【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#10

第3話「Twitter男を調査せよ!」

2nd ミキ、チョコレート調査開始。
#10

旧車ショップを訪れたわたしは、オーナーの水野に事務所へ案内された。雰囲気のいい部屋で、気持ちが落ち着く。
​「ちょっと座っていてね」
言われるまま、ソファに背を預ける。
「どうぞお構いなく」
水野がコーヒーを入れてきてくれた。
「ありがとうございます」
水野も目の前のソファに座った。
「保険調査員の仕事を始めたって聞いたけど、どうなんだい?」
調査員の仕事を始めてから、ここに来たのは初めてだったことに気づいた。
「まだまだ半人前ですが、すごく充実した毎日です」
水野は嬉しそうに目を細めた。
「そうかい、それならよかったよ」
わたしは、コーヒーで喉を湿らせた。大事な相談を切り出そうと思っていた。
「ミキちゃん、お父さんが失踪してからもう10年かい」
わたしもその話をしようと思っていた。もしかしたら、水野はそれを察してくれたのかもしれない。
父もこの店を頼りにしていた。だから、水野は父のことをよく知っている。
「そうなんです。10年というと、長いようで、あっという間でしたが……」
水野が真顔でうんうんと頷いている。いろいろと心配をかけたことだろう。
「それで、電話で言っていた聞きたいことっていうのはなんだい?」
わたしは、ゆっくりと口を開いた。
「水野さん、以前、父が海外に行く前に少し気になることを言っていたと話してくれましたよね?」
「ああ、あれね。変なことを言ってしまったなと後悔したけどさ」
水野がコーヒーカップを持ち上げた。
「ヨタハチは大切な車だから、もし自分になにかあったら、引き取って誰か大切にしてくれる人に格安で譲ってあげてほしい、そう言ったのですよね」
水野が大きく頷いた。
「うん、そうなんだ。最初に聞いた時はさ、もし自分になにかあったらって、縁起でもないおかしなことを言うなって気になったよ」
「実は、わたしも同じようなことを言われたんです。もし自分になにかあったら、お母さんを守ってくれって」
水野が目を大きく開いた。
「そうだったのかい、知らなかったよ」
わたしはゆっくりとコーヒーを飲みほした。
「でも、ミキちゃんがどうしても自分が乗るって言って、その話は流れたんだよね。それが一番よかったよ。ずっと大切に乗り続けているんだから、お父さんもきっと喜んでいるはずだ」
水野は目を細めて腕を組んだ。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]