日本でたった一台! クルマに乗ったまま電話が掛けられる「ドライブスルー公衆電話」

ファーストフードやコーヒーで馴染みのあるドライブスルー。クルマから降りずに買い物ができる便利なサービスはコロナ禍を機にさらに拡大していますが、愛知県日進市にはなんと「ドライブスルー公衆電話」があるのです。日本でたった一台の珍しい公衆電話について、NTT西日本名古屋支店広報と日進市産業振興課の担当者にお話を伺いました。

日本で唯一のドライブスルー公衆電話が、約31年ぶりにリニューアル

愛知県のほぼ中央部に位置し、西側に名古屋市、東側には豊田市が隣接する日進市。多くの大学があり、住宅地としても近年人気の高い人口約9万人の街です。ドライブスルー公衆電話は、市内中心部にある日進市役所の近く、NTT西日本日進電話交換所の横に設置されています。

ドライブスルー公衆電話は、1987年に長野県で初めて登場。携帯電話が普及する前で通信手段の主流が公衆電話だった時代、お客さまの利便性向上のためにドライブスルーで使えるよう設置されていたそうです。

「日進市に設置されたのは、1989年12月です。当時、ドライブスルー公衆電話が何カ所に設置されていたかは記録がないのですが、2005年時点では、全国で35台設置されていた記録があります」(NTT西日本担当者)

しかし、時代は変わって公衆電話に対するニーズが変化。総務省の発表する情報通信白書(2020年8月末時点)によると、国内の公衆電話総数は2000年で約73万台、2020年は約15万台と、この20年で4分の1以下に減少しています。

そんな中、日進市のドライブスルー公衆電話も設置から約31年が経過。施設の老朽化とともに消滅してしまうのではと心配する声が上がっていましたが、2019年6月になんと設備の補修をしてリニューアル! 元々は2台あった電話機を撤去し、新たに公衆電話機1台を導入。2つあった車両レーンを1つにする代わりに歩道が新設され、スペースにゆとりを持たせた安全なレイアウトに変更されました。では、実際の写真とともに新しくなったドライブスルー公衆電話の全貌を紹介します。

クルマから降りずに電話が掛けられる、画期的な公衆電話

比較的交通量の多い県道58号線を走っていると見えてくるのが、「ドライブスルー公衆電話」の大きな看板。かなりの存在感があります。

電話のピクトグラムの描かれた看板を目印に左折。レーンに沿ってゆっくりとクルマを進め、電話機の前で停車します。雨よけの屋根、白線などの路面表示もリニューアル時に新しくなったので施設の古さは感じません。

電話機は一般的なタイプで使い方も同じ。受話器を上げ、硬貨かテレホンカードを入れて電話番号をボタンでダイヤルします。受話器のコードは車体を傷つけないようシリコンカバーで覆われており、通常の約2倍である140cmの長さがあるのだとか。

このようにクルマを寄せて停めれば、運転席に座ったまま受話器を取って通話が可能。クルマから降りることなくスムーズに公衆電話を利用できます。

大規模災害時の利用も想定。「171」の使い方も掲示

  • 県道から見た外観

交通量の多い県道沿いにあるドライブスルー公衆電話。市民の認知度はどのくらいなのでしょうか。

「テレビ番組で何度か取り上げていただいたり、今回のような取材のお問合せをいただく機会もあるため、存在自体は広く知られているかと思います」(日進市産業振興課)

「利用状況は、保安上の観点から公表できませんが、現在でも年間を通じて一定のご利用をいただいております」(NTT西日本担当者)

普段あまり使われなくなっているとしても、公衆電話は災害時に欠かせない施設。なぜなら、災害時などの緊急時において電話が混み合い通信規制が実施される場合であっても、公衆電話は通信規制の対象外として優先的に取り扱われるからです。さらに災害が大規模に及ぶ場合は、公衆電話が無料化されることも。防災の観点から、近隣の公衆電話の設置場所を確認しておく必要があるといわれています。

ドライブスルー公衆電話の脇には、災害用伝言ダイヤル「171」の操作方法が案内されています。これもリニューアル時に新たに掲示されたもの。NTTの伝言預かりサービスを利用して安否確認ができますね。

また、夜間も使えるようLEDソーラー外灯が設置されました。太陽光パネルで充電して暗くなると自動点灯するLEDソーラー外灯は、バッテリーだけで最大5日間の点灯が可能。災害で停電になっても、この公衆電話は安全に使えるようです。

  • 施設内の歩道には、NTT西日本の災害対策の取り組みや100年以上にわたる公衆電話の歴史を紹介した看板が設置されている

  • 出口の脇にある看板

携帯電話が主流の時代ですが、24時間365日利用できるドライブスルー公衆電話。今後も残されていくのでしょうか。NTT西日本の担当者は、周辺の公衆電話の設置状況やお客さまの利便性や利用量等を総合的に勘案して、今後も決定していくと話します。

また、日進市は日本でたった一台の貴重な存在として残していきたいとのこと。

「災害時に活用いただきたいのはもちろんのこと、観光担当としては、2019年にリニューアルされ、さらに日本で唯一の存在となった公衆電話なのでお近くを通られた際にはぜひ一度見ていただければと思います」(日進市産業振興課)

使う機会が減った公衆電話を、ドライブスルーで利用するという他にはない体験を味わえる場所。災害時にも活躍が期待される施設ですが、昭和にタイムスリップしたような感覚になれるレアスポットです。

<ドライブスルー公衆電話>
所在地:愛知県日進市蟹甲町中島364-6 (NTT西日本日進電話交換所敷地内)

(取材・文・写真:笹田理恵/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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