30年前の1BOXカーをDIYで極上空間に!1991年式トヨタ マスターエース サーフ
最近、あまりに聞かなくなった自動車関連用語がいくつかある。そのなかのひとつが「1BOXカー」ではないだろうか。近年では「ミニバン」の方が耳に馴染んでいるかもしれない。
どれほど高級なセダンでも、ミニバンの室内空間の広さにはかなわない。一度この感覚を味わってしまうと、なかなかセダンタイプには戻れないほどの快適さだ。それはもはや、移動する部屋といっていいほどだ。
しかし、1BOXカーも侮るなかれ。ハイエースに代表される1BOXカーは、現代のミニバンのように至れり尽くせりの装備ではないかもしれない。その一方で、道具としての高い実用性やタフネスさでは絶対的なアドバンテージを持つ。
今回のオーナーは「指名買い」ではなく、「偶然出会った」ことがきっかけでこの1BOXカーを手に入れたという。もともとの期待値が高くなかったことが結果として功を奏した形となり、日に日に愛着が深まっていったようだ。では、なぜこのクルマを愛車に選んだのか?じっくり紐解いてみたいと思う。
「このクルマは1991年式トヨタ マスターエース サーフ スーパーツーリング(YR30G型/以下、マスターエース サーフ)です。手に入れたのは半年前です。現在の走行距離は約9万キロ、私が所有してからは5千キロほど乗りました」
マスターエース サーフは1982年にタウンエースの姉妹車としてデビューした1BOXカーだ。タウンエースは商用車の設定があるのに対し、マスターエース サーフは乗用車用のみ。より豪華な装備を求めるユーザー向けに用意されたモデルであった。
2WD/4WDをはじめ、エンジン・トランスミッション・ルーフバリエーションを組み合わせることで、さまざまなボディータイプおよびグレードが用意された。そのなかでもオーナーの個体は「4WD仕様・2リッターガソリンエンジン・4速AT・ハイルーフ」を組み合わせた「スーパーツーリング」というグレードだ。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4435x1690x1985mm。「3Y-EU型」と呼ばれる、排気量1998cc、直列4気筒OHVエンジンが搭載され、最高出力は97馬力を誇る。
オーナーの個体は1991年式。このモデルとしてはほぼ最終型にあたり(翌1992年に生産終了)、エスティマ エミーナ/ルシーダが実質的な後継モデルとなった。車名の由来である「マスターエース」は、英語「master」で「先頭に立つ者」と英語「ace」の「第一人者、もっとも優れた」の合成語である。ちなみに「サーフ」は、英語「surf」で「さざ波」を意味し、使い方の広がりを表している。
オーナー曰く、この個体を手に入れたのは半年前とのことだが、まずはその馴れ初めから伺ってみることにした。
「マスターエース サーフを手に入れるまで20年くらい前に造られたレンジローバーを所有していたんです。故障も増えてきて、そろそろ他の4WDカーに…と思って探してみると、ランドクルーザーは年式を問わず高価だし、最新のSUVにも惹かれるモデルがない。車中泊やキャンプができて、未舗装の道を走ることができる4WDカーがあるといいな…と思っていたときに現れたのがこのマスターエース サーフだったんです」
レンジローバーからマスターエース サーフに乗り換え。正直意外なチョイスではある。
「自動車販売業を営む友人が下取ってきたクルマだったんです。売るに売れないし、数ヶ月間店舗の駐車場に放置されていたところを私が見初めたというわけです。“このクルマ乗りたいから譲って!”と。そもそも、ようやくこのクルマを手に入れたとか、憧れの存在というわけではなかったんです。手に入れたときはボロかったですし(笑)、“今どきの改造をしてしまえ!”なんて思っていたくらいですから」
もともとの期待値が低いだけでなく、それほど思い入れもない。だからこそ、良くも悪くも道具として割り切って使い倒せるのかもしれない。この期待値の低さが、結果としてマスターエース サーフに深い愛着をもつきっかけになるのだから、世の中何が起こるか分からない。
「このクルマ、私で2オーナー目らしいんです。実際に乗ってみるとエンジンの調子もいいし、コツコツ磨いているうちにクルマがシャキッとしてきまして。30年前のクルマだからそれなりに経年劣化もあるけれど、1人目のオーナーさんのところで大事に使われてきたんでしょうね。当初はリフトアップしたり、マットグレーにペイントして遊ぼうかなと思っていたんですが、そのうち情が移ってきて“これはこのまま乗ったほうがコイツのためかも”と思うようになっていったんです」
憧れのクルマを手に入れたまではいいものの、もともとの期待値が高すぎて幻滅したり、ふとしたきっかけで気持ちが冷めてしまうケースは少なくない。スタート時点の思い入れが100%だとしたら、ほとんどの場合は減点法になっていくしかないのだ。しかし、オーナーの場合はほぼゼロスタート(笑)。愛車の良さに気づくたびに加点法になるわけで、結果的にどんどん好きになっていくという好循環が生まれるのかもしれない。
取材させていただいた愛車のモディファイというと、マフラーや足まわりなどクルマに直結した部品が多いのだが、今回はそれとは異なる。マスターエース サーフの車内でいかに快適に過ごせるか、そして安価に済ませるかに重きが置かれているようなのだ。
「ホームセンター・100円ショップ・ネットの安売りなど。どれも安く購入して自分で手を加えたものばかりです。テーブル板はホームセンターで買ってきたものを加工しただけだし、カーテンレールの上の木材はニトリで見つけたものです。この木材にLED照明を組み込むことで、夜は間接照明になります(昼間でもうっすら点灯しているのが確認できる)。それとYahoo!オークションで手に入れたイタルボランテ製のステアリングは革が傷んでいたので、ホームセンターで見つけてきて自分で縫ったんです(笑)。ウーファーとアンプは90年代前半に手に入れて屋根裏に保管してあったものをつけました。川原にこのクルマを停め、窓を開けてのんびり過ごすことも多いので、今度はDIYで網戸を作ろうと思っています(笑)」
ここで改めて気になるのは、レンジローバーからマスターエース サーフへの乗り換えというオーナーのチョイスだ。さらに、モディファイの手法や発想に関して素人の域を超えていると感じたのだ。誰かの真似ではなく、自らの発想を形にする(できる)技術とクリエイティブさ。ふと気になり、伺ってみると…。
「バイクのカスタムショップを営んでいまして。ワンオフマフラーの製作や金属加工や溶接、塗装などなど。自分でできることはやっちゃいますね。住んでいる土地柄、峠が近いこともあり、若いときはしょっちゅう走りに行ったものです。でも、事故に遭遇するたびに公道で走るのは危ないことを痛感し、サーキット走行に移行しました。メカが好きなので、当時は自動車関連の学校に通いながら夜な夜な改造屋さんでアルバイトして、給料の代わりにレース用のバイクを作ってもらっていたんです。このときの経験が今に生きていますね。独立したのは2011年。私は今51歳なので、40代のときですね。チャラチャラしたくなかったので、意地でも広告を出さなかったんです(笑)。私が製作したマフラーを装着したバイクがレースで優勝したり、レコードタイムを記録したことで、口コミでお客さんが増えていきました」
どれほど優れた商品や技術を持ち併せていたとしても、宣伝をしなければ世の中に知ってもらうのは難しい。しかし、オーナーは自らの実力を証明したことで、宣伝に頼らず顧客を獲得することに成功した。固定客がつくまでは相当な覚悟がいるが、これがいちばん確実であり、ショップとユーザーそれぞれにミスマッチも起こりにくいだろう。
「そういうわけで、走りに関してはクルマよりもバイクがメインなんです(笑)。マスターエース サーフは、愛車遍歴では人生初の愛車である日産パルサー エクサに次いで2台目の5ナンバー。他は貨物(4ナンバー)ばっかりです。現在、もう1台所有しているクルマもバイクが載せられるように購入したハイエース バンですから」
実は取材当日、2匹の愛犬とともにオーナーの奥様にも同席していただいた。やはり奥様の反応も気になるところだ。
「家にはハイエースがあるし、同じようなクルマが2台あっても仕方ないと当初は反対でした。でも今ではとても気に入っています。自宅で夕飯を済ませたあとや銭湯の帰りにこのクルマを近所の川原まで移動して、車内でコーヒーを飲みながら本を読んだり、ゆったりした音楽をかけたり…。移動カフェのようであり、まるで“動く別荘”のような感覚です。今はコロナ禍で思うように出掛けられないですけれど、このクルマで移動すれば密を避けられますし、車内でコーヒーを飲みながら愛犬たちと一緒にいられるのもいいですね」
今回、オーナーのご厚意でマスターエースの車内でインタビューを行うこととなった。対面式のシートに座り、川沿いの空き地にクルマを停めて、窓を全開にして涼しい風を感じながらインタビューを行うと、自然とリラックスした雰囲気になる。
「このクルマが生産されたのが1991年。その頃っていうと、カーオーディオに何百万円もつぎ込んだり、リアに巨大なスピーカーやウーファーを積んで音をガンガン鳴らしていましたよね。マスターエース サーフに積んであるアンプとウーファーもそのときの名残なんです(笑)。古いけど、今でも良い音がするんですよ。コーヒーを沸かしながら、控えめな音量でBGMにジャズをかければ、車内がジャズ喫茶に早変わりです」
オーナー自身、20年ほど前にオーディオコンテストで1位を獲得した車両に遭遇し、実際に音を聴かせてもらったのだという。有名なオーディオショップが手掛けたクルマで、このときの音の定位感や音質の印象が強烈で今でも忘れられないそうだ。
今や、ご夫婦で(おそらくは愛犬たちも)べた惚れ状態のマスターエース サーフ。今後、どのように接していくつもりなのだろうか?
「いかにこのクルマを延命させて乗るか…ですね。“壊れないでくれ!壊れないでくれ!”と祈りながら乗っています(笑)。無責任に“一生乗り続けます”とはいいたくないですけれど、長い付き合いになるんじゃないかと思いますね。この種のクルマって意外と選択肢がなくて、代わりとなる存在が見つからないんですよ (オーナー)。
ウチに来てから手を加えた部分はいろいろあるけれど、前オーナーさんが取り付けたイルカの飾りは残してあるんです。御守代わりですね(奥様)。
前オーナーさんとはお会いしたことはないけれど、今の状態を見せたら「おいおい、まだ乗れるじゃないか!返してよ!」っていわれちゃうかもしれません(オーナー)」
クラシックカーおよびネオクラシックカーの人気が高まっている昨今、華やかな存在であるクーペやスポーツカーにスポットライトが当たりがちだ。しかし、マスターエース サーフのような乗用車のことも忘れてはならない。
敢えて新築ではなく、古いマンションや戸建てをリノベーションした物件を選ぶ人たちがいる。その方向性や規模はさまざまだが、古くなった建物を現代のライフスタイルに合うようにアレンジして付加価値を高めた住まいのことを意味する(リフォームはマイナスの状態を元に戻す原状復帰だが、リノベーションはプラスαという違いがある)。今回のマスターエース サーフはあきらかに後者だろう。
現代のデザイントレンドからすると古いクルマに映るかもしれないが、オーナーのアイデア次第で最新モデルに引けを取らないくらいの「リノベーションカー」として魅力的なクルマであることを強く実感できた。個人的にもまったくの予想外であり、大変刺激を受けた。
今回、このクルマに接してみて、まっさきに思い浮かんだ言葉は「温故知新(古いものをたずね求めて新しい事柄を知る)」だった。最新のミニバンのようにキビキビ走るクルマではないし、ファーストクラスのような豪華なシートではないかもしれない。しかし、ひと言でいうなら「ものすごく居心地がいい」のだ。例えるなら、初めて訪れたのに不思議と懐かしさや安らぎを感じる老舗旅館のような雰囲気、と表現しても大げさではないだろう。
こうして取材を終えた今、マスターエース サーフにこそ「温故知新」という言葉を贈りたい気持ちでいっぱいだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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