子どもたちが思い描く自動車リサイクルの未来とは 「クルマのリサイクル」作品コンクール
循環型社会を目指し、自動車ユーザーやメーカー、使用済自動車の解体業者などが一丸となって自動車廃棄物の削減と資源の有効利用を目指す「自動車リサイクルシステム」。国内でさまざまな取り組みが進められている中、子どもたちに向けた教育も行われています。その一環として開催されているのが「クルマのリサイクル」作品コンクール。小学生が自動車リサイクルについて学び、その集大成としてポスターや標語で表現しています。コンクールを主催する公益財団法人自動車リサイクル促進センター(JARC)に自動車リサイクルの背景とコンクールの概要を伺いました。2020年度の受賞作品も紹介します。
日本で「自動車リサイクル」が始まった背景とは
多くの小学校では、主に社会科の自動車産業に関する授業で、自動車リサイクルが取り上げられています。そもそも国内の自動車リサイクルは、どのような経緯で始まったのでしょうか。「自動車リサイクル法」が生まれた流れを踏まえて解説します。
2002年頃、国内で年間約400万台(中古車輸出も含めると約500万台)排出されていた使用済自動車は、有用な金属や部品を多く含んでおり、資源として価値が高いものであるため、解体業者や破砕業者における売買を通じて流通する中でリサイクルが行われていました。
使用済自動車のリサイクル率は8割程度と低くはなかったものの、金属素材や部品をリサイクルした後に残る「シュレッダーダスト(ASR)」を処理するための埋め立て処分場が逼迫。また、鉄価格の低下の影響などによって、自動車のユーザー側が費用を負担して使用済自動車を引渡す「逆有償化」が起こるようになりました。そういった流れから、使用済自動車の不法投棄や不適正処理が懸念されるようになったのです。
また、使用済自動車のリサイクルでは、地球温暖化などに影響を与えるカーエアコン冷媒(フロン類)の破壊処理や専門技術を要するエアバッグ類の適正な処理も十分に進んでいませんでした。
不法投棄された使用済自動車から有害物質が流出し、土壌や地下水が汚染される問題や、不適正な処理により大気放出されたフロン類がオゾン層を破壊するなどの問題が浮き彫りに。これらの問題に対応するため、循環型社会形成推進基本法に基づき、2002年に使用済自動車の再資源化等に関する法律(通称「自動車リサイクル法」)が制定され、2005年から施行されました。
JARCは、循環型社会に向けた自動車リサイクルに関するさまざまな問題と課題に対応するため、自動車産業界の横断的機関として2000年に設立。使用済自動車の適正なリサイクル、資源の有効活用などの活動を行っています。
子どもたちが見据えた「クルマの未来」 コンクール受賞作品
JARCでは、子どもたちへの教育の一環として、「進め!くるまのリサイクル」という壁新聞を全国の小学校に配布しています。子どもたちが社会科の授業や壁新聞から得たクルマのリサイクルの学びを作品にするコンクールが2017年度から開催されています。
「日本の自動車リサイクルの取り組みは、世界から高く評価されています。JARCでは、未来ある子どもたちが、国民生活を支える産業や環境などの現状や将来を少しでも考えるきっかけになればと思い、全国の小学生向けに循環型社会に向けた自動車リサイクルに関わる人々の工夫や努力の取り組みを紹介しています。この作品コンクールはそんな学びの集大成として、子どもたちが自ら学ぶだけでなく、知ったこと、感じたこと、考えたことをみんなに伝えてほしいとの思いから開催しています」(広報・理解活動推進部長)
2020年度は、10,127件の応募があり、2021年3月29日、第4回「クルマのリサイクル」作品コンクールの受賞作品が発表されました。表彰式は開催されませんが、上位入賞者の小学校等を訪問して個別に表彰します。以下、受賞作品を本人による説明とともに紹介します。
※受賞者の説明は原文ママ
▶「ポスターの部」 受賞作品
最優秀賞 自動車リサイクル促進センター賞
僕のお父さんが乗っていた車もほとんどリサイクルされると聞き、もしかしたら僕が大人になった時、その車の部品を使った未来の車に出会えるのかもしれないと思った。リサイクルは地球に優しいので地球は笑っている。
毎日小学生新聞賞
背景は緑の植物、クルマとその部品は明るく輝く虹の色をイメージしました。クルマのリサイクルが豊かな自然に囲まれながら、永遠に続くことをメビウスの輪を使って表現しました。
審査員特別賞
「リサイクルをくり返す」という意味をこめて道路を走る車のように、リサイクルする様子をかきました。今後、このポスターで少しでも地球温暖化防止につながったらいいです。
審査員特別賞
リサイクルしやすい車は環境にやさしいので未来の地球へのプレゼントだと思いました。文字をみんなにわかりやすくするため、ひらがなとカタカナにし、「みらい」の文字や車をリボンをつかって表現しました。
審査員特別賞
人も車もいつかおわりがくる。消えてなくなるけど走ってきた思い出や想いは、形は変わっても必ず次へつながっていく。その未来が明るく輝く道であることを願って描きました。
▶「標語の部」 受賞作品
最優秀賞 自動車リサイクル促進センター賞
「車たち 生まれかわって そばにいる」
静岡県・川根本町立中央小学校5年 坂口快月(さかぐちかつき)
車の大部分がリサイクルされて、ぼくたちのくらしに役立っていることを知ってほしいと思いました。
毎日小学生新聞賞
「リサイクル 過去と未来の 夢のドライブ」
秋田県・鹿角市立花輪北小学校5年 井口琴梛(いぐちことな)
家族を乗せた車や一生けんめい働いた車が、役目を果たして、リサイクルされることにより、また新しい車として生まれ変わり、また思い出を作るために、走ってほしい。いつかは空を飛ぶ車へ生まれ変わってほしいから。
審査員特別賞
「また会える まわすハンドル みらいへと」
北海道・帯広市立豊成小学校5年 田村亜弥奈(たむらあやな)
たとえ、その車がのれなくなっても、リサイクルすれば、また別の車やほかの部品に生まれかわります。そのような考えをまわすハンドルにたとえて、表現しました。未来でまた会えるようにものを大切にしたいです。
審査員特別賞
「再利用 車が生み出す 可能性」
静岡県・下田市立稲生沢小学校5年 後藤奏翔(ごとうかなと)
乗り終わった車が新たな資源になってまだ使える部品は再利用されて車になることと、シュレッダーダストも細かく分けられて使われることからです。
審査員特別賞
「おもいでの つまったクルマ よみがえれ」
京都府・京田辺市立松井ケ丘小学校5年 加藤理奈(かとうりな)
もし、ずっと乗っていた車とお別れすることになっても、その車の部品をリサイクルすることで、世界のどこかでだれかがリサイクルされた車に乗ることで、思い出が引き継がれると思いました。
「学習の成果、メッセージ性、印象的な表現という部分に注目しましたが、自動車リサイクルについてみなさん大変良く学んでいて驚かされました。これからも問題意識を持ち続け、素敵な未来を創造していってほしいと思います」(広報・理解活動推進部長)
どの作品からも、子どもたちがしっかり自動車リサイクルについて学んでいることが感じ取れます。当コンクールを通じクルマの循環型社会の実現について考え、何かの行動に取り組むきっかけの一つになるのではないでしょうか。
<取材協力>
公益財団法人 自動車リサイクル促進センター
https://www.jarc.or.jp/
(取材・文・:笹田理恵/写真:公益財団法人自動車リサイクル促進センター/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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