採用車種が増加中!「電子制御シフトセレクター」の機能とメリット
かつて、AT車(CVTやDCTなども含む2ペダル車)のシフトレバーは、「レバー式」一択でした。ストレート式(一直線上を動かす)やスタッガード式(ジグザグに動かす)といった違いこそあれど、レバー操作でP、R、N、D……のポジションを選択肢するというスタイルに、メーカーごとの違いはなかったといっていいでしょう。
しかし、このところレバーによる機械操作ではなく、電気信号のみでシフトポジションを切り替える「電子制御式」のシフトレバー(電制シフト)を採用する車種が増えています。中には“レバーではない”車種もあるため、シフトレバーではなく「シフトセレクター」と呼ばれることも。
そこで、国産車を中心に個性的な電制シフトセレクターを、そのメリットともに紹介します。
普及のきっかけにもなったプリウス式
電制シフトセレクターの中でも、もっとも普及し、もっとも親しんでいる人が多いのは「プリウス式」と呼ばれるタイプでしょう。正式名称ではありませんが、2003年に登場した2代目「プリウス」に搭載されて普及し、ほかのクルマにも拡大されたことから、クルマ好きの間でそう呼ばれることがあります。
その特徴であり、従来のシフトレバーと異なるのは、操作後にレバーが中立位置へと戻ること。またP(パーキング)がボタン操作となったことも、従来の概念を覆すものでした。レバー操作ではなくボタンでPへ入れるのは、DやRとはまったく異なる操作とすることで、確実にPへ入れるという安全上の理由があります。
日産の最新タイプは、マウスを動かすような感覚
日産車が採用する電制シフトセレクターは、手で握れる箱状のデザインで全体を前後に動かす構造。パソコン操作で、マウスを動かすような感覚で扱います。Pはボタン式ですが、シフトセレクターの上面に組み込まれているのがポイントです。
初めて触れるときは操作性が心配でしたが、実際に使ってみるとそれは杞憂に。思っていた以上に扱いやすく、すぐに馴染める優れた設計だと感じました。
マツダは「逆L字型」に動かすのが特徴
マツダが「MX-30」で初採用し、「CX-60」などにも組み合わせるタイプは「エレキシフト」と名付けられています。特徴は、レバーが大きいので、一見したところ電子制御っぽくないこと。
動きは独特で、RとDは前後に動かして切り替えますが、Pに入れるときは横スライド。これは走行用のポジションと駐車ポジションで明確に操作を変えるという、安全上の理由からです。
ボタン式のセレクターに注力するホンダ
ホンダは、レバーではなくボタン操作で切り替える「ボタン式セレクター」を幅広く展開しています。ポイントは、Rのみプッシュではなくスライド式として操作方法に差をつけていること。
最初はこれまでのシフトレバーとのあまりの違いに驚きますが、使ってみると明確なボタン操作は理にかなっていることを実感します。
スーパーカーは知識がないと操作できない?
スーパーカーの多くは、独特ながら各社がほぼ共通するシフトセレクターを採用しています。一部で「スーパーカーシフト」と呼ばれるタイプで、前進時はインパネなどのスイッチやレバーに触れる必要がなく、パドルの「+」を引くことでDに入り、左右のパドルを同時に引くことでNとなります。
では後退する際はどうするか? 運転席に設けられたRのスイッチを押すと後退モードへ切り替わります。写真のレクサス「LFA」では、メーターパネルの左にRへ切り替えるスイッチが備わっています。
ハンドルを握ったまま指先で動かす、メルセデス・ベンツ
独自路線を進むのが、メルセデス・ベンツ。同社のモデルはごく一部の例外を除き、ハンドルの奥に伸びる細いレバーでシフト操作をおこないます。
そのメリットは、ハンドルを握ったまま人差し指や中指を伸ばすだけでシフト操作ができること。一度使ってみると、「こんな便利な方法があるんだ」と驚かされます。また、センターコンソールなどからシフトセレクターを排除することで、センターコンソールのデザインをスッキリできたり、大きな収納スペースを設けられたりすることもメリットでしょう。
電制シフトセレクターのメリットはどこにある?
電制シフトセレクターのメリットはいくつかありますが、まず大きなメリットは運転席のまわりの「デザインの自由度が高まる」こと。従来のシフトレバーは大きく、それなりのスペースを必要としました。しかし、電制シフトセレクターは小さく作れるので、レイアウトの自由度が高まります。
加えて、Pのみボタンとして、DやRとは明確に異なる操作とすることで、誤操作を防ぐ安全上のメリットもあります。もしDに入れたままクルマを離れても、ドアが開いたりリモコンキーが車外に持ち出されたことを検知して自動的にPに入れる機能も、多くの電制シフトに組み込まれています。
もうひとつのメリットは、クルマが「自らシフトポジションを切り替えられる」こと。たとえば、クルマがハンドル操作をアシストして駐車をサポートする機能がある車種では、クルマ(システム)がDとRを自動で切り替えることでドライバーの操作を減らしています。
最近のクルマに搭載されている、リモコンキーやスマホを使って車外から駐車/出庫するリモートパーキング機能は、クルマが自らシフト操作できなければ実現できません。
機械式から電子制御式になったシフトレバーは、誤操作を防ぐ工夫がなされていたり運転支援機能が実現されていたり、見た目以上に大きな進化をしているのでした。まだまだ変わっていくシフトセレクター。今後、どんなタイプが出てくるのかも楽しみですね。
(文・写真:工藤貴宏 写真:マツダ、ホンダ、トヨタ自動車、メルセデス・ベンツ 編集:木谷宗義 type-e+ノオト)
[GAZOO編集部]
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