新チーム参戦でさらにおもしろくなってきたダカールラリー、そのトレンドを紹介・・・寺田昌弘連載コラム

  • A.S.O._J.Delfosse_DPPI


今年で47回目を迎えたダカールラリーは、サウジアラビアを舞台に1月3日から17日にかけ、12ステージ、SS(競技区間)5,115kmを含む総走行距離7,759kmで競われました。

参戦台数は2輪134台、4輪157台(プロトタイプのアルティメイトクラス64台、市販車のストッククラス2台、プロトタイプの小型バギー52台、小型バギー39台)、トラック44台がスタートラインに並びました。

サウジアラビア国内での開催は6回目を迎え、ルートは格段に難易度を増すなか、新たなチームの参戦など中東、欧州はもちろん、近年は北米でも注目度が上がってきました。
今回、4輪カテゴリーで注目したところをお伝えします。

TGRにFord、Dacia、MINIが挑む

2024年大会はAudi RS Q e-tronに乗るカルロス・サインツ/ルーカス・クルス組が優勝。
Audiはダカールに電動化を持ち込み、フォーミュラEで使用していた駆動用モーターにDTMで使用したガソリンエンジンを発電機として搭載し、モータースポーツで鍛えた技術を組み合わせたシリーズハイブリッドマシンでの快挙でした。Audiの電動車を示す「e-tron」のブランディングを世界一過酷なモータースポーツの現場で成功しています。
Audiは2026年にF1参戦を発表しているため、今年からダカールには参戦していません。

2023年大会まで2連覇していたTOYOTA GAZOO RacingはGRダカールハイラックスEVO の6台体制で万全を期し、若手からベテランまでドライバーをラインナップ。さらにハイラックスで挑むOverdrive Racingも6台体制と合計12台のハイラックスが参戦。

そしてFord M-Sportが本格的に参戦してきました。
2024年大会では、過去2輪、4輪で総合優勝経験を持つナニ・ロマ選手とともにFord Ranger T1+で挑み、今回は一からマシンを製作し、前回王者のカルロス・サインツ選手、ナニ・ロマ選手、そしてDTMやラリークロスで優勝経験を持ち、ダカールでも頭角を現しつつあるマティアス・エクストローム選手、アメリカ人で前回プロトタイプの小型バギーで2位のミッチェル・ガスリー選手と4台体制。WRCに続き、TGRとFord M-Sportの戦いがダカールでも観られます。

さらにルーマニアの Daciaが新たに参戦。
前回大会までオリジナルマシンで参戦していたプロドライブが Daciaと組み、ナサール・アルアティア選手、セバスチャン・ローブ選手、女性ドライバーのクリスティナ・グティエレス選手の3台体制。
Daciaはルノーグループでルノーや日産のプラットフォームをうまく活用しながらシンプルでリーズナブルなクルマ作りが人気のブランド。このマシンのエンジンは日産3リッターV6ツインターボが搭載されています。

またX-raidのMINIは長年ディーゼルエンジンを搭載していましたが、他チーム同様ガソリンエンジンに換装してダカールにやってきました。

  • Ford Raptor/A.S.O._A.Vincent_DPPI

  • Dacia Sandrider /A.S.O._F.Le Floc'h_DPPI

  • MINI JCW Rally 3.0i/A.S.O._A.Vincent_DPPI

  • 総合優勝のヤジード・アルラジ/ティモ・ゴトシャルク組(中央)2位のヘンク・ラテガン/ブレット・カミングス組(左)3位のマティアス・エクストロム/エミル・ベルクヴィスト組(右)/A.S.O._C.Lopez

  • 総合優勝したOverdrive Racingのハイラックス/A.S.O._A.Vincent_DPPI

  • 2位のGRダカールハイラックスEVO(右)と3位のFord Raptor(左)/A.S.O._F.Gooden_DPPI

北米でも注目されてきたダカール

北米のモータースポーツといえば、インディ500やNASCAR、パイクスピークヒルクライム、そしてBAJA1000など、欧州のモータースポーツとは異なる文化でファンを魅了しています。

特にオフロードではバハ・カリフォルニア半島を一気に約1,000マイル走破するBAJA1000のデザートレースが頂点で、ダカールラリーの主催者であるASOは、2000年にBAJA1000に代表されるSCOREシリーズのマシンもダカールラリーに参戦しやすい環境を作りました。
2000年大会ではFordのプロトラックが総合7位に入るも、大砂丘には合わないマシンであったこともあり、アメリカでも認知が上がりませんでした。

しかし、2020年に二輪でHONDAのアメリカ人のリッキー・ブラベック選手が総合優勝したことや、北米で人気のSSV(小型バギー)のカテゴリーがPolaris、Can-Am(BRP)といった北米ブランドで盛り上がってきたことで、北米でもダカール人気が上がりつつあります。

今回4輪で総合優勝したハイラックスは、ニューヨークのタイムズスクエアにある大型LEDモニターに映像が流れたりしていました。

2輪から4輪の時代から小型バギーから4輪へステップアップ

ダカールラリーのレジェンドといえばステファン・ペテランセル選手。2輪で6回優勝し4輪で8回優勝しています。
このようにダカールラリーでは今まで2輪でトップ争いをしていた選手が4輪に転向して好成績を収める流れが定石でしたが、近年小型バギーでトップ争いをしていた選手が4輪に転向する流れができてきました。

またRed Bull Off-Road Junior team USA by BFGは若手ドライバー育成を目指し、今回TGRのセス・キンテロ選手、Daciaのクリスティナ・グティエレス選手、Fordのミッチェル・ガスリー選手、MINIのギヨーム・ド・メビウス選手を輩出しています。

オンロードでレーシングカートからフォーミュラにステップアップしてくるような流れがオフロードの世界でもできつつあります。

2026年大会からストッククラスが熱くなる

私も参戦していた、市販車に一定の補強を施したストッククラスは、ここ数年ランドクルーザーのみの参戦で、今回もTeam Land Cruiser TOYOTA AUTO BODYの2台のみでした。

FIAのクロスカントリーラリー部会の会長で、過去ダカールラリーで4輪総合優勝を果たしたユタ・クラインシュミットさんは、かねてよりSTOCKカテゴリーの参戦台数を増やすためにホモロゲーションの延長など施策を打っていましたが、車両規定を変更することで2026年大会からランドローバー ディフェンダーOCTAが3台体制で参戦することが発表されました。

マシンの詳細は未発表ですが、おそらくサーキットを走るレーシングマシンのGT3、GT4やWRCのRally2、Rally5のように市販車をベースとして、よりモータースポーツに適したマシンをメーカーで製作するのではと予想します。

また、総合優勝を争うアルティメットクラスのマシンと小型バギー、小型プロトバギーの走破性が格段に上がっているため、やがてSSルートはアルティメットクラス、小型バギー、小型プロトバギーとストッククラス、トラッククラスで変わってくるのではと予想します。

海外ではグローバルに年々盛り上がっているダカールラリー。
2026年大会の4輪カテゴリーは、さらに熱くおもしろいラリーが展開されるだろうと今から楽しみです。

  • 来年のトヨタ・ハイラックスの連覇に期待/TGR

文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。