モディファイの原点は、幼少期に味わった実姉の手料理。1983年式三菱ミニカ エコノ(A107V型)
オリジナル派か、それともモディファイ派か?クルマ好きのあいだでも、おそらくは明確に二分化されるはずだ。仮に双方が議論したとしても永遠に折り合いがつかず、平行線のままだろう。そもそも、どちらが正解か?といった発想自体が野暮かもしれない。
モディファイ派にとって、大量生産された1台のクルマを自分好みに仕立てる作業は、まさに「至福のひととき」だ。そして、その「モディファイ派」にもさまざまなタイプが存在する。大別すると「人に見られることを意識したモディファイ」か「他人の視線よりも、ひたすら自分の理想を追求したモディファイ」だろうか・・・。
今回、取材させていただいたオーナーはあきらかに後者だ。オリジナリティーを追求しつつ、吟味に吟味を重ねて、その時点で自分がベストだと信じた部品を取り付けていく。しかも、湯水の如く大金をつぎ込むのではなく、手間ひまを惜しまず、できる限り自分の手を汚して安価に抑えている点も興味深い。そんなオーナーと愛車のスタンスを紐解いていきたいと思う。
「このクルマは、1983年式三菱ミニカ エコノ(以下、ミニカ エコノ)です。手に入れたのは5年ほど前、現在の走行距離は約6万9千キロです。私が手に入れてからの走行距離は約6千キロくらいでしょうか。実は、前オーナーさんにお声掛けしてから10年後に譲っていただいた個体なんです」
オーナーの個体は、1977年にデビューした三菱ミニカの4代目にあたるモデルだ。5代目にフルモデルチェンジしたのが1984年なので、4代目としてはモデル末期にあたる。なお、オーナーが所有するミニカ エコノ(A107V型)は商用車モデルであり、乗用車はミニカ アミ(A107A型)となる。
ミニカ エコノのボディサイズは全長×全幅×全高:3190×1390×1370mm。オーナーの個体には「G23B型・バルカンSエンジン」と呼ばれる排気量546cc、直列2気筒エンジンが搭載され、最高出力は31馬力である。
1983年に生産された個体ということは、つまり「40年選手」であることを意味する。おそらくは、当時造られたほとんどの日本車が廃車となり、路上から姿を消していると考えるのが自然だろう。まして、この個体は「商用車」だ。どちらかというと生存率が低い部類のクルマだけに、今となっては大変に貴重な存在である。そんな個体を、オーナーはどうやって手に入れたのだろうか?
「今から15年ほど前、友人と出掛けていたときに、畑の道ばたで佇んでいるミニカ エコノを見つけたんです。その瞬間に“ビビビ”ときましたね。そこで、オーナーと思しき農作業中のお爺さんに声を掛けてみたんです。話を伺うと、新車で手に入れて以来ずっと所有しているとのことでした。そこで“自分はこのクルマにとても興味があるから、手放すときは連絡して欲しい”と連絡先を伝えました」
前オーナーからすれば、突然見ず知らずの人から『クルマを手放すときには譲って欲しい』と声を掛けられ、さぞかし面食らっただろう。
「それから忘れもしない10年と4ヶ月後、私の携帯電話に例のお爺さんから『クルマを手放そうと思っている』と連絡があったんですね。声を掛けて以来、ずっと気になっていたので嬉しかったですね。さっそくお爺さんのところに伺うと『廃車にしようと考えていたときに思い出した。でも、本当にこんなクルマが欲しいの?』といわれましてね。そこで、声を掛けた経緯や、古いクルマを大切にする文化があること、自分としても大事に乗りたいという意思を懇々とお伝えしました(笑)」
確かに、クルマを日常の足や仕事の道具として接している人と、趣味や嗜好品と考えている人とでは捉え方や接し方がまったく異なる。ましてやミニカ エコノは「商用車」だ。仕事の足・道具としての役割を担って誕生したモデルでもある。
「さすがにタダで譲っていただくわけにはいきませんから、お気持ち程度の現金を用意していきました。しかし、お爺さんは頑として受け取らないんです。むしろ、お金を払うつもりなら譲らないくらいの勢いだったので、お土産を渡してミニカ エコノを引き取ることにしました」
こうして、10年越しの想いが叶い、晴れてオーナーの愛車となったミニカ エコノ。さっそくオーナー自ら、クルマのコンディションを整えつつ、モディファイに着手するべく動き出した。
「仕事の足として使われていた個体だったので、ワンオーナー車とはいえどもそれ相応にヤレはありました。そこで、ボディパネル表面の肌調整を行いました。耐水ペーパーを使ってパネルごとに1枚ずつじっくりと磨き上げていくんです。まずは左側のリアパネルから400番のペーパーで磨き、800番〜1200番〜1500番〜2000番と番手を上げていきました。左側のリアパネルから着手したのは、まず運転席から一番離れた場所にあるパネルからスタートして、この個体での作業に慣れるためです。耐水ペーパーの番手も、ボディパネルの状態に合わせて細かく調整していきましたよ。焦って作業すると失敗するので、自分が納得できる仕上げになるまで4ヶ月掛かりました。かつて、プラモデル製作で得た経験が活きましたね」
一刻も早く完成した姿が見たくて、焦ってプラモデルを造って失敗した…という人もいるだろう。ひょっとしたら、オーナーもそんな経験があるのかもしれない。いずれにしても、プラモデル製作で得たノウハウが、実車をモディファイするときに活かされたのだ。
「シートはカーマン製(オートバックスの前身)です。これは1500円で購入したものなんです。後付けのタコメーターはAutogauge製、アクセルペダルはautolook製の当時モノで、私がかつて使用していたものを見つけ、リペアして装着しました。オリジナルのフロントグリルは、1967年式三菱ミニカのCピラー用のアンチモニー素材のエンブレム、そして“S”のエンブレムは、トヨタ ヴォクシーのものを流用しています。この“S”は、バルカンSエンジンを連想させるものなのですが、誰も気づいてくれません(笑)。実は、フロントグリルはもう1個ありまして、こちらはスズキ ワゴンRのものをベースにアレンジしています。縦のグリルのメッキ部分を黒く塗装することで、本来の本数よりも少なく見せる工夫をしています。私としては、ベースとなるクルマにマッチするのであれば、メーカーにはこだわらないんです」
モディファイ箇所をすべて挙げていくとかなりのボリュームになるので、泣く泣く割愛したことをご了承いただきたい。取材の合間に、「せっかくだから」と、わざわざワゴンRベースのフロントグリルに交換してくれたオーナー。取材を進めていくうちに、豊富な経験とノウハウ、アイデアの引き出しの多さや、チョイスする際の最大公約数の広さに圧倒された。これまでに相当な経験と試行錯誤を繰り返してきたに違いない(モディファイに際し、車検に対応させるべく変更の手続きも済ませているという)。そうなると、愛車遍歴や人生を変えたクルマの存在も気になるところだ。
「これまでの愛車遍歴は200台くらいです。スズキ セルボ(SS20型)だけでも30台くらいは乗り継いだと記憶しています(笑)。過去に衝撃を受けたクルマは、通称『ケンメリ』と呼ばれるスカイラインです。これの4ドア、前期モデルがもっとも好きでしたね。私は2ドアクーペより、断然モディファイし甲斐のある4ドアセダン派なんです。ソレックスのキャブレターに換装したり、チェリーテールや、ローレルのグリルに交換された『ケンメリ』は当時痺れましたね」
一見すると、まるでオリジナルのようにクルマに「自然と馴染んでいる」モディファイにもオーナーなりの「美学」を感じる。
「美学ではありません(笑)が、私なりにこだわっているのは“手間を掛けてもお金は掛けないこと”“一見するとノーマルに見えること”“迷車=原石を磨き上げること”でしょうか。できるだけ自分で作業をすればコストが抑えられますし、中古の部品も、買うのではなく譲ってもらえば安く済むことだってありますから。モディファイに関しても、声高に手を加えていることを主張するのではなく、まるでオリジナルであるかのようにしっくりと馴染ませるように心掛けています。そして何より、スポーツカーなど、人気のあるクルマだとモディファイには『王道』がありますが、このミニカ エコノにはそういったセオリーはありません。自分では、誰もが認める“名車”ではなく“迷車”と思うクルマをカッコ良く仕立て上げることに魅力を感じますね」
いわゆる名車や人気があるクルマだと、アフターパーツが充実していて幅広い選択肢のなかから選べるイメージがある。その一方で、モディファイにも「王道」や「定番路線」が確立されているケースも少なくない。その結果、誰が手を加えても際だった個性を醸し出すのは意外と難しい。その点、(オーナーには失礼ながら)マイナーなモデルであれば、アフターパーツの数が少ない分、知恵やアイデアで不足分を補いつつ、さらには独自性を打ち出すことができるのだ(と同時に、オーナーのセンスが問われる)。では、なぜオーナーがこのようなスタイルになったのか?きっかけは意外なところにあった。
「私が幼かったころ、姉が残り物を使って料理を作ってくれたんですね。これがとても美味しくて…。高級な食材を使えば、ある程度は誰でも美味しい料理を作れると思いますが、これが残り物となると作り手のセンスが問われると思うんです。このときの経験を、私はプラモデル製作で実践しました。実車のモディファイはその延長線上ですね。余談ですが、その後、姉はプロの栄養士になりましたよ」
愛車広場の取材を続けていると、原体験がいかに重要であるかを再認識させられる機会が多い。もし、オーナーのお姉さんの作った料理の材料が余り物でなかったら…。オーナーの考え方そのものもまったく異なっていたかもしれない。最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。
「現状に満足せず、貪欲にモディファイを追求していきたいです。現在の満足度は100%ですが、明日はどうなるか分かりません。もっとカッコイイと思えるアイデアが思い浮かぶかもしれませんから。そのときどきでベストを尽くしつつ、このクルマのコンディションを維持して大切に乗りたいですね。それと、前オーナーさんが敢えてリアシートのビニールカバーを外さずに残してあるので、この状態を維持していきたいです」
ひとつ、忘れていた。モディファイというと、ノーマル戻しが可能な範囲で行うか、徹底的に手を加えるかで方向性やクルマに対する手の加え方が大きく異なる。言わずもがな、オーナーは前者だ。さまざまな制約があるなかで、安易に妥協せず自分なりにベストを尽くす。これまでの知見を活かし、吟味に吟味を重ねたすえにいったん立ち止まり「この部品を取り付けることでカッコ良くなるだろうか?」と自問自答する。そして、試行錯誤のすえに完成した愛車がモディファイされていることを声高に主張せず、さりげなく全体のトーンを整える。
クルマと徹底的に向き合い、コストを抑えつつ、その分、手間と時間を掛けて自分なりの理想形を造り上げる。既製品に頼らず、知識と知恵を駆使してクルマを仕上げていくオーナーの手法は、かなりの「モディファイ上級者」といえるだろう。王道は1つかもしれないが、邪道なんてものはそもそも存在しない。改めて、クルマ趣味の奥深さ、無限の楽しみかたがあることを実感する取材となった。
余談だが、現在、他にもオーナーが手塩に掛けて仕上げているクルマがあるという。完成した際にはご一報いただけることになった。まるで自分の愛車のように完成が待ち遠しい。取材させていただく日が今から楽しみでならない。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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