小学校の卒業文集に「夢はF1ドライバーになること」と記した55歳のオーナーが叶えた夢。2007年式フェラーリ・F430 F1

フェラーリというクルマはつくづく罪な存在だと思う。

多くの人が知っているように、簡単に手に入れられるようなクルマではない。

そこで、いつかフェラーリを買うと心に決めて起業したり、コツコツと貯金に励んだり…。あらゆる手段を講じてオーナーになる手段を模索することになる。人生を変えてしまうほど魅力的であることは間違いない。

今回、小学生のときにスーパーカーブームの洗礼を受け、「アガリの1台」として、ついに宿願だったフェラーリオーナーとなった1人の男性を紹介したい。

「このクルマは、2007年式フェラーリ・F430 F1(以下、F430)です。手に入れたのは3ヶ月ほど前、現在のオドメーターの走行距離は(偶然にも)4万3千キロです。私がオーナーになってからの走行距離は2千キロくらいでしょうか。私はいま、55歳なんですが、ようやく少年時代からの夢を叶えることができました」

F430は、360モデナの後継モデルとして2004年9月に開催されたパリ・サロンでデビューを果たし、2005年春には日本でもお披露目となった。その時点ですでに100人を超えるユーザーが(現車を見るまでもなく)予約していたというから驚きしかない。そんなF430のボディサイズは、全長×全幅×全高:4512×1923×1214mm。排気量4308cc、V型8気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は490馬力を誇る(リッター当たり114馬力をたたき出した)。

またF430には、当時のF1で得られたノウハウが反映されている。例えば、F1用に開発された“E-Diff”と名付けられた電子制御デフが世界で初採用され、ステアリングのスポーク部分に備えつけられた赤いレバーである「マネッティ」という名の切り替えスイッチも斬新だった。この「マネッティ」を切り替えるだけで、シチュエーションに応じたF430の走りを楽しむことができるのだ。さらに、カーボンブレーキやエアロダイナミクスなど、レースからフィードバックされたテクノロジーが惜しみなく投入された。

少年時代から憧れの存在だったフェラーリを手に入れたオーナー、クルマ好きになったきっかけを覚えているのだろうか?

「当時、家のクルマは三菱・ミニカだったと記憶しています。日帰りのドライブや母の実家に行くとき、クルマに乗れるのが楽しみで仕方がなかったですね。また、父親がタクシーの運転手だったこともあり、幼い頃からクルマは身近な存在でした。小学生の頃には、通学の途中で見掛けるクルマの名前はほとんど暗記していましたよ(笑)。そこへスーパーカーブームが拍車をかけましたね。フェラーリやランボルギーニなど、クラスの男子の大半が夢中になっていましたよ」

当時、オーナーと一緒に夢中になっていたクラスメイトたちのなかで、実際に夢を叶えた人は何人くらいいるのだろうか?

「知る限りでは私だけだと思います。大人になって興味を失ったり、結婚して子どもができたことで家族を優先したり…。実は、私もそうでした。ミニバンタイプを中心にファミリーカーに乗っていた時期が長かったですよ。18歳になったとき、草刈正雄主演のドラマ「華麗なる刑事」の劇用車だった赤いギャラン・ラムダが最初の愛車でした。それ以降は、自分自身の生活にあったクルマを選んでいましたね。そんな状況でも、いつか欲しいと思っていたのがNSXとフェラーリだったんです。そして、子どもが成長して手が掛からなくなってきた頃、ようやくNSXを手に入れる機会がめぐってきました。長年、想い続けてきたクルマを手に入れることができたので、それはもう嬉しかったですね…。NSXは一生乗るつもりで手に入れたので、主治医はNSX専門のショップでじっくりメンテナンスしてもらい、溺愛していました」

それほど気に入っていたNSXからフェラーリに乗り換えた理由とは?

「NSXは本当に気に入っていたんですが、常に心のどこかにフェラーリの存在がありました。妻にも『いつかはフェラーリに乗りたい』と言い続けてきましたし。しかし、私は会社員です。周囲の目が気にならないといえば嘘になります。それと、購入後のメンテナンス代が捻出できるのか、置き場所の問題をどうクリアするのか?否定的な要素ばかりが頭をよぎりました。そんなことを思いつつ、寝る前にYouTubeにアップされているフェラーリの動画を観て排気音を楽しんだり、実際に手に入れてドライブしている姿を想像する日々が続きました。このまま手に入れられずに年齢を重ねていくのはあまりにも辛い…。そうなんです。なんだかんだ言って『フェラーリが欲しい!』という気持ちが抑えられなかったんですね。そこで思い切って妻に相談したところ承諾を得られたので、溺愛していたNSXを手放し、長年の憧れであったフェラーリを購入する決意を固めました」

ついにフェラーリ購入に向けて動き出したオーナー。やがて運命としか思えない出会いが待ち受けていた。

「当初はF355(6MT)を考えていましたが、昨今の価格上昇のため、予算的に断念せざるを得ませんでした。そこで、360モデナ、ボディカラーは赤、内装は黒、マフラーが交換されていること以外はノーマルという条件で探すことにしたのですが、360モデナも6速MTは高値で売られており、もう少し相場が安いF1も視野に入れて探していたんです。そんなとき、いつもクルマを購入する際にアドバイスをしてくれる大先輩からF430の話が舞い込んできました。予算的に厳しいものがありましたが、『ボディカラーは赤、内装は黒、マフラーが交換されていること以外はノーマル』という条件にぴったりと合致する個体でした。しかも、YouTubeで観ていたときに『いい音だな』と感じていたオオニシヒートマジックのマフラーが装着されていると知り、これはもう運命なんだと覚悟を決めて手に入れることにしたんです」

実際にフェラーリのオーナーになってみた率直な気持ちは?

「ついに小学生の頃から想い続けてきた夢が叶ったわけですが、納車して帰宅するまでは緊張しましたね…。自宅の駐車場にフェラーリが置いてあってもしばらくは実感が湧きませんでした。ようやく、手に入れた喜びを噛みしめられるようになるまで時間が掛かりましたね」

このF430の取材中に気づいたことがある。何気ない風景にこのクルマが停まっているだけでその場の雰囲気を一変させてしまうのだ。道行くトラックドライバーたちが例外なくF430に視線を投げ掛けて走り去って行く。クルマを擬人化することに抵抗を示す人がしばしば存在するが、このクルマは誰もが振り返る美女としかいいようがない。そんな強烈なオーラを放つF430の気に入っているところとは?

「『ロッソコルサという名のボディカラー、デザイン、そして排気音』ですね。休日の午前中にワインディングに持ち込み、フェラーリの音と走りを堪能しています。道が混む前の早朝に出掛けたいのですが、音が大きいので妻に止められています。前オーナーさんがマフラーと牽引フックを取り付けた以外はノーマルの状態を維持していて、私もモディファイする予定はありません。その分の予算をメンテナンス代に充てていきたいですね」

オーナーには、これまでの自分の人生を振り返りつつ、いまの若い世代の方に伝えたいことがあるという。

「職場の後輩や部下たちに『たとえ夢であっても、思い続けてさえいれば、いつか必ず叶う』と伝えたいです。実は、小学校の卒業文集に『夢はF1ドライバーになること』と書いたんです(笑)。時間は掛かりましたが、『フェラーリ・F430 F1』のドライバーになれましたし(笑)。私が実際にフェラーリを買えたのは、想いを持ち続け、諦めなかったからです。と同時に、会社員という立場でどうやったらフェラーリのオーナーになれるのか?その点に関しては熟慮に熟慮を重ねました。もし、本当に欲しいクルマやそれ以外のモノがあるのなら、諦めずに想いを遂げて欲しいです。もしフェラーリに興味があるのなら、積極的に触れてもらいたいですし。しばらくはフェラーリの布教活動に励みたいと思います」

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「購入当初は、2~3年乗り続けられたら人生の良い思い出になる…くらいのつもりで考えていました。しかし、いまは違います。可能な限り乗り続けられたらと考えるようになりましたね。それと…、私の趣味に理解を示してくれている妻に、この場を借りて感謝の気持ちを伝えたいですね。私1人の頑張りだけでは、フェラーリを手に入れることはもちろん、維持することもできませんから。いつか、このクルマで夫婦で旅行に行きたいですね」

憧れのクルマを手に入れることはたやすいことではない。そしてさらに、金銭面や自分自身のモチベーションなどを含めて「クルマを維持していくこと」はさらにハードルが高くなる。そう簡単に叶えられないからこそ夢であり、憧れなのだ。

小学校の卒業文集に「夢はF1ドライバーになること」と記したオーナー。少年時代にスーパーカーブームの洗礼を受け、その後、50年という長い年月を掛け「フェラーリのオーナーになる」、「F1のドライバーになる」という、2つの夢を見事に叶えたのだ!「諦めなければ、夢は叶う」。その想いの強さこそが、運命の1台を引き寄せる不思議な力の源なのかもしれない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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