「16年ロマンス」の夢叶い、相思相愛。1998年式トヨタ チェイサー ツアラーV改(JZX100型)

このクルマは一生モノ、アガリの1台。

この取材を続けていると、そんな強い意志を秘めたオーナーとの出会いが多いことに感動し、驚かされることが多い。

「このクルマでなきゃ、ダメなんだ」といい切れるカーライフ、実はとても幸せなのではないかと思う。

今回ご紹介したいオーナーもそんな1人だ。待ち合わせ場所でこのクルマを見たとき、思わず「もしやガレージ保管ですか?」と尋ねてしまったほど素晴らしいコンディションを誇る個体であった (オーナー曰く「青空駐車」とのことだが、にわかには信じがたいほど細部にまで手入れが行き届いていたことをお伝えしておきたい)。

タイトルにもなっている「16年ロマンス」というフレーズは、実は取材中にオーナーが発した言葉を使わせていただいている。若い頃に憧れ、16年ものあいだ一途に想いつづけてきたからこそ手に入れることができた愛車だという。今回はそんなオーナーと愛車のエピソードをお届けしたい。

「このクルマは1998年式トヨタ チェイサーツアラーV改(JZX100型、以下ツアラーV)です。手に入れたのは約8年前。現在のオドメーターの距離は約6万3000キロ、私が3オーナー目で、これまで約1万8キロ乗りました。今、52歳ですが、このクルマは若いときから欲しいと思っていたんです」

JZX100型のトヨタ チェイサーは、シリーズとしては6代目の最終モデルにあたる。1996年のデビュー当時、チェイサーのカタログのイメージカットは、オーナーが所有する「ツアラーV」が採用されており、この世界観はテレビCMも同様であった。

チェイサーのボディサイズは全長×全幅×全高4715x1755x1400mm。オーナーが所有するツアラーVは、「1JZ-GTE」と呼ばれる、排気量2491cc、直列6気筒DOHCターボエンジンが搭載され、最大出力は280馬力を誇る(NAエンジンを搭載した「ツアラーS」、その他、2リッターエンジンを搭載した「ツアラー」も設定されていた)。

1996年から2001年まで生産されたJZX100型チェイサーは、モータースポーツシーンでも活躍した。JTCC(全日本ツーリングカー選手権)で土屋圭市の駆る「ADVANチェイサー」の活躍がいまでも脳裏に焼き付いている人も多いだろう。その結果「マークII 3兄弟」のなかでももっともスポーティなイメージが浸透し、いまやチェイサーが「ツアラー」の代名詞となった感がある。

さて、ガレージ保管かと目を疑うほど細部に至るまで美しく磨き上げられたオーナーのツアラーV、愛車遍歴を伺うと「このクルマが、オーナーにとってたどり着くべき到達点だった」ことが次第に分かってきた。

「最初の愛車は2T-Gエンジンを搭載したトヨタ カリーナ1600GTでした。これは事故で廃車になってしまい、友人からマツダ ポーターキャブを3万円で譲ってもらったあと、フォード フェスティバを経て“鉄仮面”と呼ばれる日産スカイラインRSターボ(DR30型)に乗り替えました。いわゆる“ドッカンターボ”で荒々しいクルマだったけれど、自分のなかで“格好良くて速いセダンが好き”という図式ができあがったのはこのクルマのお陰ですね。その後、トヨタ クレスタ GTツインターボ(GX71型)や、マークIIおよびチェイサー 2.5GTツインターボ(JZX81型)などを乗り継ぎました。その間、スープラ2.5GTツインターボ R(JZA70型)を所有していた時期もあったのですが、どうもしっくりこなくて…」

この取材を通じて、さまざまな嗜好を持つオーナーと出会う機会に恵まれているが、最近になって気づいたことがある。「セダン派」と「クーペ派」の好みは割とはっきり分かれる傾向にあるように思う。今回のオーナーはあきらかに「セダン派」であり、チェイサー ツアラーVのような、格好良くて速いセダンに惹かれる点も合点がいく。

「JZX100型のチェイサーがデビューしたとき、私は30歳前後だったと記憶しています。当時はマークII 2.5GTツインターボ(JZX81型)を所有していたんですが、新車は高額で手の届かない存在でした。その後、同じJZX81型のチェイサー 2.5GTツインターボを所有していたとき、それなりに年数が経過したクルマだけに、故障が目立ちはじめたんですね。ふと、中古車サイトで目に留まったのが現在の愛車です。ネッツ店の認定中古車として販売されていたクルマで“これを逃したら、次はない”と思い、すぐに問い合わせて現車を観に行きました。それまでも漠然とチェイサー ツアラーVを探していたんですが、このときはビビッときたんですね。たまたま仕事が休みで、自宅からそれほど離れていない場所だったこともラッキーでした」

突然訪れたチャンスをモノにできるかどうか?おそらく、ビビッときたのはオーナーだけではなかったはずだ。それにはやはり、「即断即決」できるかに掛かっているように思う。そして見事にオーナーはチャンスをモノにしたのだ!

「現車を見たら一目惚れでしたね。それまで乗っていたチェイサー 2.5GTツインターボは当時の仲間に譲ることができましたし、現在の相場では考えられないような価格だったこともあり、ついに念願のチェイサー ツアラーVを手に入れることができました。私にとって“16年ロマンスの夢が叶った瞬間”でしたね」

ついに恋い焦がれていたツアラーVを手に入れたオーナー。しかし、中古車ゆえに100%自分の希望に合致したクルマに出会える確率は極めて低いように思う。それゆえ、妥協した点もあったようだ。すでに多くの読者の方がお気づきだと思うが、オーナーのツアラーVには「改」の文字が加えられている。これはつまり…?

「3年ほど前に、ミッションをATからMTに載せ換えました。本当はツアラーVのMT車が欲しかったんです。もともと生産台数が少ないようで、しかも中古車ではATよりMTの方が割高。『酷使されたMT車よりも、程度の良いAT車を手に入れてトランスミッションを載せ換える方法もあるよ』というアドバイスもあり、3年ほど前にJZX110用の5速MTに載せ換え、公認を取得しました。後継モデルにあたるMT、しかも新品の部品を組み込めたので、結果としてこれでよかったのかなと思っています」

チェイサー ツアラーV「改」というと、見た目にもかなりモディファイが加えられていそうだが、オーナーの個体はひと味違う。決して控えめというわけではないのだが、どことなく上品な、さりげない佇まいなのだ。

「BLITZ製のフロントインタークーラーは、無理をいってあまり目立たないように取り付けてもらっていますし、ホイールはBBS製。足まわりはOHLINS製の車高調を装着していますが、極端に落とさないように心掛けています。その他、マフラーはTRUST製、ECUはAPEX製、シートはRECARO製に交換。純正フルエアロは購入当時から装着されていました。“当時、新車でツアラーVを購入した山の手のお坊ちゃんがモディファイしたらこんな感じ”かな(笑)。そんなイメージで仕上げています。外観はほぼ理想通りのイメージに仕上がりましたね」

まったくのノーマルではないけれど、あくまでもさりげなく、オリジナルの雰囲気を崩さないモディファイ。一見簡単そうだが、オーナーのセンスと自制心が問われるように思う。特に若いときほど、ついつい度を超えたモディファイに走りたくなるからだ(結果的に後戻りできなくなって手放す…という結末になることもしばしばだ)。

オーナーにとってほぼ理想的な仕様に仕上がったというツアラーV、これほど美しい個体であるがゆえに忘れそうになるが、よくよく考えれば20年選手の個体なのだ。無論、オーナーもその点に関してぬかりはないようだ。

「エンジン始動時の暖機運転はもちろんのこと、走りはじめは各機関がまだ冷えていますから、クルマに優しい運転を心掛けています。過去のオーナーさんが取り付けてくれたターボタイマーはいまでも活用させてもらっています。定期的なメンテナンスや車検は、購入したネッツ店にお願いしています。エンジンオイルは走行距離に関係なく、最低でも半年に1度は交換。洗車も、忙しくて自分で洗えないときは、洗車専門のプロショップに持ち込んでいます。現在のコンディションを維持していることは、自分でも誇りに思いますね」

ここまでオーナーに大切にしてもらえたら、クルマとしても本望だろう。最後に、今後このツアラーVとどのように接していきたいか尋ねてみた。

「スタイリングはもちろん、直6エンジンが奏でる音も大好きです。このクルマは本当に売る気ないので…。死ぬまで連れ添っていきたいというのが率直な気持ちです。本気で欲しいと思うクルマもありませんし、手放したら後悔の念に駆られると思うので…“本気で愛しています”といえるかもしれないですね(笑)」

恋はいつしか冷めるものだ。しかし「永遠の愛」というフレーズがあるように、愛には終わりがない。あるとしたら、どちらかの命が尽きるときかもしれない。

16年越しの恋を実らせ、念願のツアラーVを手に入れたオーナー。9年目に突入した相思相愛の日々はまだまだ序章にすぎないのかもしれない。また、そうであって欲しいと心から願いたくなる取材であったことをお伝えしたい。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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