【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#18

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

3rd ミキ、合コンでイケメンに出会う。
#18

突然、飲み会に参加することになったけど、男性と一緒に飲むとは聞いていなかった。今日は、お洒落とかまったくしてないのに。完全にだまし討ちされてしまった。
ただ、もともとお酒は好きなので、今夜は飲むことにする。
隣に座っている男性は、女慣れしている感が満載だけど、イケメンだし目の保養にはなる。
仕事は不動産系で、名前は木村タカヒロだという。
「ミキちゃんは、もともと車が好きなの?」
わたしの仕事内容を話すと、そう聞かれた。車は大好きだ。でも、女性の車好きって、男ウケはどうなのだろうか。
「はい、好きです。タカヒロさんも、車、お好きなんですか」
「あ、俺? もちろん。ノーカー、ノーライフだね」
マイカーもあるという。都内で車を持っているということは、けっこう稼ぎもいいのかもしれない。
「どんな車に乗っているんですか?」
「いまはチェロキー。SUVが好きでさ。もしかしたら、ランクル70に乗り換えるかも」
「ランクル70はかっこいいですよね」
これは趣味が合うかもしれない。
「もしよかったら、今度、ドライブでもどう」
「仲良くなれたら……」
笑ってごまかした。最初からドライブデートをするのは抵抗がある。
「まあ、いきなりドライブデートはちょっとダメかな。まずは、食事だけでも」
「はい、それなら予定があえば」
その後も車の話で盛り上がった。わたしは結局、タカヒロとばかり話をしていた。駅に向かう途中で連絡先を聞かれ、断るのもどうかと思って電話番号とアドレスを教える。
「今日はもう帰っちゃうの?」
もうすぐ終電がなくなる。それに、今日は木曜日だ。
「ごめんなさい。明日は仕事ですし」
「どうしても? もう1軒、2人でどうかな?」
見た目通り、積極的なタイプのようだ。いつの間にか同じ会社の女性陣たちともはぐれていた。
「随分と、積極的ですね」
「ミキちゃん、めっちゃタイプなんだよね」
本心かどうかはまだわからないけど、褒められて悪い気はしない。
「ありがとうございます」
早速、次の週末は空いているかと聞いてきたが、少しはぐらかした。そうこうしているうちに駅に到着すると、見覚えのある顔が飛び込んできた。周藤だ。こっちを冷めた目で見つめている。どんどん酔いが引いていく。
なんでこんな時間にこんなところにいるのだろう。
会社のそばの駅だから、不思議なことではないけれど、よりによって、こんなタイミングで。
最悪だ……。
とりあえず、頭を下げて通り過ぎた。
「ミキちゃん、デートは絶対に約束だからね」
タカヒロが改札の向こうから呼びかけてきた。周藤にも聞こえそうなほど大きな声だ。
思わず周藤の方を振り向いてしまった。だが、もう五反田の街に消えていた。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]