山里の移動をかわいいコムスが支える! 高齢者の足としての「里モビ」のこれから
豊田市内からクルマで1時間弱、愛知県豊田市旭地区は豊かな自然に囲まれた山里です。公共交通機関も少なく、クルマ移動が主となるこの地域でも、高齢化による移動の問題が持ち上がっていました。問題解決の糸口を探るため、トヨタモビリティ基金の助成により名古屋大学が中心となって進めたのが「たすけあいプロジェクト」です。その一環として始まった超小型モビリティ・コムスを利用した「里モビ」を巡るこれまでとこれからの活動について一般社団法人里モビニティ(サトモビニティ) 代表理事 戸田友介さん、理事 鈴木禎一さん、同じく理事であり名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 社会的価値研究部門 特任准教授 中村俊之さんに伺いました。
人口の5割近くが高齢化。中山間地域の足のひとつとしてのコムス
現地でさっそく5台の超小型モビリティの乗り比べをさせていただきました。超小型モビリティとは、クルマより格段に小型で小回りが利く1~2人乗りコンパクトカーのこと。基本的にはEV仕様なので環境にも優しいものです。今回試乗させていただいたのは、トヨタ車体のコムス4台とパドックのe-mo(イーモ)1台。座席の高さや扉の仕様、低速度制限車とそれぞれの特徴を感じ、同時に中山間地域の坂道の大変さを身をもって知りました。場所を事業の拠点となっている「つくラッセル」内に移し、改めてお話を聞きます。
――「里モビ」の始まりは?
戸田さん:名古屋大学が代表となり、トヨタモビリティ基金の助成により、中山間地域である豊田市足助・旭地区辺りで移動に関する社会実装実験として何かやれないだろうかという呼びかけがあり、そこからスタートしたのが「たすけあいプロジェクト」です。「里モビ」はその一環なのです。
旭地区は、どんどん高齢化が進んでいる地域であり、高齢化率が5割近くにもなるのです。そんな中、今後の地域の足の選択肢のひとつとして超小型モビリティ・コムスはどうだろうということで、試してみることとなりました。ひとまず地域の皆さんにモニターとしてコムスに乗っていただき、本当にこの地域に適しているのか声を集めるサークル活動として始まったのが「里モビサークル活動」でした。
やはり実際に乗ってみるとわかることがいろいろ出てくるわけで。例えばこの辺りの住宅の特徴なのですが、家が山を背にして立っていることが多いのです。一般道から家のエントランスまで急峻な坂道となっており登るのがとても大変です。
――確かに、先ほどここに戻ってくる坂道を登るのがかなりきつかったです。
戸田さん:そうなんですよね。坂道が多いので、平地で乗るのとはやはり勝手が違います。
車両本体にしても、座席が低めで視界が低く見にくい、純正オプションのキャンバスドアのチャック開口部分が乗り降りの時に足がひっかかりやすいといった構造上の課題もありました。さらに、コムスに草刈機などの荷物を乗せて走りたいという声も。そういう意見をどんどん皆さんに出していただき、それらを解決するにはどうしたらいいかを考え、安全性を高めるための改造を加えていきました。トヨタ車体さんにご協力いただきつつ、モノ作りの得意な住民の方からもどんどん知恵と手を借りて、自分の好きな色に塗り替えるなどそれぞれ愛着あるコムスにしていきました。
ここ「つくラッセル」も拠点のひとつとして、里モビを広げていければと進めていましたが、ほどなくプロジェクトの3年目の期限が迫ってきました。しかし、その時点でもっと地域に密着した取り組みを続けていきたいと考えるようになっていたのです。
活動を続け見える化していくための「里モビ互助会」・「里モビLIFEプロジェクト推進協議会」への移行
――プロジェクトの期限後はどのように続けていくことにしたのですか?
戸田さん:活動を続けていきたいといっても引き継ぐ組織や資金があるわけではありません。そこで、当時、里モビを使っていた人たちで「里モビ互助会」という会を作り、これまでリースで使っていた車両は名古屋大学から一般社団法人おいでん・さんそんに譲渡してもらう形で活動を続けられるようにしました。互助会の皆さんにはメンテナンスのためのお金をプールしてもらい、自分たちでサークルの運営を行っていくこととしたのです。
一方、引き続き名古屋大学と豊田市も関わり、「里モビLIFEプロジェクト推進協議会」を2年間の限定で立ち上げました。客観的な目線で里モビを継続するために活動の見える化を行い、移動にストレスをかけない暮らし方を提案、より持続するための取り組みを行っていきたいと考えたためです。
この活動の中でも、皆さんには楽しくコムスに乗っていただき、移動距離や移動の総時間が延びていることから、おでかけ促進に繋がっているのだなという検証ができました。当初、セカンドカーのようなコムスは必要ないかも……と言っていた方でも、田んぼの水を見に行くとか、回覧板を回す、町内会の配りものをするなど、クルマを出すほどでもないけれども歩いていくにはちょっと遠いという距離を便利に使ってくれるようになってきました。
中村さん:クルマを使うにも、ガソリンを入れに行くのに往復15kmほどの距離がある地域ですからね。
戸田さん:そのためガソリンを入れるにもわざわざ時間をかけなければならない。かといって、山坂の多い地域で高齢者に自転車はきつい。コムスでの移動がちょうどよく便利だと認識されるようになってきたのです。また、コムスはクルマと違って閉鎖性がないので、通りすがりの人とのコミュニケーションも取りやすいのです。
鈴木さん:僕なんかは、雨が降っても雪が降っても毎日楽しく乗っています。クルマに乗っている人や道すがらの人に声をかけられることが多いのですが、エンジン音がないのですぐに話ができる。
――コムスをシェアするということはないのですか? あるいは個人での買取は?
戸田さん:そういう構想もあったのですが、山間部では個々の家からシェア拠点まで行くのが大変になります。結局、家の前にコムスがないと使い勝手がよくないということで、リースという形をとることにしました。また、買取ではなくリースであれば、高齢の方であと何年乗れるかわからないという場合でも安心して利用することができるわけです。
このように大学や行政、地元の人たちともしっかりタッグを組んで取り組んでいくうちに、大きな課題も見えてきました。クルマに乗るのをやめて免許返納しようかどうかと迷う高齢者の問題です。クルマを運転するのは不安になってきたけれど、生活のための足がなくなってはこの地域では身動きが取れなくなってしまう。かといって、シニアカーでは地形的に無理が生じる……では、通常時速60kmのコムスをもっと低速化してはどうだろうかと考えました。そこで、最高速度が時速30kmのコムスをトヨタ車体さんに試験的に造ってもらいました。
中村さん:交通工学的に時速30kmを超えると、万が一事故が起きたときに重大な事態につながるという報告があるので、安全を考えて決めた速度です。
戸田さん:検証として、5人の方に乗っていただき、低速の方がむしろいいかもしれないとの意見をいただいています。こうして実験や活動を行ううち、やはりまだまだ時間が足りない……ということになり、2020年12月に一般社団法人里モビニティを設立するに至ったのです。
いつまでも安全に自分で移動ができる手立てを考える
――里モビニティの目指すものは?
中村さん:この辺りのエリアでは、そもそも自分が動けないと生活が成り立ちません。里モビニティが目指すのは、「移動の自助」です。それを安全に支えるための仕組みを作ろうと考えているのです。
戸田さん:僕自身、デイサービスも経営していて、地域のおじいちゃん、おばあちゃんに接して感じるのは、自分で移動できなくなる、というのは本人にとって気持ちの面でものすごい負担になるのだということ。里モビをうまく使いながら、最後まで自分で移動をしてもらえるようなサポートをしていければと考えています。ゆっくり走れる超小型モビリティ車両の用意や体の老化の状態を定期的に検査していく、運転の状況をチェックしていく、あとはみんなで楽しく活動するなど、安全に配慮しつつきめ細かいモデルパターンを作っていけたらと。
中村さん:車両については、今後、おいでん・さんそんからと豊田市内で超小型モビリティのシェアリングサービスHa:mo(ハーモ)として使用されていたものを譲り受け、運用していく予定です。
――取り扱うコムスの台数が増えるのですね?
戸田さん:今よりも台数は確保する予定で動いています。
鈴木さん:僕がコムスに乗っているのを見て、「これ、どこで手に入るの?」と声をかけられることも多い。台数が増えれば、そういう方にも話ができるようになりますね。自分より年上の人たちにも提案して見てもらうっていうこともできる。
戸田さん:乗る本人ばかりではなく、ご家族の方にも安心していただくことも大事なので、その辺りもしっかり心がけて。
中村さん:そのためには車両を渡すだけではダメなので、地域の活動も一緒にやりましょうと声がけをして取り組んでいきます。
戸田さん:この活動がここで地固めをできたら、全国で同じ課題を抱えている地域の人たちとも協力していけるといいなと思っています。
里モビニティの活動は2021年4月から本格化する予定だそう。6月には自治区のイベントで新しいコムスのお披露目も兼ねた試乗会も行われるとのことです。「楽しくないと続かないから」という皆さんの言葉通り、楽しく移動の自立を続けられる枠組みができることを期待しています。
<取材協力>
一般社団法人里モビニティ
※現在、ウェブサイト準備中のため、問い合わせは下記メールアドレスへ
info@satomobinity.life
(取材・文・写真:わたなべひろみ/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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