもの一人歩きや飛び出しが軽減できます。遊園の乗り物の利用案内をしつつ、親御さんの交通安全意識も高めていきたいです」(伊藤さん)

  • 踏切を渡るのんびり自転車

複数人で乗れる「のんびり自転車」は、市街地ゾーンにおよぶ施設内のコースをぐるりと巡ることができます。交通ルールを守りながら走行し、「踏切だから一旦止まろうね」といった親子の会話が自然と生まれていました。

また、普通自転車を小学1年生以上対象に貸し出しており、市街地コースを走行可能。自転車の運転に一生懸命で標識を見る余裕のない子どもに対しても、クルマの往来がない環境で道路の走行や標識の見方、一旦停止の重要性などを教えることができます。

「なぜ、事故が起きるのか」を自分事として考える

交通安全学習館の2階は、体験学習を通じて交通事故の原因となる危険な状況を学べるエリアです。「確認しよう!交通安全能力」「体験シミュレーション」「交通事故の真実」「バーチャルステージ」「交通安全チェック」と5つのカテゴリーに分かれ、交通事故をさまざまな切り口で感じ、考えることができます。

交通安全能力のチェックコーナーは、とっさの判断や運転操作ができるのか体全体を使って楽しめるテストが並びます。目の力測定では、動体視力・距離感覚・眼の動きの3種類を診断。自分の苦手な所を知ると事故防止につながります。

子どもたちが夢中で見入る「きけん!あんぜん!はっけんタウン」は、トミカのミニカーとジオラマで作られたミニタウンが再現されています。さまざまなクルマや街の施設のジオラマを眺めているだけでも時間を忘れてしまうほど。ミニタウンの中に潜む事故の危険を探しましょう。夜間の視認性や反射材の重要性を理解する模型も設置。

「もし事故が起こったら…」は、事故に遭った歩行者、事故を起こした運転者、事故に居合わせた目撃者それぞれのシチュエーションで正しい行動を答えるクイズ。画面上の携帯電話で110番をダイヤルし、警察とどのようなやり取りをするかの設問も。事故という冷静な判断ができない状況を、クイズを通して想像しながら疑似体験できます。

目指せゴールドライセンス! 交通安全クイズラリー

交通安全の達人を目指すための交通安全クイズラリー(有料200円)も人気。免許証を模したライセンスカードが発行され、施設内5カ所の端末にかざすと1日5問正解するまでクイズに挑戦できます。正解するたびに歩くコース、自転車コース、自動車コースとステージが上がるので何度来ても楽しめます。

ステージをすべてクリアするとゴールドライセンスを取得。ゴールドライセンス資格の子どもたちを対象にクイズ王のイベントも開催されているのだとか。歩行者だけではなく道路を利用するすべての人のことを理解できる内容のクイズラリーです。

豊田市内、すべての園児・小学生が授業の一環として来場

  • 住宅地の見通しの悪い交差点は危険なポイント。一旦停止して左右を確認

交通公園の役割を果たしながら、交通安全教育の講習を事業の柱としている同センター。豊田市内のこども園、私立幼稚園の4歳児、5歳児と市内小学校の1年生、4年生は必ず1年に一度は施設を訪れ授業として交通安全教育を実施。各年代によって、講座の内容はさまざまです。

5歳以下の園児は、道路の安全な歩き方や横断歩道の渡り方を学びます。「道路を渡る前にまず止まる」「自分の目でクルマやバイクを探す」といった内容を強調して伝えているそうです。小学1年生の講習では、施設内で車両を走らせる人形の飛び出し実験で危険性を学習。また、目標を持って歩く訓練として市街地ゾーンで子どもたち自身がルートを作り、信号の見方、安全な道路の渡り方を実践しながら目的地に向かうトレーニングも。

「小学校4年生は、自転車の講習です。普段から自転車に乗っていても、上手にブレーキをかけられず、無理やり足で自転車を止めている子どもたちがいます。手軽に利用できる自転車だからこそ正しい乗り方や基礎知識を学ぶ機会はなかなかありません。道路交通法を踏まえ、自転車を安全に運転する方法や意識を伝えています」(伊藤さん)

また、市内にある中学、高校には直接出向いて出張講習を行い、老人クラブに対しても施設来場や出張講習で高齢者の交通安全学習を促すなど、市民全体の交通安全意識向上に向けた事業を続けています。

2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で市内の園・学校の講習がすべて中止となりましたが、授業を楽しんだことをきっかけに親子で何度も訪れる施設として愛されているのだとか。休日に遊びに来た家族連れにも交通学習施設の機能が浸透しているのが印象的です。

「リピーターが多いこともあってか施設内の交通ルールを守る人がほとんどで、子どもが手を挙げて信号を渡る姿もよく見掛けます。年間数人程度は信号無視で横断してしまう人がいますが、見掛けたらスタッフが声掛けをしています。それも学習の一環ですし、何度も来ることで自然と交通ルールが身に付いてくれたらうれしいです」(伊藤さん)

子どもたちだけではなく、大人も改めて交通安全を学べる豊田市交通安全学習センター。交通事故を自分事として捉え、なぜ事故が起きるのかを学び、一人ひとりができることを考えるきっかけにつながります。 休日のおでかけで足を運んでみませんか。

<取材協力>
豊田市交通安全学習センター
http://www.kotsuanzen.jp/index.html

(取材・文・写真:笹田理恵/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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