クルマに乗ると人生が変わる!?68歳のオーナーが1997年式マツダ・ユーノスロードスターV-SPECIALⅡ(NA8C型)に乗って気づいたこと

クルマを趣味にしていると、ひとつの到達点へたどり着く気がしてならない。「このクルマに乗って良かった」としみじみ感じる日が、いつか訪れると思っている。

今回の主人公は、マツダ・ユーノスロードスターV-SPECIALⅡ(NA8C型/以下、初代ロードスター)と暮らす、68歳の男性オーナー。10代の頃からクルマ好きで、愛車遍歴も実に多彩。スバル・360カスタムを皮切りに、スバル・ff-1スポーツ、ホンダ・S600、トヨタ・スポーツ800、日産・バイオレットSSSハードトップ、ホンダ・クイントインテグラ 5door GSi、日産・プリメーラTm(P10型)、日産・フィガロ、マツダ・ロードスターターボ(NB型)、初代ロードスターの特別仕様車であるM2 1001、レクサス・NX200tなど、さまざまなクルマを乗り継いできたという。これまでの愛車遍歴のなかで、印象に残っているクルマは?


「日産・プリメーラTm(P10型)とスバル・ff-1スポーツですね。クルマを乗り継いでいくうえで選ぶ基準は、スタイリングとフィーリングなんです」

オーナーが所有する初代ロードスターは、今でも世界中のクルマ好きに愛されている。歴代モデルのなかでも特に人気がある。誕生は1989年。車名にはマツダが展開していたブランド「ユーノス」が冠され、2代目よりマツダ・ロードスターに改称されている。

ボディサイズは全長×全幅×全高:3970×1675×1235mm。走りを楽しむためにエンジンはフロントミッドシップ方式を採用、前後重量配分は50:50を誇るなど、正統派のライトウエイトスポーツとして支持されている。さらに今年、メーカーによるレストアサービスが開始されたことでも話題だ。

オーナーの個体は1997年式の「シリーズ2」だ。初代「NA型」の最終モデルにあたる。搭載されている直列4気筒DOHCエンジンの排気量は1839cc。1995年のマイナーチェンジで、1597ccからの排気量アップが行われている。「V-SPECIAL」とは、ネオグリーンのボディカラーとタンカラー内装のコンビネーションに、NARDI製のステアリングとシフトノブを装着したクラシカルな雰囲気が漂うグレードのイメージが強いが、このクルマのボディカラーは稀少なブリリアントブラックだ。

しかも、オーナーの個体は、めずらしい4速ATモデル。3年前に手に入れた当時、オドメーターは2.3万km弱だった。それから約7000kmを走行している。この個体とともによく行く場所とは?

「イベントによく参加していますね。ロードスターには全国に多くのミーティングがあるので、いろんな場所へ行けるのが楽しいですし、たくさんの出会いがあるのもうれしいです。出会った仲間とは、ブログやSNSでの交流も楽しんでいます」

ロードスターのミーティングやオフ会の多さは、他の車種と比べて群を抜いている。また、ロードスターオーナーが主催する「オープンカーの集い」も全国各地で見られる。出会いや縁を大切にするオーナーの懐の深さも含めて、このクルマの魅力といえるのかもしれない。

さて、オーナーは約26年間、家庭を優先するためにクルマ趣味を封印していたが、本格的に再開したのは2004年だという。

まずはオーナーの人物像に迫るべく、今までのカーライフについて伺ってみた。ロードスターを選んだ原体験とは?

「ホンダ・S600が原体験となっています。これに乗っていなかったら、ロードスターを所有していなかったでしょう。バイクのエンジンみたいに高回転で、トランスミッションはショートストロークだし、手足を伸ばして乗るスタイルに衝撃を受けました。しかし当時は、オープンカーやスポーツカーは、現代ほど市民権を得ていませんでしたから、親からは『見えない場所に隠しておけ』なんて言われたものです。実際にいたずらをされることも多かったんですよ。そんな思い出もあって、世界中で愛されるロードスターには感慨深さをおぼえています」

オーナーは初代ロードスターに出会う前に、2代目ロードスターと初代限定モデルのM2 1001を所有している。その経緯は?

「私は、クルマ趣味を再開したとき、2代目ロードスターの限定車である「ロードスターターボ」を購入してミーティングに通いはじめました。そこで初代ロードスターの絶大な人気ぶりを知り、仲間からロードスターの専門店が存在する情報を得たんです。お店のWebサイトを観てみたら、絶妙なタイミングで初代ロードスターの限定モデルであるM2 1001が売りに出ていたんですね。これも何かのご縁と感じ、現車を確認することなく購入を決めてしまいました」

M2 1001は、初代ロードスターをベースに300台限定で生産されたレアモデルだ。チューニングされたエンジン「B6-ZE改」を搭載。専用シャシーの採用や、パワステレスなど、スパルタンな仕様となっていた。

「当初はM2 1001を購入するために、2代目ロードスターを下取りに出すつもりでいたんですけど、2台とも貴重なクルマだし、自分もいつまで運転ができるかわからないので、せっかくだからと2台体制にしてしまいました(笑)」

ところが、M2 1001の所有が次第に負担を感じるようになったという。

「確かにすばらしいクルマでしたが、レアモデルゆえに感じる緊張感が、いつのまにか負担になっていたようです。例えば、ちょっとした用事でクルマから降りるときも目が離せなかったり、壊したくないと“貴重品”のように扱っているうち、自分のものではないような感覚になってしまっていました」

この感覚は、スーパーカーのオーナーにも通じるかもしれない。一部のクルマ好きに注目される緊張感、事故や故障に対する不安など、さまざまな気遣いがいつのまにか「趣味を仕事」のように感じさせていたのだろう。

「そこで、今後のことを考え『楽しみ方を変える』ことにしました。走りは楽しみながら、もっとリラックスして乗る方法があるんじゃないかと思ったんです。それに、車体が古くなるほど酷使するのも忍びないですから。そこで、距離やスピードよりも景色や風、音を感じながら走る楽しみを大切にするとしたら、ATという選択肢もあるんじゃないかと思うようになったんです」

そして愛車、初代ロードスターとめぐり会う。出会いのきっかけは?

「中古車サイトで見かけた個体でした。そのときの季節が冬だったこともありますが、2ヶ月ほど売れずにそのまま残っていましたね。クルマの特性上、MTが好まれる傾向なんでしょうね。私はクルマのある福島まで確認に行きました。実際に見ても、内装がきれいな、フルノーマルのATモデルでした。以前NA6型のATは難があったとの噂を聞いていたので不安がよぎりましたが、こちらはマイナーチェンジ後のNA8型だし、もしダメならMTに載せ換えてしまえばいいと気楽に考えました」

現在は、2代目ロードスターとM2 1001を手放し、初代ロードスター1台でカーライフを楽しむオーナー。この個体の気に入っている点はどこだろうか。

「独特のコーナリングが気に入っています。サスペンションとのバランスがいいんでしょうね。車体の傾きを感じながらコーナリングをリズムとして感じられるところが好きです。ロールしながら切り込んでいく、あのフィーリング。これが街乗りでも楽しめて、ATでも味わえる。ハイパワーだったらあのセッティングはできないでしょう。コーナリングに優れたクルマは他にたくさんあるんでしょうけど、あんな曲がり方をするクルマは、ロードスターの他に知りません」

ATになっても変わらない魅力に、メーカーの良心を感じる。では、この個体を所有していくうえでこだわっている点は?

「可愛がりすぎないようにしていますね(笑)。もちろん手入れはしますが、適度な緩さを持っていないと、以前のように負担になりますから。いろいろあってたどり着いたのが、このスタイルなんだと思います」

自分を追い込まないことが、長く乗る秘訣となっているのかもしれない。今、オーナーにとって、この個体はどんな存在なのだろうか。

「なんだかホッとする存在なんですよね。サイズ感もハンドリングも自分の手の内にあるようで、不思議な安心感をおぼえます。このクルマのボディは決して強くないので、人によってはいろいろと手を入れてしまうんでしょうけど、そうではなくてノーマルも『ひとつのカタチ』なんですよね。しかし、モディファイ派も楽しめる懐の深さが、初代ロードスターの魅力だと思うんです」

最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺ってみた。

「趣味は人間関係の接着剤と言いますが、ロードスターと出会っていちばんの財産は、友人が増えたことです。この年齢になると、別れは多くても出会いは少ないですから、縁を大切にしながら乗り続けていきたいですね。それに、年齢を重ねると偏った思考になりやすいので、クルマを通して人間関係を学べているとも思っています。これからもみなさんに、同じロードスター好きとして、お付き合いしてもらえたらうれしいですね。もし、このクルマが手元からなくなってしまったら、心に穴が空いてしまうでしょう (笑)。今さら、他人の手に渡すのも寂しいので、乗れなくなったら手元に置いておくだけでもいいと思っています。肩の力を抜いて、ゆるく乗っていきたいと思っています」

例えば、定年を迎えて自由がきくようになったとき、やることが見つからず、焦燥感をおぼえてしまう話を耳にする。女性の場合は、旅行や趣味に積極的だが、男性の場合、時間を持て余してしまう傾向にあるのだろう。そんなとき、例えば1台の初代ロードスターを、第二の人生の「相棒」として迎えてみるのはいかがだろうか。オープンドライブの爽快感や、仕事上の人間関係では得られなかった友人と、カーライフを満喫してみてはどうだろうか?

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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