いすゞ史に残る成功作! 2代目「いすゞ・ジェミニ」を振り返る・・・懐かしの名車をプレイバック

  • 著者が以前所有していたいすゞ ・ジェミニ イルムシャー

国内の乗用車部門をクローズしてから20年以上がたったいすゞ自動車。その歴史を振り返ると、一世を風靡(ふうび)した名車の名前が浮かんでくる。今回の2代目「ジェミニ」も、多くの人に愛された、そんな一台である。

名匠のデザインが光る一台

「街の遊撃手」というキャッチコピーを巧みに映像化した、数台のジェミニがワルツに乗ってパリの街を縦横無尽に駆け抜け舞い踊るテレビCM(すべてスタントチームによる実写だった)で、50代以上の人間には記憶されているだろうモデル、それが1985年に登場した2代目「いすゞ・ジェミニ」(当初の名称は「FFジェミニ」)である。

1953年にイギリスの「ヒルマン・ミンクス」のライセンス生産により乗用車市場に参入して以来、一貫してヨーロピアンテイストのモデルをつくり続けたいすゞ。当時、親会社だったゼネラルモーターズ(GM)のワールドカー構想から生まれ、「オペル・カデット」などとボディーを共有した初代に対し、2代目ジェミニはいすゞとしては久々となる純オリジナル設計の乗用車だった。

初代よりもひとクラス下の、「トヨタ・カローラ」や「ホンダ・シビック」、「マツダ・ファミリア」などが群雄割拠していたコンパクトカー市場に投入された2代目ジェミニ。ヨーロピアンタッチの洗練されたスタイリングを手がけたのは、いすゞとは縁の深い名匠ジウジアーロ。やはり彼の作品である「ピアッツァ」を縮小したようなキュートな雰囲気の3ドアハッチバックと端正な4ドアセダンが用意されたが、いずれもいすゞの持ち味である都会的なセンスのコンパクトカーだった。

周回遅れの感はあったが……

成り立ちは当時の小型車としては常識的なもので、フロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームのサスペンションを持つシャシーに、横置きされた1.5リッター直4 SOHCエンジンで前輪を駆動。同じく1.5リッターの、いすゞが得意とするディーゼルおよび同ターボユニットが数カ月遅れて追加された。

翌1986年、兄貴分の「アスカ」やピアッツァに続いて、いすゞと同じくGM傘下にあったオペルのチューナーだったドイツのイルムシャー社が手を入れた、ハイパフォーマンス仕様の「ジェミニ イルムシャー」が追加設定された。パワーユニットはインタークーラー付きターボを加えて、標準の最高出力86PSから同120PSにまでスープアップされた1.5リッター直4 SOHC。私はこのイルムシャーの、「ゲールウインドブルー」というカラーネームの濃紺をまとった4ドアセダンを発表と同時に注文し購入した。生まれて初めての新車だった。

当時、世間ではこのクラスのスポーティーなFF車、いわゆるボーイズレーサー的なモデルがなかなかの人気を博していた。「ホンダ・シビックSi」や「トヨタ・カローラFX-GT」などが代表的なモデルだが、それらの心臓は1.6リッター直4 DOHC 16バルブ。それに対してイルムシャーのSOHCターボは周回遅れの感が否めなかった。

ジェミニにもDOHC 16バルブが追加されるといううわさもないわけではなかったが、それが出るまで待つ気にはなれず、かといって国産ではいすゞ以外のクルマは眼中になかった私にとって、イルムシャー以外の選択肢はなかったのだ。ちなみにジェミニにDOHC 16バルブが追加されたのは、イルムシャー登場から2年近くを経た1988年のことである。

セールスも絶好調

だが、結論から言えばこの選択は間違っていなかった。1.5リッターのターボユニットは、はっきりとは覚えてないがおそらく2000rpm前後からターボが効き始めてターボラグを感じることもなく、トルクで押し出される感覚の力強い加速を味わうことができた。いっぽうボディーが軽いこともあってか、ターボが効かない低回転域でもトルク不足を感じることはなかった。

スペック的には見劣りするが、高回転をキープして峠を攻める……なんてこともなく、渋滞の多い市街地で乗る機会も多い私にとっては、乗りやすくて力も十分なターボユニットのほうが向いていたわけだ。また、当時のターボ車にしては燃費が良好(たしかリッターあたり12kmぐらいは走った)だったこともありがたかった。

私が乗っていたイルムシャーはそんな感じだったが、ジウジアーロによるけれん味のないスタイリング、経済的なディーゼル車の存在、初代以来の伝統であるビビッドな色を含めた豊富なカラーバリエーション、そして冒頭に記したテレビCMの好感度の高さなどが相まって、2代目ジェミニのセールスは強豪ひしめく市場でもまずまず好調だった。

だが、その勢いは長くは続かなかった。1990年にフルモデルチェンジされた3代目は、GMの意向から一転してアメリカンなスタイリングに変身。バブル崩壊による景気後退もあってセールスは低迷し、いすゞ最後のオリジナル乗用車となってしまう。結果的に生産台数70万台以上を記録した2代目ジェミニは、歴代いすゞ乗用車で最大の成功作となったのだった。

なお、私のイルムシャーはといえば、20年乗ったところで手放した。まだまだ乗れたのだが、置き場所の問題から、いすゞ車をこよなく愛すメーカー関係者に引き取っていただいたのだ。後悔がないといえばうそになるが、手元にあるままなんらかの事情で乗れなくなるよりはよかったと思う。

(文=沼田 亨)

2代目いすゞ・ジェミニ(1985年~1990年)解説

「いすゞ・ジェミニ」の2代目は、駆動方式を初代のFRからFFへと転換し、1985年5月にデビュー。ジウジアーロがデザインを担当し、ボディーバリエーションは3ドアのハッチバックと4ドアセダンを設定。1987年に電動キャンバストップ付きのユーロルーフ仕様も用意された。

エンジンは1.5リッターガソリンの直列4気筒SOHCでスタートしたが、同年10月に1.5リッターのディーゼルとディーゼルターボを加え、1986年6月には1.5リッターのインタークーラー付きガソリンターボがスポーツモデル「イルムシャー」の専用ユニットとして追加された。

1988年3月、待望の1.6リッターDOHC 16バルブを「ZZ ハンドリング・バイ・ロータス」専用エンジンとして投入。同ユニットは1988年6月からはイルムシャーにも積まれるようになり、イルムシャーは1.5リッターターボと1.6リッターDOHCという、エンジンの異なる2タイプとなった。

2代目いすゞ・ジェミニ諸元

セダン1500G/Gリミテッド
乗車定員:5人
重量:910kg
全長:4,070mm
全幅:1,615mm
全高:1,370mm
ホイールベース:2,400mm
エンジン型式:4XC1
エンジン種類:直列4気筒
排気量:1,471cc
最高出力:73PS/5600rpm
最大トルク:11.8kgf·m/3600rpm
サスペンション形式: (前)ストラット式、(後)コンパウンドクランク式

(GAZOO編集部)