【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#16

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

2nd ミキ、単独調査に乗り出す。
#16

あたりはすっかり暗闇に包まれている。
朝から関係者の話を聞き、それなりに収穫があった。充実感からか、アクセルを踏み込む足も軽い。傷が自損事故ではなく、ほかの車体と接触してついたものだということは気になるけど……。
思っていたより道は混雑していなかった。環状七号線を道なりに進んだあと、中原街道で左折する。ここまでくれば五反田の会社はすぐそこだ。
五反田駅前に出て、会社が契約している駐車場にマークXを戻す。その入り口で、同期の桜川と鉢合わせした。退社して駅に向かうところだったのだろう。
彼もこちらに気づいて駆け寄ってきた。心なしか、嬉しそうに見える。
「ミキちゃん、おつかれ」
運転席のパワーウィンドウを下げる。
「桜川さん、おつかれさま」
「今日はこのまま帰るの?」
もしかして食事にでも誘われるのだろうか。いろいろ相談したいことはあったが、今夜は先輩を待たせている。
「ううん、いったん、会社に戻る。その後、ちょっと予定があって」
桜川が残念そうな表情に変わった。
「そうか、じゃあ急がなきゃだよね。お先に」
後姿を目で追いかける。
契約している立体駐車場を後にして、会社のビルに急ぎ足で入った。
エレベーターを待つ間、スマートフォンを見ると、着信が2件あった。相手の名前はもちろん、加納淳子だ。「早く来い」という催促だろう。
そろそろ電話があるころだと思っていたけど……。言われることはわかっているので、すぐには掛け直さず、とりあえずそのままにする。
会社のフロアにはまだ何人か社員は残っていた。周藤はもういない。
資料を机に入れて鍵をかけると、すぐに会社を出た。
ビルを出て、加納淳子の携帯番号をリダイヤルする。すぐにつながった。
〈ちょっと、なにやってるの? 遅いよ!〉
予想通り、棘のある声だった。さらに酔いが進んでいることがわかる。背後はやっぱり、騒がしい。
〈ごめんなさい、いま向かっていますから〉
〈ダッシュで来て。みんな待ってるんだからね〉
〈え、みんなって、誰ですか? 淳子さんと尚美さん以外にも誰かいるんですか?〉
〈それは来てのお楽しみ〉
え、いったい、だれがいるのだろう? まさか、周藤だったりして……。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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