新たに夫婦となったカップルと寄り添う愛車。1998年式マツダ ロードスター スペシャルパッケージ(NB6C型)
愛車広場の取材をさせていただく際、事前に質問内容を決めてからオーナーにお話を伺うようにしている(基本の流れは毎回同じだが、その都度アドリブを入れており、オーナーごとに質問内容は異なる)。そのなかで、多くのオーナーを困らせる質問がある。
それは「人生を変えたクルマは何ですか?」というものだ。
即答してくれるオーナーがいる反面、答えに窮してしまう方も少なくない。そこで、質問の仕方を変えるなどして、さまざまな方法でオーナーの秘めた想いを聞き出すことになるのだが、とても興味深いエピソードを伺うことができる項目であり、申し訳ないと思いつつ、やはりこの質問は外せないのだ。
ちなみに、今回のオーナーは「即答」だった。答えはいうまでもない。オーナーの人生を変えたクルマは「現在の愛車」だ。
「このクルマは、1998年式マツダ ロードスター スペシャルパッケージ(NB6C型/以下、ロードスター)です。私は45歳ですが、まだ10代だった頃、運転免許を取ったばかりのときにすれ違ったユーノス ロードスターの快音が忘れられず、いつか乗りたいと思っていたんです。この個体を手に入れたのは7年ほど前。現在の走行距離は約22万3千キロ、これまで15万キロくらい走りましたよ」
マツダ ロードスターに関して、もはや多くを語る必要はないだろう。一世を風靡した初代モデルにあたる「NA型」の正当な後継モデルとして1998年1月にデビューしたのがこの「NB型」だ。ボディサイズは全長×全幅×全高3955×1680×1235mm。NA型とほぼ同じ寸法である。またデビュー当初より、排気量1597cc/125馬力または1839cc/160馬力を誇る直列4気筒DOHC16バルブエンジンが選べたことも、多くのロードスターファンにとって嬉しくも悩ましい選択だったに違いない。
現在、45歳のオーナーが7年ほど前にこのロードスターを手に入れたということは、30代後半に購入して現在にいたっているわけだ。そうなると、ロードスターを手に入れるまでのオーナーの愛車遍歴が気になるところだ。
「運転免許を取得して最初に手に入れたのがトヨタ スープラ(A70型)でした。その後、トヨタ ハイラックスのトラックをローライダー仕様に改造したり、トヨタ マークII ツアラーVに乗ったり、日産ラルゴやキャラバン、ホンダ ステップワゴンなどを乗り継いできました」
スポーツモデル一辺倒というわけではなく、さまざまなジャンルのクルマを乗り継いできた印象を受けるが、ロードスターの前の愛車がステップワゴンとは、かなりクルマの嗜好が変わったように映る。
「それまで乗っていたステップワゴンが故障してしまい、乗り替えざるを得ない状況だったんです。そんなとき、ふっと思い浮かべたのが、若いときに快音とともにすれ違ったユーノス ロードスターの存在でした。主治医に“ロードスターに乗りたい”旨を伝えたところ、ちょうどそのお兄さんが手放すタイミングだったとのことで譲ってもらったのが現在の愛車です。試乗させてもらったらいっぱつで魅せられました。即決でしたね。当時はロードスターのこともあまり詳しくなくて、各モデルの違いも理解していませんでした。そんなわけで、たまたまご縁があったのがNB型だったから手に入れた…くらいの感覚だったんですが、このデザインが気に入っていますし、いまとなってはNB型でよかったと思っています」
そして、このロードスターとの出逢いが、後のオーナーのカーライフを激変させることになる。
「とにかく運転することが楽しくて仕方ないんです。このクルマで通勤しているのですが、仕事帰りに屋根を開け、少し遠回りして帰宅することもありますよ。休みの日には、1日の走行距離が1000キロを超えることもしばしばです。若いときはハイパワーなクルマに惹かれたこともありましたが、“走る・曲がる・止まる”をダイレクトに味わえるロードスターのフィーリングを知ってしまった以上、他のクルマには興味がなくなってしまいましたね。ロードスターに乗るようになってから、免許取り立ての頃のようなクルマに触れる楽しさを思い出しました」
オーナーのロードスターは、主張は抑えられつつ、さりげなくも品が良く、統一感を持たせたモディファイといった印象を受ける。ホンの数年前まで歴代ロードスターの区別がつかなかったとは思えないほど、そのセンスとバランス感覚は絶妙だ。思いつくままにモディファイした…というより、「じっくりと時間を掛けてここまで煮詰めた」クルマであることは間違いない。これもオーナーが創り上げた仕様なのだろうか?
「主治医のお兄さんから譲り受けた時点ではホイールが交換されているくらいで、ほぼノーマルの状態でした。現在の仕様に到達するまで、自分なりに吟味に吟味を重ねてきました。細かいところまで挙げると本当にキリがありませんが、外装でいうと、エアロはマツダ純正品をセレクト、ホイールはワーク製のEQUIP 03にこだわりました。内装はエスケレート製のバケットシート、マツダ純正のファッションバー、Defi製のメーターは油圧計・油温計・水温計を装着、メーターパネルは、AWD製パネルとNR-Aメーターを用いたワンオフなんです。NARDI製のステアリングはステッチが赤いものをチョイスしています」
オーナーのこだわりがぎゅっと凝縮されたロードスター、気に入っているポイントを挙げてもらった。
「なんといっても“屋根が開くこと”と“運転が楽しいこと”でしょうか。手に入れてからチャンス(時間)さえあれば屋根を開けて、気分も上げて走っています。NB型特有のグラマラスなスタイルも気に入っています。現行モデルであるND型も気になる存在ですが、乗り替えようとは思いません。いちど試乗させてもらったことがあるんですが、ND型を運転したあと、自分のロードスターをどう思うのかが気になりました。実際には、自分のクルマを運転する楽しさを改めて実感するよい機会となりましたね」
では、愛車で「こだわっているポイント」とは?
「ひとことでいうなら“統一感”です。外装はエボリューションオレンジマイカのボディカラーにトーンを合わせ、内装はメッキパーツと赤&黒で統一感を出しました。トライアンドエラーの繰り返しを経てようやくここまで仕上がりました。自分なりのモディファイはこれでほぼ完成したと思っています。あとはコンディション維持に努めたいですね」
実は取材当日、数日後に入籍を控えているという婚約者の女性もオーナーとともに参加していただいた。彼女の手作りというお守りは、ロードスターの車内で大切に保管しているそうだ。
「休日にロードスターに乗るときは彼女もほぼ一緒です。まだ読んだことはないのですが、彼女お手製のお守りのなかにはメッセージが書かれた紙が入っているらしいです。私にとって彼女はもちろんのこと、ロードスターも大切な存在です。その点を理解してくれるのがとてもありがたいですね」
最後に、この愛車と今後どのように接していきたいのか?その想いを伺ってみた。
「頼れる主治医のお陰でこれまで大きなトラブルはありませんが、これからも予防整備を心掛け、可能な限り乗り続けていきたいです!」
オーナーにとって、婚約者の女性と、愛車であるロードスター、どちらが大切なのかと問うのは愚問でしかない。どちらか一方が欠けても、オーナーの心にはぽっかりと大きな穴が開いてしまうことは間違いない。もちろん、ファイナルアンサーについてはいうまでもないだろう。それは究極の選択を迫られた場合に限った話だ。
余談だが、取材後にオーナーへ連絡を取ったところ、婚約者の女性と無事に入籍したということだ。晴れて夫婦となったオーナーと奥さまの末永い幸せ、そしてその傍らにロードスターがあるカーライフがいつまでも続くことを願うばかりだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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