100台の愛車に人生の歴史あり!? 谷口信輝と山本シンヤの時代感あふれる愛車遍歴&ストーリー~「愛車」徹底討論 Vol.1~
自動車業界にとって「100年に一度の大変革期」と言われる現在、そしてカーボンニュートラルへの対応や自動運転、ソフトウェアファーストなクルマ造りが進む未来において、愛車とはどうかかわっていくべきか。そんな壮大なテーマを語り尽くすために
- 自動車評論家の山本シンヤさん
- プロドライバーの谷口信輝選手
- フリーアナウンサーの安東弘樹さん
という3人のクルマ好きに集まっていただきました。
愛車の過去、現在、未来という3つのテーマ、4回の連載としてお届けする春の特別座談会、まずは3人がこれまでの愛車に対してどのような想いを抱いているのかを愛車遍歴とともに聞きました。
それにしても、3人ともカーライフがたっぷり濃いなあ。ということで、第1回では山本さんと谷口選手の愛車トークをご覧あれ。
愛車がきっかけでいすゞに入社
――まずは自動車研究家、というかモータージャーナリストの山本シンヤさんから伺いましょう。はじめて運転したクルマはどんなクルマでした?
山本:KP61型の「スターレット」ですね。家のクルマで、自宅の敷地内でした。
はじめて自分のクルマとして買ったのは「いすゞジェミニ」。FFのイルムシャーのやつ。テレビCMでダンスをしてた最後の世代ですね。本当はハチロク(AE86)も候補の1台だったけれど、雑誌「オートファッション」なんかも読んでいて、ハチロクよりもオシャレなクルマがいいなと(笑)
ジウジアーロデザインでレカロシートもついていたし、走りもよかった。
――まだいすゞが乗用車を販売していた時代ですね。
山本:そうです。そして、次もジェミニでイルムシャーR。180馬力の1.6Lターボに4WD。前のジェミニが遅かったから、速いクルマにしようと。雑誌「オプション」を読み、「ビデオオプション」というビデオマガジンも見て影響を受けて夜な夜な峠も走りに行ったよね。
――ジェミニを続けて2台ですか!
山本:2台目はフルモデルチェンジ後だけどね。で、ジェミニ好きが高じて、いすゞに就職しちゃった(笑)。
ジェミニはまだ続きがあって、当時、全日本ラリーとN1耐久に出るために50台だけ限定で作った「イルムシャーRコンペティション」というホモロゲモデル(競技で使う認可を得るためのベース車両)があって、それをたまたま中古車屋で見つけて……即決で買っちゃった。衝動買い。
――ジェミニを3台!?
山本:次は「フィアット・プント」を買った。それはノーマルで乗ろうと思ったんだけど、気が付けばチューニング。
サスペンションを弄って、ブレーキもブレンボをつけて、どっぷりはまりましたね。
その後、転職した雑誌の編集部時代に中古で「ランチア・デルタ インテグラーレ」を購入。貴重なクルマなので過剰整備でしたよ。当時はクルマエンゲル係数が高かったね。あっ、今もだけど。
その時には結婚していたので、家族用のクルマとして妻が乗っていたEP91「スターレット」がEK型「ホンダ・シビック」になり、それから子供が生まれて「SUBARUエクシーガ」になりました。そこから「ホンダ・オデッセイ」、「トヨタ・プリウスPHV」のGRスポーツ、そして今は「ボルボV60」になりました。
――国産車が中心ですね。
山本:国産車とイタリア車とスウェーデン車しか乗ってない(笑)
自分のクルマは、当時勤めていた自動車雑誌の編集部が所有していた8代目シビックのUK仕様ディーゼルを引き取り、その後無限フルエアロで販売していた中古の9代目シビックになりました。
その後ボルボの「V40」ディーゼルから「GRヤリス」ですね。
所有した愛車は100台以上!? レーサー谷口信輝の愛車遍歴
――谷口さんはいかがでしょう? 車歴を全部聞いていたら朝になってしまいそうなので、最初に運転したクルマ。最初に所有したクルマ。思い出深いクルマ。人生の転機となったクルマを教えてください。
ちなみに谷口さんは、自分が過去に所有したクルマが何台かいえますか?
谷口:数えられない。わかんないね。100台を超えているかもしれない。
なぜそんなに多いかっていうとね、足車用に買ったとんでもなく古くて安い「ミラ」とかもあるから。むかしはほとんどの改造が違法だった時代もあって、昼間の移動用に1万円とか2万円で買ったどうでもいいクルマを持っていたりするわけ。
――なるほど。
谷口:最初に乗ったのは、ホンダの「シティターボ」。ブルドッグと呼ばれた「ターボⅡ」じゃなくて、普通のターボね。それは高校生の時で、サファリパークでのアルバイト時代に先輩のクルマをアルバイト先の駐車場で運転させてもらった。
――谷口選手がはじめて買ったクルマは?
谷口:日産の「キャラバン」。当時はバイクのレースをやっていたから、そのトランポとして買った。15万だった。
無茶苦茶嬉しかったよ。それまではレースをしにサーキットへ行くにも誰かに頼まないと行けなかったから、「やっと自分で移動できる」っていう嬉しさがあったね。キャラバンは知り合いのバイク屋さんが使い古したやつで、重ステ(パワステなし)でコラムシフト。
――思い入れもあったことでしょう。
谷口:それはもちろん、愛くるしかったよ。
ノーマルの鉄ホイールから、お洒落なホイールに換えただけでテンションが上がったね。「カッコいー」って。たくさん錆びているようなボロいキャラバンだけど、ホイール換えただけで興奮して鼻血が出るかと思った。それがカスタマイズの第一歩だね。
ハンドルも中古で買ってきたイタルボランテ製に換えたんだけど、当時のキャラバンだからパワーステアリングがついていないでしょ。小径ハンドルに換えると、とんでもなくハンドルが重いわけよ。あとシフトノブを換えたり、手作りボックスのウーファーをつけたり。
ボクは5月生まれだから、高校3年になってすぐに免許を取って、キャラバンも高校生の時に買ったクルマ。嬉しかったねー。
――当時の谷口選手はどんな環境だったんですか。
谷口:当時のボクは、スクーターとかミニバイクのレースをやっていて広島県ではもうトップライダーだったわけですよ。日本一にもなったこともあるしね。新しいスクーターが出ると地元の2輪の販売会社から「これを渡すからこれで勝ってくれ」と言われるくらい。
それで高校3年生の時は、ミニバイクレースから大きいレースに移るかどうかというタイミング。いろんなチームから「カラダひとつでいいから来い」と声をかけてもらってた。
でも、そこで僕が、「ビデオオプション」とか見ちゃってね。影響されちゃったわけですよ。
――山本さんも谷口選手もビデオオプションの影響を受けすぎですね(笑)。
谷口:あとは雑誌「CAR BOY」のドリコンも見たりして、ドリフトしてみたいなあ……って思うようになり。
オレらの中では「男たるもの、バク転とウィリーとドリフトはできないといけない」みたいな不文律があって。
一同:爆笑
谷口:その頃、友達が調達してきた「AE86」で峠に行ったりドリフトのまねごとをしてみたりね。
バイクのレース活動を続けるか悩んでいるときに、知り合いが「マツダ・ボンゴ」をカスタマイズしたトランポを70万円で譲ってくれるという話が舞い込んできた。
そのいっぽうで友達がハチロクの中古車を見つけてきて。前期型でボディカラーは赤/黒のトレノで3ドアハッチバック「APEX」。それが60万円。デフをつけて納車するなら70万円というわけ。
――同じ値段の分かれ道。
谷口:そうそう。70万円でトランポにいくか、それとも同じ値段のハチロクを買うか。それはオレの人生の中で結構な分かれ道だった。結局ハチロクを買うんだけど、もしボンゴを選んでいたらオレはライダーになっていただろうね。それなりにいいポジションになっていたと思うよ。
――でも、ライダーにならなかった。
谷口:ドリフトしたかったから、デフも付けたハチロクを買った。だから今のオレがあるね。
そこから夜な夜な練習。毎晩1000円とか2000円だけガソリンを入れて、それがなくなるまで毎晩毎晩走り込んでいたよ。
タイヤだって減るから、ガソリンスタンドとチューニングショップとカー用品量販店をまわって、廃タイヤを分けてもらう日々だったね。
走り屋時代の谷口選手は、まさかの豆腐屋で働いていた
――なるほど。谷口選手にもそんな時代が。
谷口:嘘みたいな話だけど、ハチロクで峠を走っていた時代は豆腐屋で働いていたの。
――どっかで聞いた話のような。それって漫画の世界じゃないですか?
谷口:いや冗談ではなくて、朝4時から豆腐の配達をしていたの。
――ハチロクで峠を登って運んでいた……と。
谷口:そんなわけないでしょ(笑)
2トン車で運んでいたんだけど、ある時「ヤングマガジン」を読んで驚いたよ。
「バリバリ伝説」のしげの秀一先生が新しいマンガを始めると。
主人公は豆腐屋の配達? 峠を走る? 前期のトレノ??
どんだけオレと被るねん?と
一同:爆笑
谷口:「頭文字D」の連載が始まったときね、広島じゅうの走り屋が「あれはお前のことか?」と言ってきたんだよ。
「しらん。しらん。しげの秀一なんて会ったこともないし」と何度言ったことか。
――なんという偶然。
谷口:だからここではっきりさせておきたいのは「オレのほうが先だ」ってこと。別に頭文字Dの真似をして前期のトレノに乗ったり、豆腐屋で働いたりしたわけじゃないんだから!と。
オレのほうが先に前期のトレノに乗ってたし、峠を走ってたし、豆腐屋で働いていたの。これは揺るぎない事実なんだから。ここはカットしないでちゃんと書いておいて!
――わ、わかりました(ちゃんと書きましたよ!)
谷口:でね、2トン車にこれから油揚げになる豆腐の薄いやつを重ねて積んでいくんだけど、10段くらいになっているから荒い運転だとガシャガシャ!って崩れちゃうわけ。丁寧な運転を心掛けたね。
――やはり豆腐の配達で運転が磨かれた……と。某漫画のように。
谷口:それはさすがに言い過ぎ(笑)。
まあそのトレノは知り合いに事故られてしまって廃車になり、次に買ったのも86なんだけど……話すと長いよ。86だけで5台も乗っているからね。
――では端折っていきましょう。
谷口:正確にいうと、ハチロク、ハチロク、ハチロク、ハチゴー(AE85)、ハチロクの順番かな。
――ハチゴー(AE86と同じボディに非力なエンジンを積んだ仕様)が混ざっているのはなぜ?
谷口:ハチゴーは昼間も乗れるクルマにしようと思って買った、後期で5万円のノーマル。
ただ、その後に夜用のハチロクをぶつけてしまって、その部品をすべてハチゴーに移植したんだ。ビデオオプションのドリフト全国大会で3位にもなったそのクルマが一番気に入っていたんだけど、最後は壊してしまったね。
締めのハチロクは3ドアハッチバックのレビン。めちゃめちゃ綺麗なゴージャス仕様だったよ。いろんなトヨタの上級部品を寄せ集めてね。20型「ソアラ」用のルームミラーだったと思うけど、ボタンを押したら防眩になるやつ。ドアミラーも、たぶん10型「セルシオ」用だったと思うけどボタンを押すと電動で倒れるやつ。雨粒も超音波で除去するような機能がついていたりね。
あと、半ドアだったりサイドブレーキを戻し忘れていたら音声で教えてくれる機能もついていたよ。それはどのクルマ用だったかなあ……。
とにかく、トヨタの純正の機能をたくさん集めてきた。
――そんなハチロク見たことない。
谷口:でしょ? 最後はそんなこともやったのよ。
ハチロクでドリフトしていて「シルビアには負けねえぜ!」と頑張っていた。S13の時には何とかこらえていたけれど、フルモデルチェンジしたS14になったらもう敵わない。
そこで、S14型シルビアを買ったわけですよ。
――ハチロクとの別れですね。
谷口:オレはクルマを自分の息子や娘のように溺愛していたから、買ってくれた知らない人が乗って帰るハチロクの姿を見てとにかくさみしいなあ……と。
娘を嫁に送り出す父親のような気持ちというか、とても気分が落ちちゃって、隣で一緒に見送ってくれた友達を「酒に付き合ってくれ!」と道連れにして飲みに行ったんだよね。気を紛らわすために。それまでオレは酒が飲めなかったんだけど。ほんと辛くて辛くて、飲まずにはいられなかった。
その日からだよ、酒を飲むようになったのは。
――なるほど。
実は、谷口選手が上京した理由はレーサーになるためではなかった!
谷口:乗り替えたS14でいろんなドリフト大会でも活躍するようになり、27歳の時に東京へ出てきたんだよね。
――レーサーになるために……ですよね?
谷口:いや、自動車評論家になるために。
――えっ?
谷口:冗談でもなんでもなくて本当。自動車評論家になりたかったんだ。
そして東京に出てきた当時アルバイトをしていたショップのデモカーのS15型シルビアを買い、S15では初代D1チャンピオンも獲り……クルマのレースの世界に入っていったというわけ。
ボクの過去の愛車の話はとても1日じゃ終わらないから、このくらいにしておこうか(笑)。
――谷口選手の愛車遍歴全制覇は別企画でやりましょう。ところで、最近気に入っているクルマは?
谷口:持っているクルマは全部気に入っているよ。気に入らないクルマなんて手元に置かないし。
今持っているのはS15シルビア、制作中のAE85改86、ドリフト練習用の「180SX」、それとは別に制作用の180SX、「スカイラインクーペ」「ヤリスクロス」「アクア」「アルテッツァ」「ツイン」、「アリスト」「メルセデス・ベンツA45エディション1」「テスラモデルY」、あと「レクサスRX450h」だね。
――ふり幅大きいですね。
谷口:YouTubeのネタ用に作っているやつもあるからね。
ただ、もういちど言っておきたいのは「オレのほうが頭文字Dよりも早かった」ってこと。そこ大事だから。
――もう一度、しっかり書いてアピールしておきますね。
まだまだ盛り上がる、著名人の愛車紹介。
後編ではアナウンサー業界を代表するカーガイといえる安東弘樹さんの愛車遍歴を紹介しましょう。
(司会/まとめ:工藤貴宏 写真:堤晋一/谷口信輝/山本シンヤ)
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