前代未聞のミドシップミニバン! 1990年登場の初代「トヨタ・エスティマ」を振り返る・・・懐かしの名車をプレイバック
グローバルで通用するミニバンを
ミニバンというと、今は背の高い箱型のボディーに3列シートを備え、2列目以降はスライドドアでアクセスし、短いノーズの中にパワーユニットを横置きして、前輪あるいは4輪を駆動するというパッケージングが一般的だ。
でもクライスラーがミニバンというカテゴリーを提案した1980年代から20世紀が終わるぐらいまでは、今ほど内容が定まっておらず、いろいろなパッケージングやデザインがあった。そのなかでも独創性で群を抜いていたのが、トヨタが1990年に発売したエスティマだ。
当時まだ日本ではミニバンは一般的ではなく、トヨタで3列シートの乗用車は、「ハイエース」などのワンボックスカーかSUVの「ランドクルーザー」、そして後ろ向きのサードシートを備えた「クラウン」のステーションワゴンぐらいだった。
現在のミニバンと同じ横置きパワーユニットの前輪駆動の車種としては、「日産プレーリー」や「三菱シャリオ」があったものの、いずれも5ナンバーサイズ。つまりクラウン同様、日本国内向けに開発されたモデルだった。
そんななかでトヨタは、北米をはじめとするグローバルで通用するミニバンを企画した。これがエスティマで、海外では「プレビア」と呼ばれた。
強力なライバルの存在
最大の特徴は、「天才タマゴ」というキャッチフレーズどおり、ノーズからリアエンドまできれいなワンモーションで描いた卵形のフォルムで、エンジンを前後タイヤ間の床下に寝かせた、アンダーフロアミドシップレイアウトとした。リアサスペンションにダブルウイッシュボーンをおごったことを含めて、走りを意識した成り立ちに感じられた。
このうちエンジンについては、当時のトヨタが開発中で、東京モーターショーにも参考出展された2ストロークが考えられていたというが、日の目を見ることがなかったため、ハイエースに積まれていた4ストロークの2.4リッター直列4気筒を搭載した。
しかし北米ではクライスラーをはじめ、多くのミニバンが3~4リッタークラスのV6エンジンを搭載していて、2.4リッター4気筒では力不足と評価された。そのため途中でスーパーチャージャーを追加したが、床下に積んだエンジンからの振動や騒音が気になるという声は消えなかった。
一方、日本では、当時はまだ珍しかった3ナンバーサイズのボディーがネックになった。そこでトヨタは5ナンバーサイズに収めた「エスティマ エミーナ」「エスティマ ルシーダ」を途中で追加。こちらには2.2リッターディーゼルターボも用意し、リアサスペンションはリジッドアクスルにするなど、経済性にも配慮していた。
それでも初代エスティマは大ヒットとはいかなかった。理由は1994年にホンダから「オデッセイ」が登場したためだ。現在のミニバンの定型といえる横置きパワーユニットを持ち、低いフロアと高すぎないルーフによりセダンやワゴンに近い走りを実現したことで、人気を独り占めしてしまったのだ。
もしも再登板があるのなら
オデッセイの影響もあったのだろう。エスティマも2000年のモデルチェンジで、横置きパワーユニットの前輪駆動を基本とする方式に変わった。卵を思わせるスタイリングは受け継ぎながら、V6エンジンも手に入れた。フロアが低くなったことも初代との違いで、ミニバンとしての商品力は確実に上がっていたと思う。
それでも今、エスティマと聞いて僕がまず思い出すのは、間違いなく初代だ。低い重心と理想的な前後重量配分、ワイドボディーによる安定感、ダブルウイッシュボーン式リアサスペンションがもたらす走りは安定感にあふれていて、背の高さを忘れさせてくれた。
もうひとつ初代にこだわる理由はインテリアだ。確かに床は高いしエンジンのうなりは気になる。でもセンターが大きく手前にせり出したインパネは、殻の中で黄身を支えるカラザを思わせた。外観だけではない。卵の中に入って運転しているような感覚が味わえたのだ。
最近になってエスティマが、電気自動車になって復活するといううわさが流れている。駆動用バッテリーは床下に積むはず。つまり初代のエンジンをバッテリーに置き換えたような内容になるわけで、卵のようなフォルムはエンジン車より実現しやすいだろう。
だからこそ、エクステリアだけでなくインテリアも卵を意識したデザインにしてもらったうえで、再登板を果たしてほしいものだ。
(文=森口将之)
初代トヨタ・エスティマ(1990年~2000年)解説
1990年に発売。車名は英語で「尊敬すべき」という意味の「ESTIMABLE」に由来する。ホイールベース間のフロア下にエンジンを搭載するという世界でも類を見ないタイプのミドシップレイアウトと、ボディーの前端から後端までをワンモーションで描く流麗なスタイリングが特徴だった。
エンジンは最高出力135PSの2.4リッター4気筒「2TZ-FE」で、のちにこれにスーパーチャージャーを装着した最高出力160PSの「2TZ-FZE」を設定。1992年には5ナンバーサイズの「エスティマ エミーナ」「エスティマ ルシーダ」をラインナップに加えた。
2000年1月に登場した2代目エスティマは一転してフロントエンジン・フロントドライブに。これによって大型エンジンの搭載が可能になり、3リッターV6(最高出力220PS/最大トルク31.0kgf・m)モデルが登場した。2001年6月には「エスティマハイブリッド」がデビュー。
トヨタとしては「プリウス」に次ぐ2車種目のハイブリッドだった。2006年に3代目にフルモデルチェンジ。2016年にはフロントデザインを一新するマイナーチェンジを受けたが、2019年に惜しまれつつ生産が終了した。
初代トヨタ・エスティマ諸元
グレード:2WD
乗車定員:7人
車両型式: E-TCR11W
重量:1730kg
全長:4750mm
全幅:1800mm
全高:1780mm
ホイールベース:2860mm
エンジン型式:2TZ-FE
エンジン種類:直列4気筒
排気量:2438cc
最高出力:135PS/5000rpm
最大トルク:21.0kgf·m/4000rpm
サスペンション形式: (前)ストラット式、(後)ダブルウイッシュボーン式
(GAZOO編集部)
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