【折原弘之の目】チャンピオン争いをしている時の気持ち(国本雄資選手)

11月27日に三重県の鈴鹿サーキットで、スーパー耐久レースの最終戦が行われ、2022年日本3大レースの全日程が終了し、各レースのチャンピオンが決定した。スーパー耐久は8クラスあるためチャンピオンになれる選手は多いが、SUPER GTは4人、日本最高峰クラスのスーパーフォーミュラは1人だけだ。2016年に、日本最高峰のフォーミュラでチャンピオンを獲得した国本雄資選手に、チャンピオン争いをしている時の気持ちを教えていただいた。

  • 2016年に現Super Formulaのチャンプとなった国本雄資選手

国本雄資選手
「結果論ですが、僕の場合チャンピオンを取れた年は色々な事がうまく転んだのだと思います。マシンの調子がシーズンを通して良かった事は、チャンピオンを取れた1番の要因ですが、少しマシンの調子が悪い時も、グリットが悪い時でも運よくポイントが取れたりしました。本当に色々なことがうまく回ったシーズンでした」

ここだけ取り上げると、運頼みでラッキーな1年と誤解を招く可能性もあるが、ライバルチーム、選手と究極の領域で紙一重の差で競っているからこそ、勝った選手は運の重要性を感じるのかもしれない。

国本雄資選手
「2016年のシーズンは、年間を通じて気持ちは熱くても頭は冷静でした。そのため、走っている時もミーティングしている時も、チームスッタフの思いや考えていることが、驚くほどわかるレースがありました。その時は、自分を俯瞰して見ている自分がいるんですよ。」

「でも、チャンピオン争いをしている最中は、この感覚を意識することはなかったです。振り返ってみるとそんな感じだったな。という感じ」

これは俗にいう、一流アスリート選手がゾーンに入った時の特別な意識状態だ。通常、選手はゾーン状態であることを意識することはないと聞くので、国本選手がゾーンに入っていたのは間違いないだろう。レース期間中に究極の集中力をもち、研ぎ澄まされた感覚をもつ者だけ、そしてゾーンに入れる者だけが日本最高峰クラスのチャンピオン争いができるということだろう。

  • 全ての要素が揃わないとチャンピオンを獲るのは難しいと語った

2016年の最終戦は、鈴鹿ショートコースでの2レース制だった。1レース目を優勝で飾った国本選手はポイント争いでトップに立っていたが、2~4位と僅差で最終戦の2レース目を迎えることになった。その時の心境は、

国本雄資選手
「1レース目で勝った後、もう2レース目は誰とも戦う気はありませんでした。とにかくチャンピオンを獲ることだけに集中したかったので、周りからどう思われても構わない。とにかくチャンピオンを獲る事に集中しました」

あの時、国本選手の2レースの順位は6位だった。私は当時現場で、この結果は緊張で思い通りのレースができなかったためだと想像していたが、違っていたことを今回知ることになった。現場で戦っている選手を生で見ているだけで、一流選手の思いや考えを正しく理解することは難しいということだ。

国本雄資選手は現在3カテゴリー全てで活躍している

  • Kids com KCMG Elyse SF19 18号車

  • シェイドレーシング GR86 884号車

  • WedsSport ADVAN GR Supra 19号車

写真 9,10,11 国本雄資選手は現在3カテゴリー全てで活躍している

国本雄資選手
「チャンピオンを獲れる順位にいるなら、誰とも戦わな
いと決めていたんです。レース後半に後ろマシンが追い上げてきたので、当然譲ったんです。僕を抜いた直後に、他の選手と接触していました。後付けかもしれないけど、周りの事も見えていたように思うんです。」

後ろから来たマシンに抜かれたくないと本能的に思うはずドライバーが、本能を押さえてレースするというのは勇気のいる行為だろう。私は、チャンピオンの可能性がある選手がチャンピオン争いと関係ないバトルを行い、アクシデントに巻き込まれチャンピオンを失うレースも数多く見てきた。
私が見てきたチャンピオンは、状況を考え本能を抑え、確実にレースをものにしてきている。国本選手は、獲るべくしてチャンピオンを奪ったとのだと思う。

最終戦に臨んだ時の気持ちはどうだったのだろうか。

国本雄資選手
「2016年の最終戦の鈴鹿に入って来た時、チャンピオンをとりに来ましたと公言していたんです。多くのドライバーは、“チャンピオン争いはあまり考えないように走ります”と言うのですが、僕は気持ちの強さを見せつけると言う意味でもあえてチャンピオンを獲り行くと明言したんですよ。誰よりチャンピオンが欲しいと思っていましたからね。」

国本選手は自分の気持ちを正直に、前面に出すと言うのは勇気のいること言っている。自分を奮い立たせ、向き合い、集中力を究極のところまで高めるために公言したのだろう。もちろん、その手法は選手それぞれだ。

国本雄資選手
「追う立場で最終戦の鈴鹿入りをする状況でしたので、強い気持ちでのぞめました。もし僅差で逃げる立場だったら、相当緊張すると思うし獲れたかどうかも分からないと思います」

レースを勝つのも、チャンピオンを獲るのもメンタルが強くないと獲れるものではないのだろう。今回話を聞いてみて感じたことは、“思いの強さが周りを動かし、自分の行動も変える”と言うことだ。シリーズチャンピオンを獲る時、そこには必然しかないと言うことも確認できた。

GT500クラスを制したTEAM IMPULの平峰/バゲット組

GT300はKONDO RACINGの藤浪/オリベイラ組がチャンピオンとなった

(文、写真:折原弘之)

折原弘之 プロカメラマン

自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。

作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/

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