懐かしさを感じるフィーリングのステージア アクシスを手間暇かけて維持し続ける理由
昭和30年代、小畑さんが小学生の頃は、マイカーを持っている家庭はごく少数で、珍しく特別な存在の“クルマ”は男の子の憧れの存在だったという。
そんな中、父親が小型トラックの運転手だったということもあり、よく助手席に乗せてもらっていたという小畑さんは、コラムシフトをガチャガチャしながら運転する父親の姿を見て、自分も18才になったらすぐに免許を取って運転すると心に決めていたそうだ。
「たまーにおとんがカッコいいクルマを友だちから借りてくるんです。どれもFRでコラムシフトやってね、子供ながらに『ダルマ(MT)よりコラム(AT)のほうがええやん。3人座れるし~』とか生意気なこと言うてましたわ(笑)」と思い出しながら、笑みをこぼす。
その影響もあってか、自分で運転するようになってからもFR車を選ぶことが多く、現在の愛車もFR車だという。
小畑さんの愛車は、2004年式の日産・ステージア アクシス。2.5ℓのエンジンを搭載し、スカイラインのプラットフォームを流用することで、スポーツ性能を高め、ステーションワゴンといえども本格的な走りを楽しめることで人気を得たステージア。
その2代目モデルをオーテックがカスタマイズし、専用デザインのグリル、エアロ、オーバーフェンダー、サスペンションなどによって見た目も走りも磨き上げられたのが『アクシス』だ。
「コーナーを回るときの、後ろからグッと持ち上げてくれる感覚とか、軽くて機敏に動いてくれるステアリング性能もめっちゃ気に入ってます。サスペンションがしっかりしてるから、変にハンドルを取られることもあらへんし。足まわりの乗り味は固めに設定されてるんやけど、その分、高速はしっかり安定してるのがええところやね」
唯一難点をあげるとすればステアリング操作の重さだが、そこさえよく感じる、と目尻を下げてニコニコしながら教えてくれた。
「昭和50年代のクルマってね、パワステなんて付いてなかったんです。駐車しよかな思ったら、めっちゃハンドル切らなあかんし、めっちゃ重いみたいな感じやったんよ(笑)。
アクシスは、そこまでじゃないけど、あの重さの面影はあります。なんせ最初乗った時に『あれ?パワーステアリング壊れてんちゃうかな?』と思ったくらいやから(笑)。でも、慣れていくと、あぁ昔はこんなんやったなぁって懐かしゅうてね」
人の五感とは不思議なもので、最新鋭の機能が搭載され、便利であることだけが“心地よい”ということに繋がらない。そこがまた、面白さでもある。
現に、小畑さんは普段使いのクルマとしてレクサスGSに乗っているそうだが、週末に運転する100km~150km程度のアクシスとのドライブは、レクサスGSでは得ることの出来ない幸福感があるという。
クルマのスペックという目に見える数値ではなく、小畑さんにほっと一息つかせる、何かがあるという。
「最近じゃあ、街中ではほとんど見かけることがなくなってしまったけどね。やけど、僕にとっては、ゆったりのんびりとくつろげて、非日常を作ってくれるクルマです」
定年退職を機に、自然の中でデイキャンプをしたくなったことをキッカケに購入したというアクシスは、間違いなく小畑さんに癒しを与えている。
淡路や舞鶴、天の橋立といった絶景スポットまでクルマを走らせ、キャンプ場で早々に椅子とテーブルを出し、本を読んだり山を眺めたりする。焚き火はせずに、美味しい空気を味わいに行くという表現がしっくりくると笑っていた。
「それが、はたしてキャンプと言えるかは分からんけど」という突っ込を添えて。
今や小畑さんの生活に欠かせなくなったというアクシスだが、たまに大変だと思うことがあるという。
「購入価格と比較したら、維持費がそれをゆうに超えてる。いや、超えすぎてるんです(笑)。
思い起こせば、納車日初日からトラブルやったもんなぁ…。東京から陸送で持ってきたんやけどね、そのスタッフさんに『チャージランプが付いてますよ』と言われたんです。えぇぇ、初日からかーい!って突っ込んでもうたわ(笑)。
愛車として迎え入れてからというもの、エンジントラブル2回、ステアリングブーツのヒビ割れ、リアバンパーとゲート下部の交換、それと……」と次の言葉が出かかったところで、思わず話を遮った。
なぜなら、撮影当日に持参してくださったメンテナンスノートには、まだまだ色々な項目がぎっしり記載してあったのが見えたからだ。平成20年から平成29年までの記録がすべて残っているというメンテナンスノートを抱えながら話す姿は、さながら学校の教授のようだった。
「これを見ると、もともとは兵庫県明石市で買われたクルマやということが分かったんです。でも、僕が買った時は東京におったから、回り回って戻ってきたんです。お前、実は兵庫育ちやったんかって笑ってしまいましたよ。
ノートには平成29年までのことが書いてあって、買ったのは令和元年やから、その間に持ち主が手放したんやろなって思ってます。それまでは、ほんまにきっちりメンテナンスされてるから、僕も頑張らんとね」
その言葉通り、6ヶ月に1度のディーラー点検を今まで欠かしたことが無いという小畑さん。それだけではなく、常日頃から不具合がないかと目を凝らしているそうだ。ダンパーからのきしみ音、ブレーキの効き具合、何かあれば直ぐに気づけるように神経を張り巡らせているという。
実は、小畑さんがそこまでするのには理由がある。純正パーツでノーマルの状態を維持していき、いつかはこのアクシスを神奈川県座間市にある『日産ヘリテージコレクション』に寄贈したいと考えているというのだ。
「モータースポーツで優秀な成績を収めたクルマや、東京オリンピックで聖火を運んだクルマなんかが保管されている場所なんです。僕が乗れんくなったら、そこに飾ってやって欲しいなと思っているから、動くだけやのうて、隅々までキレイにしとかなと思ってね。
まっ黄っ黄やったライトを何度も磨いたり、ダブルコーティングをかけてピカピカにしてます。ガソリンスタンドとかで『20年前のクルマとは思えへん』って、よくお褒めのお言葉を頂くんですよ」
ヘリテージコレクションに展示してある車両の70%は、エンジンがいつでもかかる走行可能な状態に整備してあるとのことで、小畑さんの目にはそこも魅力的に写ったのだという。
「オーテック仕様のオーバーフェンダーがキラリと光るボディは、やはり道路を走ってこそ」とのことだった。
「70才くらいまでは乗りたいなぁと思ってるんです。そう考えると、最後のクルマなんかなって。一緒に楽しもうなって、そんな感じやね」
それまでに、メンテナンスノートはどれくらいのぶ厚さになっているのだろうか?走行距離はどれくらい伸びているのだろうか?
小畑さんとアクシスが、そっと寄り添いながらこれからも穏やかな時間を刻んでいるようすが目に浮かぶ。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
GAZOO愛車広場 出張取材会 in 兵庫
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