平成元年生産の塗装はオリジナルのまま!1989年式 ホンダ レジェンド 2ドアハードトップ(E-KA3型)

自動車が100年に一度の大変革を迎えているといわれるようになって久しい。

自分の意思とは関係なく、クルマに対するあらゆる価値観や考え方が根本から変わろうとしている時期なのかもしれない。近未来のクルマは、きっといまよりもさらに便利で快適なものであるに違いない。…と同時に、これまで築きあげてきた「何か」が失われ、知らないうちに過去のものへと追いやられるのではないかと案じているクルマ好きもいるに違いない。

そのひとつが、クラシックカーおよびネオクラッシックカーと呼ばれるクルマの存在意義について、だ。

確かに、最新のクルマと比較して、性能面で勝るところは皆無かもしれない。しかし、その時代を映す鏡であり、決して現代のクルマでは味わうことのできない世界を堪能できる名車を日本中の愛好家たちが大切に所有している。新たな変革と同時に、この存在が否定されてしまうことを危惧している人たちが少なからずいるはずだ。

今回ご紹介するオーナーは、かつて憧れの存在だった当時のホンダ車のフラッグシップモデルを所有する方だ。その想いはいまでも変わることなく、クルマに対して惜しみない愛情を注いでいることをお伝えできれば、クルマを愛する者のひとりとして望外の喜びだ。

「このクルマは1989年式ホンダ レジェンド クーペ(KA3型、以下レジェンド クーペ)です。手に入れたのは15年前。もともと憧れの存在であり、仕事仲間が手放すタイミングで譲ってもらいました。つまり、仕事仲間がファーストオーナーで、私がセカンドオーナーです。現在の走行距離は約16万キロ、私が手に入れてからは、約4万5千キロくらい走ったでしょうか。もう30年以上前に造られたクルマですが、その魅力はいまでもまったく色褪せていないと感じています」

ホンダ レジェンドといえば、同メーカーの最高級セダンとして知られた存在だ。1985年のデビュー当時からモデルチェンジを繰り返し、今日まで販売されている貴重な存在といえる。ちなみに、2015年にデビューした現行モデルは5代目にあたり、2018年にマイナーチェンジが行われて現在にいたる。

オーナーが所有するクルマはレジェンドの初代モデルであり、そのなかでも貴重な2ドアクーペモデルだ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4775×1745×1370mm。排気量2675ccのV6気筒SOHCエンジン「C27A型」が搭載され、最高出力は180馬力。ボディサイズおよびエンジンの排気量ともに、当時としては少数派であった3ナンバー車の規格であることからも、このクルマが名実ともに高級車だったことを誇示しているといえよう。

では、ここで改めてオーナーとレジェンド クーペとの出会いについて伺ってみることにしよう。

「71歳の私にとって、このレジェンド クーペは若いころから好きなクルマであり、憧れの存在でした。仕事仲間がレジェンド クーペを所有していたことは聞いていたので“手放すときは声をかけて”と伝えておいたんですね。ある日、乗り替えの際に声をかけてもらえることになり、しかもディーラーの下取り価格で譲ってもらえたんです。このクルマを手に入れた15年前の時点でもレジェンド クーペの中古車はほとんど流通していませんでしたし、素性が分かる人の個体を中古車相場よりも安く譲ってもらえたことはとても幸運だったと思います」

いま、欲しいクルマがあるとしよう。仮にそのクルマが生産終了車、いわゆる「絶版車」であった場合、とにかく周囲に「程度の良い○○○(車名)を探しています。本気で探しているので、良いご縁があったらぜひ紹介してください」と方々に声をかけることを強くおすすめしたい。憧れのクルマをひとりで探すには限界がある。本気度が伝われば、誰かが必ず気に留めてくれるはずなので、思い切って話してみてほしい。

そろそろこのクルマに話を戻そう。こうして、ついに憧れのクルマであるレジェンド クーペを手に入れたオーナー。実際に手にしたからこそ気づいたことがあったという。

「レジェンド クーペの他にNSX(NA1型)を所有しているんですが、このクルマはレジェンド クーペに搭載されているC27A型エンジンをベースに改良されたものなんです。そんな経緯もあり、いつか手に入れたいと思っていたんですね。実際に運転してみて、高速巡航の際もエンジンは低回転のまま静かに走ります。これは楽だなと感じました。また、サスペンションのできの良さは特筆モノですね。コーナリング中もキャンバーが変わらないんです。その他、いまでは珍しくないかもしれないけれど、オートライト機能も装備されていますし、リアシートにもシガーライターの電源がある。驚きなのは、センターコンソールからシフトノブにかけてのウッドパネルが天童木工製なんです。当時のホンダが贅を尽くし、粋を集めたクルマなんだと実感しましたね」

オーナーにお願いをして、レジェンド クーペのサンルーフを開けていただいた。この時代の高級車といえばサンルーフは欠かせない。このとき、驚いたことがひとつある。オーナーがコンディション維持に気を配っている恩恵でサンルーフがスムーズに開閉することはいうまでもない。このレジェンド クーペは、無機質なプラスチックであることが多いフラップまでもがメッキパーツで加飾されているのだ!こんなところにまで贅を尽くすあたり、時代を感じさせるとともに、ホンダのこのクルマに対する思い入れを垣間見たように思う。

そして、ホンダ車への強い思い入れが感じられるオーナー、これまでの愛車遍歴も気になるところだ。

「最初の愛車はトヨタ パブリカ コンバーチブルでした。その後、ホンダN360・ホンダZ・ホンダS800・シビック・トヨタ コロナ1600ハードトップ・ホンダ アコード ファストバック・初代〜5代目のプレリュードなど。現在はNSX(MT)とレジェンド クーペ、仕事用にアクティ(AT)を所有しています。ホンダ車が多いのは、18~19歳の頃に読んだ小説のストーリーが影響しているかもしれません」

オーナーの愛車遍歴は、往年のクルマ好きにとっては懐かしくもあり、憧れのクルマばかりだろう。そんな経験豊かなオーナーが所有するレジェンド クーペ、一見するとノーマルに見えるが、実はさりげないモディファイが随所に施されているのだ。

「まず外装ですが、フロントの“H”のエンブレムはNSX用を流用しています。メッキ製のホイールアーチはホンダUSA製、ホイールはBBS製…といいたいところですが、17インチの4穴がなく、ノーブランドのものをベースにキャップだけBBS製です(笑)。経年劣化でヤレていたブラウン基調の内装については、ラグジュアリー&スポーティを意識してブラックに統一しています。ダッシュボードは染めQで自家塗装、ドアの内張りも自分でブラックレザーに張り替えました。ステアリングは内装のウッドパネルにあうイタルボランテ製のデッドストック品を装着しました。それと、この個体の塗装は当時のまま、つまり一度もオールペイントしていないんです。これはちょっとした自慢ですね」

レジェンド クーペの雰囲気を崩すことなく、絶妙なサジ加減でモディファイされている。それでいて、敢えて声高に主張しないオーナーのセンスに脱帽だ。また、現在でも艶を維持している塗装は当時のオリジナルペイントという点も、オーナーが並々ならぬ愛情をかけてきたことが伺い知れる。30年以上前に造られたクルマが、保管状態に気を配らない限りオリジナルペイントを維持することは極めて難しいからだ。そんなオーナーの愛情とこだわりが詰まったレジェンド クーペ、お気に入りのポイントを挙げてもらった。

「全体的に主張は控えめなのに、存在感のあるデザインに惚れ込んでいますね。特に気に入っているのはリアビューです。ピラーの線が細く、ラインが美しい。まさに貴婦人といった佇まいを感じさせるところです。それと、ブリスターフェンダーの美しいラインも好きなポイントです」

心底このレジェンド クーペに惚れ込んでいるオーナーだが、決して猫かわいがりしているわけではないようだ。

「NSXもそうですが、雨が降っていても必要に応じて乗りますよ。濡れたらあとで拭き上げればいいんです。古いクルマだと雨漏りはもちろん、オイル漏れをはじめとするさまざまなトラブルとうまく付き合っていくことが醍醐味だと思っています。もし壊れたとしても、代用できる部品を探して、直せないか試してみる。それで直れば嬉しいじゃないですか。自分のノウハウの蓄積にもなりますしね。何でもプロ任せにせず、自分の手を汚してみて初めて気づくこともたくさんあると思いますね」

信頼できるその道のプロに愛車を託せばコンディションは維持できるし、何より安心だ。しかし、愛車のちょっとした変化に気づかず、結果として壊しかねないこともありうる。得手不得手それぞれあるだろうが、古いクルマのオーナーとしては知識だけでなく、ある程度は自分でメンテナンスできるくらいの技術を身につけておいた方がいざというときに安心かもしれない。

最後に、今後このレジェンド クーペとどのように接していきたいか尋ねてみた。

「所詮は自己満足かもしれませんが、もはや私の生活に溶け込んでいる存在だけに、このクルマのない生活は考えられないです。いつ見てもホレボレしていられるうちは、特に乗り換える必要性も感じません。致命的なトラブルが起きない限りは、ゆっくり楽しく付き合っていきたいと思っています」

撮影終了後、普段レジェンド クーペが羽を休めているというオーナーのショップ&ガレージに案内していただいた。

一歩室内に足を踏み入れると、ふんわりとオイルの匂いが鼻をくすぐる。これは内燃機関でなければ味わえない。電気自動車やバイクが普及するにつれ、これもやがて過去のものとなっていくのだろうか…。

実は、オーナーはクルマだけでなくバイクに関する造詣も相当に深く、ホンダやブリヂストン製など、ガレージには往年のバイクが所狭しと並べられていた。いずれも、新車同様のコンディションを維持している貴重な個体ばかりだ。噂を聞きつけて全国各地から「良い縁談」に導かれてオーナーのショップ&ガレージを訪ねてくる人が多いという。

休日ともなれば併設されたカフェスペースに仲間たちが自慢の愛車ともに訪れて、クルマやバイク談義に花を咲かせているという。そこはまさしく「多くの男子にとっての理想郷」だ。日がな一日、コーヒーを片手にオーナーとその仲間たちが談笑する光景を、レジェンド クーペは静かに見守っているに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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