【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#6

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

​2nd ミキ、悩める乙女に!?
#6 ​真由子に相談

わたしと成田真由子は、目黒のビストロでワインを飲んでいた。
​わたしが最近ずっとひとりで抱えていた悩み……失踪した父が実の父ではなかったという事実を、やっと打ち明けることができた。
「なんて言っていいか……」
真由子も戸惑っているようだ。
「うん、でも、ひとりで抱え込むには重すぎて。聞いてもらえただけでもよかった」
「うん、わかる。お母さんにはもう、話したの?」
わたしは首を振った。
「それが突然、いなくなったの」
言葉と一緒にため息が漏れた。少なくなっていたグラスのワインを飲みほす。
「え、いなくなったって?」
真由子の声が大きくなった。
「あ、失踪とかじゃないよ。旅行。国は知らないけど、ヨーロッパだって」
「それは急に?」
真由子が怪訝な表情を浮かべている。
「そうなの。おかしいでしょ」
真由子がうなずく。そして、腕を組んで、黙りこくった。
「なんかちょっと気になるよね」
わたしは同意を求めた。
「うん。そのカーショップの人と、ミキのお母さんは知りあい?」
実はわたしもそのことを考えていた。カーショップのオーナー、水野から母にも連絡がいっていたのではないかと。ただ、連絡をしていたとしても、その時点では手紙になにが書いてあったかは知らなかったはずだ。
「一応、知り合いではあるね。どういうレベルの知り合いなのかはわからないけど……」
わたしは、ワインを飲もうとしてグラスを持ち、すでに空であることに気づいた。
「やっぱり、知りたい。誰が本当の父親なのか。それに……」
「それに、なに?」
「父が失踪した理由も知りたい」
わたしは真由子に初めてそのことを告げた。
「え、でも、お父さんは事故に遭ったんじゃないの?」
「うーん、でも、真相ははっきりしないままだから。自分で納得できるまで調べてみたい」
「だって、海外でしょ。確か、フィリピンだよね」
わたしはコックリと頷いた。大変なのはわかっている。でも、調べたいのだ。
「恋愛の悩みもあるのに、いろいろ大変だね」
真由子が苦笑いしている。
「考え事はそれだけじゃないんだ。いま、会社でもいろいろ問題が起きていてね……」
「え、また仕事関係で悩み?」
真由子が気の毒そうにしながら、ワインを飲みほした。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]