【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#01

あらすじ

​​​​​​五反田にある総合保険調査会社「インスペクション」。自動車保険調査員になった上山ミキと、元敏腕刑事、周藤の凸凹コンビが難事件に挑む。ミキは、10年前に起きた父の失踪事件の真相に辿り着けるのか? 一カ月ごとに事件や謎が解決していく、車×ミステリーの連作短編小説!

第3話「Twitter男を調査せよ!」

1st ​マークX、熊谷へ走る
#01

わたしは周藤の運転するマークXで、埼玉県熊谷市へと向かっていた。
ある人物の行動を探るため、会社のiPadで、FacebookやTwitterをチェックする。だが、今日はまだ朝早いということもあってか、動きはないようだ。
会社で事前に調査シートを受け取って隅々まで目を通していたけれど、助手席で改めて資料を読み込んでみる。大手の損保会社からの依頼だ。
調査対象者は中山智史、31歳。地元の和菓子工場に正社員として勤務している。
半年前、中山が1人でスズキ・ワゴンRに乗り、さいたま市内の国道を走行中、対向車線から右折してきたトヨタ・アルファードと衝突した。
ワゴンRはフロント部分が大破。運転していた中山は激しい衝突の後、意識を失った。重傷ではなかったが、足に全治半年以上の怪我を負った。
アルファードを運転していた会社員に怪我はなく、すぐに警察に通報。過失の割合は8対2。相手が自分の不注意を認めたため、多額の保険金が中山に支払われた。
それから半年……。自宅で療養中の中山と思われる人物が、FacebookやTwitterを頻繁に更新しているのだ。
もちろん、療養中にソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を利用すること自体は問題ではない。今回問題になっているのは、投稿の内容だ。
先日は、軽井沢への旅行を満喫している様子がTwitterでつぶやかれていた。誰と一緒だったのかは定かではないが、投稿を見る限り、中山はすっかり元気になったように感じる。
また、事故に遭ったワゴンRを廃車にした後、若者に人気の軽自動車、スズキ・ハスラーに乗り換えたようだ。ボディカラーはパッションオレンジ ホワイトの2トーンルーフ。その車で、ドライブに出掛けている投稿もよくある。いったい、誰が運転しているのだろうか。
病院の医師からは“まだ就業は出来ない”との診断が出ている。休業補償をしている保険会社の担当者、西野が面会した時にも、ただただ辛そうにしていたらしい。
西野は怒りに震えていた。
「頼みますよ。わたしはね、フォローしているあのTwitterアカウントの投稿を見る度に怒りが込み上げてくるんですよ。どうかあいつの不正受給を暴いて下さい」
調査を開始してみないことにはわからないが、確かに、休業補償の不正受給を行っている可能性もある。以前、不正を暴いた、女子銀行員の事件を彷彿とさせるケースだ。
最近、個人がインターネット上にアップしたことが問題になるケースが増えている。例えば、SNSへの書き込みが、不倫や浮気の決定的な証拠になることも多いのだと言う。河口綜合法律事務所の河口仁や純もよく話していることだ。
気軽に情報を発信できるツールを多くの人が手にした現代。わたしもよく利用している。
でも、いったいなぜ、自らに不利になるようなことを発言したりしてしまうのだろう。
自分の投稿に注目している人がいるとは考えていないのだろうか。
もし、そうだとしたら、甘い。
わたしがきっとその不正を暴きだしてみせる。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト​​​​​

[ガズー編集部]