初の愛車をレストア! 24歳のオーナーとともに成長する1960年式オースチン・ヒーレー・スプライトMarkⅠ

以前、オースチン・ヒーレー・スプライトMarkⅠの後ろを走ったことがあった。カーブをまるで蝶が舞うようにヒラヒラとかわし、流麗なフォルムがその走りを優雅に引き立てる。華麗なコーナリングに魅了されてしまった。

オースチン・ヒーレー・スプライトMarkⅠは、1958年に誕生。小さなボディに流麗なデザイン、ポップアップしたヘッドライトが愛らしい。海外では「フロッグ・アイ」、日本では「カニ目」の愛称でおなじみだ。搭載されるエンジンは948ccの水冷直列4気筒。ボディサイズは全長×全幅×全高3490×1349×1260mm。車重は602kgと、現代の軽自動車より100kg以上も軽い。オープンスポーツとしては世界初となる、軽量モノコックボディを採用。シャープなハンドリングを武器に、当時のライトウエイトスポーツ最高クラスの性能を誇った。

旧車ファンの間では人気が高いこのクルマのオーナーといえば、還暦前後のエンスージアストな紳士を思い浮かべるかもしれない。しかし、今回紹介するオーナーは、24歳の青年なのだ!1960年式のオースチン・ヒーレー・スプライトMarkⅠ(以下、オースチン・ヒーレー)を、なんと19歳で購入し、自らレストアして所有している。オーナーの職業は自動車の整備士だという。インジェクションの世代ながら、キャブレターの道をあえて選んでいるところに興味をそそられる。

オーナーの個体は、中古のメーターを取り付けているため、実走行距離は不明とのことだ。ボディカラーが黒の個体は珍しい。まず知りたいのは、なぜこの若さでオースチン・ヒーレーを知っているのかである。やはり父親がクルマ好きなのだろうか?

「父は、特にクルマ好きではありません。ただ、物心がついた頃から家にあった『世界の名車』という図鑑が好きで、ずっと眺めていました。その影響で古いクルマが好きになったんです。特に、トヨタ・2000GTやランボルギーニ・ミウラが好きですね」

この本のおかげで、オーナーはすっかり“ベテランのカーマニア”のような好みになってしまったようだが、オースチン・ヒーレーの他に、乗ってみたいクルマはあるのだろうか。

「日産の初代セフィーロ(A31型)に乗ってみたいです。輸入車であればBMWの8シリーズ(E31型)や、635CSI(E24型)が好きですね」

思わず「渋い!」と唸ってしまうチョイスだ。それでは、このオースチン・ヒーレーはどこが気に入っているのだろうか。

「リアのまとまって見えるラインが好きです。それからボディカラー。この色はおそらくソリッドブラックだと思うんですけど、このクルマで黒は珍しいので気に入っています。ちなみに全塗装を2回していて、汚したくないので雨の日には乗らなくなりました(笑)」

そんなオーナーが、愛車と出会ったきっかけは?

「中学生の頃、通学路沿いに英国車専門店があって、店の前にはいつもオシャレな旧車が置いてあったので、いつかは入ってみたいと思っていました。そして中3になったある日、意を決して店のドアをくぐりました。それがきっかけで可愛がってもらい、そのうちイベントの手伝いなどをするようになりましたね。免許を取得してから、自然にクルマを買う話もしました。そこで『部品取り用のオースチン・ヒーレーがあるけど、どう?』と声をかけてもらったのがきっかけでした。エンジンもミッションも、タイロッドもない個体でした」

初心者で部品取り用の個体をわざわざ購入した理由は?
「当時は、自動車整備士の学校へ入学したばかりだったんです。これから整備の技術を学んでいくうえで、このクルマを『教材』としての意味も含めて、レストアしながら乗っていこうと決めました」

ここで少し意地悪な質問を投げかけてみる。このオースチン・ヒーレーがもしMINIだったとしたら、MINIでも良かったのだろうか?

「これがもしMINIだったら…。おそらくMINIを選んでいると思います。それよりも『学ぶ形』で出会えたことが、自分のなかでは大切でした。このクルマを直してあげようという愛情よりも、好奇心でいっぱいだったと思います」

若くしてこのクルマを持っているだけでもグッときてしまうが、整備士としての姿勢に、なおさら感じ入ってしまった。あらためて、これまでのレストアの過程を伺った。

「ショップの方に指導していただきながら、サビ取りから始めました。ほとんどの部品がなかったので、ショップにある部品を譲ってもらったり、取り寄せたりして集めました。あとはエンジンのオーバーホールと、全塗装を。車検を通すまでに約半年もかかっています。平日は学校で授業があったので、週末しか作業ができなかったからですね(笑)」

レストアを経験し、所有していくなかで変化したことはあるのだろうか。

「良くも悪くも、手を入れた結果が見えるのがうれしいですね。トラブルを経験しながら維持をしていると、コンディションもわかってきますし、自分でトラブルシューティングもできるようになってきたと思います。もし、新しいクルマを買っていたら決してわからなかったことが、このクルマといるとわかることがうれしいです」

同世代で旧車を買おうとしている人たちへ、アドバイスをするとしたらどんなことを伝えたいか、尋ねてみた。

「信頼できる主治医(ショップ)を見つけることですね。クルマを買うよりも先に相談できるショップを見つけるほうがいいと思います」

最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺った。

「初めての愛車なので、維持ができるかぎり乗っていきたいと思っています。時折、魅力的なクルマが現れたときには『もしこのクルマを売れば…』と考えることはありますが、このクルマを売ってまで欲しいとは思わないんです。今後はもっと整備の腕を磨いて、キャブのメンテナンスもこなせるようになりたいです。この『カニ目』と一緒に頑張っていきたいですね」

オースチン・ヒーレーと末永く付き合ってほしいと思いながら、何よりオーナーの整備士としての成長が楽しみだ。オーナーもいつか、誰かの「主治医」となるのだろう。そんな未来に思いを馳せながらの取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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