28歳オーナー初の愛車は「当時の雰囲気」にこだわった1994年式日産 プリメーラ(P10型)
あたりまえのように見かけていたクルマが、いつのまにか姿を消していることに気づく瞬間がある。なんとも切ない瞬間だが、健在な姿を見かけると、寂しさを凌ぐほどのうれしさがこみ上げてくる。
今回取材したオーナーも、そんな名車と暮らしている。現在28歳のオーナーが所有するのは、日産 プリメーラ。オーナーの個体は「P10プリメーラ」とファンから親しまれている初代モデルだ。
オーナーの愛車は、ひと目で大切にされているとわかる。しっとりとツヤを放つ磨き上げられたボディからは“当時感”が醸し出されている。まるでタイムマシンに乗って90年代に来たかのような錯覚に陥って我に返る。今自分がいるのは令和なのだと……!
「露天駐車しているので、洗車は週に一度コイン洗車場で手洗いしています。納車したばかりの頃、塗装のくすみが気になったので、自分でポリッシャーをかけました。二日に分けてざっと磨いて、後で気になる部分を磨いて仕上げました。唯一、バンパーについた飛び石傷が気になっていますが(笑)」
露天駐車でありながら、このコンディションを維持していることに驚く。飛び石による傷は、現および歴代オーナーたちが刻んだ勲章といえるだろう。取材当日も、その場で汚れている部分をクリーニングしていた姿が印象的だった。
日産 プリメーラは、1990年から2005年までシリーズ3世代に渡り生産(初代は1990年から1995年まで生産)された。当時の日産が「1990年代までに技術の世界一を目指す」を目標に掲げた「901運動」で誕生した名車の一つでもある。
初代プリメーラは、のちにGT-R(R35型)の開発責任者となる水野和敏氏が車体設計で関わっていたことでも知られる。欧州の高性能車に引けを取らない実用性とスポーツ性をあわせ持つスポーツセダンで、発売当時から各自動車メディアやモータージャーナリストたちから高評価を得ていたことも印象深い。
初代プリメーラ(P10型/以下、プリメーラ)のボディサイズは、全長×全幅×全高:4400x1695x1385mm。搭載される直列4気筒DOHCエンジンは、排気量1838ccの「SR18Di型/SR18DE型(モデルサイクルの途中で後者に変更)」と1998ccの「SR20DE型」の2タイプが設定された。駆動方式はFF。トランスミッションは4速ATと5速MT。フロントサスペンションにはマルチリンク式を採用し、クイックなハンドリング性能を実現。また、1993年からBTCC(英国ツーリングカー選手権)、1994年からJTCC(全日本ツーリングカー選手権)へ本格参戦している。
なお、車名の「プリメーラ」はスペイン語で「第一級の」「最高級の」という意味を持つ。
「私のプリメーラは1994年式の『1.8Ciクルーズ』というグレードで、特別仕様車です。所有年数は今年で3年目を迎えました。現在の走行距離は13万7000キロで、購入当時の9万キロだった頃から4万キロほど走っていますね。トランスミッションは5速MTです」
オーナーの愛車は「1.8Ciクルーズ」と呼ばれるスポーティーなアイテムが装備された特別仕様車。ハイマウントストップランプ付きリヤスポイラー・フォグランプ・14インチのアルミロードホイール・スポーツシートなどが装着されている。
このプリメーラが初の愛車というオーナーだが、クルマ好きとなる「原体験」はいつだったのだろうか。
「父親がクルマ好きなので、幼い頃から影響は受けてきたと思います。トミカで遊んでいましたし、ある日父親が購入してきた『プレイステーション2』とレースゲームの『リッジレーサーⅤ』は、私のほうが夢中になって遊んでいました(笑)。
当時、家にはトヨタ レビン(AE101型)がありました。ファミリーカーとして結構長く乗っていて、チャイルドシートに座らされていたのを憶えています。私が小学1年生の頃、レビンからオーパに乗り換えることになりました。自宅までセールスの方がオーパを持ってきてくださり、その代わりに引き取られていくレビンを寂しい気持ちで見送った記憶が残っています」
幼い頃、周囲にクルマ好きの友人は?
「多かったですね。小・中学生になると、カタログを眺めながらクルマの話で盛り上がっていました」
この取材を続けていると、20代のオーナーからは「クルマ好きの友人は、運転免許を取得したり、成人するまでいなかった」というコメントが大半なのだが、オーナーの場合はクルマ好きとして恵まれた環境だったのかもしれない。こうしてクルマ好きとして覚醒していく中で、思い入れのあるクルマとも出会っているはずだ。そこで「人生観を変えたクルマ」を尋ねてみた。
「スズキ ジムニーですね。“2ストのジムニー”が好きなんです。中学生の頃、クロカンの競技大会を見学したとき、SJ30ジムニーが悪路をガンガン走っている姿に『こういう世界もあるのか!』と衝撃を受けました。2ストオイルが焼ける匂いも好きになりました(笑)。初めて欲しいと思ったクルマでしたね」
さて、オーナーはなぜプリメーラを選んだのだろうか。愛車になるまでの経緯を伺った。
「学生時代は都市部に住んでいたこともあり、マイカーを持つのが遅かったんです。学生時代はレンタカー店でアルバイトしていたので、クルマが必要になればスタッフ割引で安く借りられていたんです。あるとき、大学の先輩から『プリメーラを買わないか?』という話がありました。プリメーラがどんなクルマなのかは知っていましたが、その当時は好きというほどでもなかったんです」
プリメーラの魅力に気づいたきっかけは?
「購入前に試乗として遠出したときです。クイックなハンドリングや意のままに操れる感覚が魅力的でした。しかもMTなのでエンジンの回転数とギア比を自分の感覚で合わせていく作業が楽しくてたまりませんでした。レンタカー店のアルバイトでも運転はしていたのですが、大半がATやCVTだったので、MTでのドライブは新鮮でしたね。それに、プリメーラをはじめとする90年代のクルマは電子制御が入りすぎているわけでもなく、機械との距離感もちょうどいいなと感じました」
プリメーラに乗り始めたことで、心境や生活に変化はあったのだろうか?
「クルマに乗って軽く流すことが、日頃の気分転換の手段になりましたね。長距離ドライブは週末がほとんどです。基本的に単独ドライブですが、コロナの影響で行けなかったツーリングやミーティングも少しずつ再開しています」
ツーリングやミーティングに集まるオーナーの年齢層は?
「私が参加しているミーティングは、プリメーラが現役だった40〜50代の方がメインです。しかし、ここ2年間で20代のオーナーが増えました。私より少し年下のオーナーもいますし、近所に住んでいる同世代のオーナーもいます」
愛車で気に入っている点を伺ってみた。
「街乗りができてスポーツ走行も楽しめるオールマイティな点ですね。基本骨格がすばらしく、足回りやステアリングがしっかりしています」
では、こだわっているポイントは?
「90年代当時の雰囲気を壊さないように心がけています。雰囲気にマッチしたパーツ選びもですが、当時感を演出するためにカップホルダーなどの小物にもこだわっています」
続いて、モディファイについて詳しく伺った。オーナーの個体にはさりげなくモディファイが施してあるが、コンセプトは?
「やはり『当時感を大切にする』がコンセプトです。前のオーナーが前後バンパー・ビルシュタイン製の足回り・スポーツマフラー(車検クリア)・ボルボ純正のBBSホイールを装着していた以外はノーマルの状態だったので、この雰囲気を維持するように心がけています」
新たに交換したパーツは?
「純正サイドエアロ装着・ヘッドカバー塗装・アメリカのRENOWN製ステアリング・RECAROシートおよびENKEI製のアルミホイール交換・足回り新調などです。ENKEI製のホイールは、PCDがマッチするホイールがあまり出回っていなかったので、オークションで探しました。ステアリングはUSDM系に人気のRENOWN製(アメリカ)です。高校時代からUSDMも好きなので、このクルマの雰囲気に合うモデルを選んでみました」
「それから、エンジンのヘッドカバーが汚れていたので自分で塗装しました。それと、少し前にプリメーラのミーティングがあったので、それに合わせてエンジンルームのつや出しを行いました。オーディオの照明もDIYで色合わせしています」
プリメーラの現役時代をほとんど知らないはずなのに、当時感をここまで研究するオーナーの情熱とこだわりに舌を巻く。では、今後のモディファイの予定は?
「見た目はこれで満足しているので、リフレッシュに力を入れます。エンジンマウントのブッシュ交換など少しずつ進めています。部品供給については、今は困っていません。しかし今後は心配ですね。他メーカーの車種に乗る友人は“絶望的”だと言っていたので、絶版車の部品供給は続けて欲しいですよね」
最後に、このプリメーラと今後どのように接していきたいのかを伺ってみた。
「実は、BMW M3(E36型)のMTモデルを半年前から探してもらっています。もしM3が手に入ったら、プリメーラを父親にも乗ってもらいつつ、コンディションを維持したいです。プリメーラは海外でも価値が再評価されているようで、『スパイシースポーツセダン』と呼ばれていることを知りました。見た目・走り・使い勝手がよく、ここまで完成度の高いクルマは少ないので、手放せば二度と手に入ることはないでしょう。大切にしていきたいです」
まさに「正統派のクルマ好き」だ。生粋のエンスージアストになりそうなオーナーはまだ20代。内燃機関のクルマの終焉が刻々と近づいているかもしれない昨今、乗りたいクルマには乗れるだけ乗っておくのが正解かもしれない。
また、乗り手が変わるたびに「一時預かり」のような形で所有するオーナーも今後増えていくかもしれない。オーナー各々がメンテナンスやリフレッシュをしながら、貴重な車種を次世代に継承する。「ネオクラシック」と呼ばれるクルマたちにもそんな時代が訪れているという予感は、気のせいではないように思えてならない。
(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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