中2で一目惚れ。20年間このクルマ一筋!1990年式マツダ ユーノスコスモ 20B タイプE CCS(JCESE型)

一瞬の出会いが、その後の人生を大きく左右する。

その対象は、人か、モノか、それとも仕事か?いずれにせよ、いちど脳裏に焼きつけられてしまった強烈な体験を記憶から消し去ることはほぼ不可能だ。そして、明日からの人生が大きく変わっていくことになる。それを人々は「運命の出会い」と表現する。

「運命の出会い」が1台のクルマであっても何ら不思議ではない。ましてクルマ好きであれば、似たような経験をした人たちが世界中にいるはずだ。そして、今回ご紹介するオーナーもその1人であることはいうまでもない。

「このクルマは、1990年式マツダ ユーノスコスモ 20B タイプE CCS(JCESE型/以下、ユーノスコスモ)です。現在、私は40歳です。手に入れてから15年。現在のオドメーターの距離数は17万5千キロ。これまで11万キロをともにしてきました。これまでの愛車遍歴はこのユーノスコスモを含めて2台のみ。ちなみに、1台目の愛車もユーノスコスモでした。2台あわせると20年間、ずっとユーノスコスモ一筋です!」

過去から現在にいたるまで、日本車のなかにも数々のクーペモデルが存在する。クルマ好き同士がこのテーマでクルマ談義をしたら、時間を忘れて語りあえそうだ。人それぞれに嗜好があると思うが、おそらくはその大半の人が「ユーノスコスモって、カッコイイよな」と語りあうに違いない。

ユーノスコスモのボディサイズは、全長×全幅×全高:4815×1795×1305mm。排気量1962ccの直列3ローターシーケンシャルツインターボエンジン「20B-REW型」が搭載され、最高出力は280馬力を誇る。ちなみに、ユーノスコスモの販売期間はわずか5年間。モデルチェンジすることなく役目を終えたが、その人気がいまだに衰えることはない。

ユーノスコスモには2ローター仕様の「13B-REW型」エンジンが搭載されたグレードも用意されたが、やはり「量産車として世界初となる3ローターエンジンを搭載したクルマ」にスポットがあたるのは当然かもしれない。さらに、マニアのなかには、人工衛星を活用した世界初のCCS(カー・コミュニケーションシステム)の採用されたことを挙げる人がいるはずだ。そのいずれも、このクルマに与えられた忘れられない特徴といえよう。と同時に「日本車離れ」したフォルムも、ユーノスコスモを語るうえで忘れてはならない重要なポイントだ。

事実、ユーノスコスモのカタログの冒頭には「COUPE DYNAMISM EUNOS COSMO」の文字が躍る。そして、このクルマが織りなす美しいフォルムは、少年時代のオーナーの心をわしづかみにしてしまったようだ。

「知り合いのクルマの助手席に座って移動していたときのことです。前方に黒いユーノスコスモが走っていたんですね。リアエンブレムところに筆記体で"Cosmo"と記されていたんですが、車種は分かりませんでした。すると、知り合いの方が『あれはユーノスコスモというクルマだよ』と教えてくれたんです。まさに一目惚れでした。当時、中学2年生でしたが“こんなに美しいクルマがこの世にあるんだ!将来、絶対にこのクルマを買う!”と決めた瞬間でしたね」

中学2年生といえば多感な時期だ。それに加えて、あと数年後には高校を卒業して運転免許を取得できるタイミングでもある。

「衝撃の出会いから数日後、土砂降りの雨のなか、バスを乗り継いで1人でユーノスディーラーに向かいました。店内に足を踏み入れると、ディーラーの方が中学生の私にもコーヒーを出してくれて、雑誌などで記事を読んで気になっていた質問にもていねいに答えてくださったんです。あいにく実車は置いてありませんでしたが、カタログをいただくことができました。いわゆる『本カタログ』です。最初はどんな対応をされるのか不安でしたが、“将来、ユーノスコスモを買います!”と誓約書を書きたくなるくらい、ディーラーの方々が大歓迎してくださったことが嬉しかったですね」

一目惚れしたクルマ、そして少年時代のオーナーを暖かく迎えてくれた当時のユーノスディーラーのスタッフたち。この相乗効果は絶大だ。ただ、現実はそう甘くはない。

「ユーノスコスモに一目惚れしたものの、価格を知って愕然としました。もっとも安価なグレードでも300万円台、最上級グレードは500万円オーバーでしたから。親族には“将来、仕事に行く前に新聞配達をしてでもユーノスコスモを買う!”と宣言しましたが、『そんなことできるわけがない』と反対されましたね。その後、私が高校生のとき、突然『ユーノスコスモ、生産中止』のニュースが飛び込んできたんです。もう新車では買えないことを悟り、タウンページでユーノスディーラーの電話番号を調べて、無理をいって“Cosmo”と“3 ROTOR RE”のエンブレムを2個ずつ注文しました」

もう、新車のユーノスコスモを買うことはできない。しかし、オーナーはそれで簡単に諦めるような人ではなかった。ユーノスコスモのエンブレムを、わざわざ2個ずつ購入するという行為が、オーナーの本気度を如実に表している。将来、実車を手に入れたとき(実際にオーナーとなっている!)、ひとつはボディに装着したとしても、もうひとつは予備として保管できることを意味するからだ。

「あれは二十歳のときです。マツダの中古車専門店でユーノスコスモの中古車を見つけました。このときは手が届かずに断念するしかありませんでした。それからしばらくして、別の個体が売りに出たんです。しかも、もう少し安価で…。こうして、ついに1台目のユーノスコスモとなる『13BタイプE』を手に入れることができました。仕事帰りにわけもなく、マツダの中古車専門店に立ち寄って『売約済』となった愛車を見るたびに喜びを噛みしめましたね」

ついに念願のユーノスコスモを手に入れたオーナー。納車までのあいだ、待ちきれずに自分のクルマとなった愛車を観に行きたくなる気持ちは痛いほど分かる。

「結局、1台目のユーノスコスモは5年間乗りましたが、あるとき、オフ会に参加した際にリアアンダースカートを壊してしまったんです。修理するか、憧れだった3ローター・20Bエンジンを搭載したグレードに乗り替えるか…。迷っていたときにユーノスコスモ乗りの仲間たちから『いつか乗りたいなら、程度の良いクルマがあるいまのうちに…』とアドバイスされ、乗り替えを決意しました」

こうして、憧れだった3ローター・20Bエンジンを搭載したユーノスコスモを探しはじめたオーナー。当時、普及しはじめたインターネットを駆使して「出物」を見つけ出した。

「“出物”は最上級グレードである20B タイプ E CCSでした。旧車専門店で見つけたのですが、当時の住まいから離れた場所にも関わらず現地まで赴き、その場で即決してしまいました。ようやく納車となって旧車専門店から帰宅する際、運転していてどうもクルマの調子がおかしいんです。その足で、1台目のユーノスコスモの修理などでお世話になっている工場に入庫して診てもらったところ、オルターネーターの故障が判明。そのまま入院となりました。自宅までは代車で帰宅です(笑)。でも、心は折れませんでしたよ。念願の3ローターエンジンを搭載したユーノスコスモを手に入れることができたんですから」

以来、今日まで15年。オーナーの愛車として惜しみない愛情が注がれている。もともとモディファイされていた個体だったようだが、オリジナルに近い姿に戻しているという。

「フジツボ製のマフラーは購入した時点で装着されていました。私が手を加えたのは、ヘッドライトのHID化と、あとはサイドステップのロゴが点灯する部分のELライトを白色に交換しました。あとは、オフ会で知り合った方に譲っていただいたタイプS用のアルミホイールに履き替えています。このホイールのデザインが大好きなんです。この方は、後に若くして他界してしまい、いまとなっては形見のような存在です」

15年も所有していれば、それなりのトラブルも経験してきているようだ。

「人工衛星を活用した世界初のCCS(カー・コミュニケーションシステム)はいまでも奇跡的に動いていますよ。とはいえ、これまでにメインアンプ・CCSモニター・メインコントローラー・チューナーユニット等、システムに関連するほとんどの部品が故障して、そのたびにすべて修理してきました。それと、エンジン内部のウォータージャケットが摩耗で破損した際、思い切ってアペックスシールの交換を含めたエンジンをオーバーホールしました。純正部品の欠品・製造廃止が増えてきているのが気掛かりです」

せっかくの機会なので、無礼を承知で多くのクルマ好きが気になっているであろう「あの質問」を思い切ってぶつけてみた。3ローターエンジンを搭載するがゆえの「燃費」についてだ。おそらく、これまでに何度も質問されているのだろう。こちらの不躾な質問にもオーナーは快く答えてくれた。

「最低で3.9km/L、街乗りで5km/ L、高速だと6km/ L台ですね。最高で7km/ Lくらいでしょうか…。でも、巷でいわれているようなリッター1〜2km/ Lはあり得ません。逆に、どんな乗り方をしているのか聞きたいくらいです(笑)。ちなみに、エンジンをまわしたいなら13Bを、加速の鋭さを味わいたいなら20Bをおすすめします。両方のエンジンを搭載したユーノスコスモを所有してみて“それぞれに良さがある”…ということを知りましたね」

確かに、2ローターおよび3ローターエンジンを搭載したユーノスコスモを所有できたことは、オーナーにとって貴重な経験となったはずだ。最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺った。

「いままでどおり、修理できなくなるまで乗り続けます。それまでは全力を尽くしますが、いつか別れのときが訪れることも覚悟しています。クルマは自分自身で病院には行けません。そこで、オーナーの予防整備が重要になってきます。確かにお金は掛かりますが、どれだけ自分が動けるか?に尽きますね。愛情を注げば、クルマは必ず返してくれますから」

ユーノスコスモというクルマが魅力的であることは誰もが認めるところだ。しかし、当時中学生だったオーナーを「ひとりのお客様として」対応したユーノスディーラーのスタッフたちの存在があったからこそ、蜜月の日々が続いていることは間違いない(当時のスタッフの誰かがこの記事の存在に気づいてくれることを願うばかりだ)。

当時のオーナーは「すぐにでも買えるような見込み客」ではなかった。何しろ、まだ中学生だ。相手をしていても時間の無駄だという上司がいても不思議ではない。それはよく分かる。しかし、しかしだ。ここで邪険な対応をしていたら、将来の優良な見込み客を逃すだけでなく、確実に「あんなメーカーのクルマ、2度と買わない」と思わせるほど、生涯にわたって悲しい記憶を刻みつけることになる。それはつまり、憧れのクルマに全否定されたことと同義なのだ。そういう点において、オーナーはとても幸運だったのかもしれない。

最後に、少年時代に魅せられたクルマを諦めることなく、大人になって手に入れたあとも、変わることなく一途に思い続ける、そのオーナーの変わることのないユーノスコスモへの情熱と一途さに、改めて心から拍手を贈りたい。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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