「素晴らしいクルマをありがとう」。幼い頃から憧れた1999年式ホンダ・シビックタイプR(EK9型)を慈しむ24歳の男性オーナー

あの頃に憧れたクルマたちが、いまだに現役の場面を目にするたびにうれしくなると同時に、もうそれほどに年月が経ってしまったのかと愕然としてしまう回数も増えてきた。90年代に走り回っていたクルマたちは「ネオクラシック」と呼ばれるようになった。「若者のクルマ離れ」と呼ばれる昨今だが、ネオクラシックを愛する若いオーナーは増えた気がしている。彼らはどんなきっかけでクルマを好きになるのだろう。漫画やゲーム、それとも幼少期における原体験だろうか。

今回、紹介するオーナーは、1999年式のホンダ・シビックタイプR(EK9型/以下、EK9)を所有する、24歳の若き男性オーナーだ。手に入れてから、今年で3年目を迎える。これまでの走行距離は3万5000キロ、オドメーターは15万4000キロを刻んでいる。まずは、EK9型の気に入っている点からオーナーに尋ねてみた。

「EK9のスタイルと走りが大好きです。VTECサウンドがたまりません。ホンダさんには『こんなに素晴らしいクルマを作ってくださり、ありがとうございます』と言いたいですね。赤いエンブレム・レカロシート・チタンシフトノブなどの、タイプRにしかない装備にも所有欲が満たされます。休日には、たとえ午後からでも目的地を決めずに、400kmから500kmのロングツーリングへ出かけたりもします。もちろん、常に安全運転を心がけています」

EK9型は1997年から 2000年までに生産された、シビックタイプRの初代モデルにあたる。ボディサイズは全長×全幅×全高: 4180x1695x1360mm。1.6リッターの直列4気筒VTECエンジン「B16B型」は高回転型のNAエンジンであり、最高出力は185馬力。レッドゾーンは8200回転を許容する。駆動方式はFFだ。

オーナーにとっては、このEK9が初の愛車だという。出逢いは、幼稚園の頃に遡る。彼の父親がシビック(EK3型)を所有していたのをきっかけに、EK9の存在を知って虜になった。その後、父親に連れられてディーラーへ通っているうちに、当時のセールスマンからEK9の魅力を教えてもらったそうだ。

「小学生だった私がディーラーへ行くたびに、営業さんがSPOON SPORTSや無限のカタログをくれたんです。私の話にもずっと付き合ってくれて、EK9のパーツリストまで見せてもらいながら『クルマが好きな人は品番で頼むんだよ』とワクワクさせてくれました。訪れるたびに2時間はいたと思います。その間、父は暇そうに待っていましたね(笑)。中古車の見方や選び方も教わり、その後のカーライフにも非常に役立っています。それと…この営業さんが、あるオーナーが所有するEK9のシートに座らせてもらえるように取り計らってくれたんです。そのときの記憶と感動は、今でも鮮明に残っています。実は、SNSを通じてこのときのオーナーさんとつながることができたんです!」

このセールスマンとの出逢いがなければ、こうしてオーナーがシビックタイプRを手に入れることはなかったかもしれない。ところで、当時プレゼントしてもらったカタログは、今も手元にあるのだろうか?

「当時のカタログはボロボロに擦り切れるまで読みました。タイプRのカタログは、知らないうちに処分されてしまっていると思います。買い直してもいいのですが、オークションで高値になっていますし、カタログを買うなら愛車のメンテナンス費にまわしたいと思っています」

オーナーの父親は、そこまでクルマ好きではないのだろうか?

「父は、クルマ熱が高いというわけではないですが、シビックの前はインテグラに乗っていたので、嫌いではないのでしょう。もし父がそのままインテグラに乗り続けていたり、あるいは他メーカーのクルマに乗っていたなら、私はEK9を手に入れていなかったかもしれないですね(笑) 。そういえば小学校6年生の頃、父がクルマを乗り換えるというので、EK9が欲しいと頼み込んだところ『10万キロ・修復歴なし・100万円以内なら買ってやる』と条件を出されたことがあったんですが、当時はそんな個体が存在するはずもありません。1件だけ126万円・2万キロの個体を見つけたので、父を連れて見にいくと、ひと目見てわかるレベルの事故車でした。こうしたできごとを経験しながら大人になりました」

まさに幼少期の原体験が、今日のカーライフに繋がっているといえよう。

オーナーは24歳と若いが、「若者のクルマ離れ」と呼ばれて久しい昨今、彼と同世代の友人たちの中には、クルマ好きがどのくらいいるのだろうか?

「私は整備士3級をめざして自動車科のある高校へ進学したので、周囲はほとんどクルマ好きでした。思えば高校生活がいちばん楽しかったですね。私も専門知識を学んでいくほどにEK9が好きになっていきました。当時はFFの好きな友人はほとんどいなくて、GT-R、スープラ、チェイサー、マークⅡなどのFRスポーツが好きな友人ばかりでした。ところが今、整備の道へ進んだ友人たちのほとんどが、クルマ好きとは無縁のクルマに乗っています。現役でスポーツカーに乗っている友人は1人くらいでしょうか」

高額な保険料や中古車相場の高騰というハードルをクリアしながら、オーナーはどんな経緯があってこの個体を手に入れるに至ったのだろうか。

「高校を卒業する頃、一度EK9を探したのですが、大学への進学が決まっていたので保留になっていたんです。そのうち就職活動を終えて卒業間近になり、やっと買えると思ったのに、いざ中古車相場を見ると『こんなに高かったっけ?』と思うくらい高騰していてビックリでした。100万円はザラです。保険料も高くて驚きました。そこでバイトを始め、並行して友人にオークションで探してもらい、ようやく見つけたのが今の個体です」

購入した当時、この個体はどんな状況だったのだろうか。

「本当はCDプレーヤー付きオーディオ、キーレスエントリーシステム、アルミパッドスポーツペダル、専用色カーボン調パネルなどが追加装備された『タイプR・X』が欲しかったのですが、見つからなかったですね。契約前の情報では修復歴がなく、エアクリーナーだけが社外品で、記録簿もすべて揃っているということでした。しかし、実際に確認してみると、記録簿は揃っていないし、軽い修復歴はあるし、おまけに喫煙車でした。ボディは傷んでしまっていて、擦ると粉を吹いてしまうくらいのひどいコンディションでした。まさに『やっと手に入れた』という状態だったんです。購入したショップのご厚意で磨きをかけてもらったのと、コツコツとメンテナンスしてきたおかげで、やっとここまで復活できたと思っています。実は、私の個体はマイナーチェンジ後のほぼ最終型なんですよ」

念願のEK9を手に入れてから3年、今までと変化したことを尋ねてみた。

「とにかく毎日が楽しいです!EK9が、生活の原動力になってくれています。仕事中もつい、洗車やドライブがしたいと考えてしまうことがあります。ただそれは、集中が途切れるというわけではなく、ある種の『やる気スイッチ』になっていると思っています。そして『欲しい』から『持っている』になったという喜びを、ひしひしと感じる瞬間があります。だから、故障を経験するたびに『また直せばいいか』という気持ちになれます。トラブルでさえも、所有しているからこそ味わえている幸せと感じられるようになりました」

納車後、モディファイはオーナーの手で施されているのだろうか?

「納車当時から付いていたエアクリーナーを純正品に戻しました。それからETCをアンテナ分離型に取り替えました。内装は、ドリンクホルダーがタバコで溶けていたのでEK3用のものに交換したのと、シフトブーツはタイプR・X用のものです。ステアリングはMOMO製のチューナーというモデルで、NSXと同じ径にしています。同じくキーもNSXと同じです。このデザインが好きなので。大きな修理としては、ミッションのオーバーホールを行いました。信頼の置けるショップに出会い、メンテナンスをしてもらっています。変な改造をしていたら受け付けてくれないような、腕のたしかな職人です。想像で話すことなくリフトアップして、目視で必ず確認・判断してくれます」

純正部品の供給状況で感じていることは?

「EK9はすでに、いくつかの部品が欠品になっているそうです。いざという時に中古やリビルトという対応しかできなくなるのが心配です。それに、中古部品がオークションで高騰していますね。ホンダ車の純正アクセサリーの開発・販売をしているホンダアクセスさんには、ぜひ、NSXやビートのように、サスペンションやフロアマットを出していただきたいです。世の中には、これだけのファンがまだまだいると認識してもらい、部品の再生産に繋がればと願っています」
人気車種はアフターパーツが充実しているケースが多く、自分好みの愛車にカスタマイズすることも可能だ。その一方で、オリジナルコンディションを維持することに重きを置き、純正部品の使用にこだわるオーナーも少なからず存在する。その種のオーナーにとって、純正部品およびアクセサリーが製造廃止されることは死活問題なのだ。そんな市場のニーズを察してか、マツダ・ユーノスロードスターや日産・スカイラインGT-R(R32型)などの純正部品の再生産が発表されたことは記憶に新しい。あとは、各自動車メーカーがどこまで取り扱い車種を拡大してくれるか?そこに強い関心を寄せ、アンテナを張っているクルマ好きもいるに違いない。

愛車と接するうえで、もっともこだわっているポイントを尋ねてみた。

「自分でできることは極力やって『整備士の手を汚さない』がモットーです。最近では洗車サービスがあるので、自分で洗車をしないという人が多いですが、汚れた車体は整備士のモチベーションを下げると思うんです。逆も然りで、万が一傷をつけられても、汚れた車体だと気付きにくいですから。クルマに触れる整備士の手を汚さないようなコンディションにこだわっていきたいです」

ここで、これからEK9を手に入れようとしている未来のオーナーへ向けてのメッセージを伺ってみた。

「誕生から20年以上経っている旧車です。手が掛かることはある程度覚悟をして乗ったほうがいいかもしれません。手放した方の話を聞くと、後悔する声ばかりです。それほど人生の1ページを刻んでくれる素晴らしい1台ですので、ぜひ乗ってください!」

最後に、今後このクルマとどう接していきたいのか、意気込みを伺ってみた。

「純正部品にこだわりつつ、美しいコンディションにこだわっていきたいです。しかし、コレクションカーではないので、しっかり乗っていきます。最近、「EK9はもう古いクルマだ」といわれてとてもショックを受けるできごとがありました。正直、悔しい気持ちもありますが、その反面「意地でもこのクルマに乗り続けてみせる!」というモチベーションにつなげていきたいと決意を新たにしたところです。今回のように、人生は何があるかわからないですが、トラブルに見舞われても、今後もEK9に乗り続けていくでしょう。また、コンディション維持のために普段用のクルマを買って、2台体制にしようという気もありません。結婚してもEK9は維持したいと思っています。私の彼女はクルマ好きではありませんが、理解はあると思うので、一緒に乗っていけたらと思っています。そしてホンダさんにあらためて、EK9を生んでくれてありがとうと言いたいです。乗り続けることが、メーカーへの恩返しにもなるとうれしいです」

オーナーとEK9のカーライフを伺っていると、乗っているというより「慈しんでいる」という言葉がふさわしいと感じた。悔しささえもバネにする前向きな姿勢に心より敬意を払いつつ、幼い頃に憧れたクルマとともに、次にステージへ向かおうとしているオーナーの未来に幸多からんことを!

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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